今日という善き日に乾杯
翌日。
石川が職場に復帰した。
「お久しぶりです」
職場がどよめく。
「長い間休んでしまい、ご迷惑をおかけしました」
石川が深々と頭を下げる。
再び顔を上げる時、皆の心は一つになっていた。
もしかしたら見間違いであってくれ、と。
その願いは叶わなかった。
石川は一直線にこちらに向かって歩いてくる。
ふわりと長髪が揺れ、遠くからでもシャンプーの良い香りが漂ってくる。
俺の前で立ち止まり、澄まし顔から一変、顔を綻ばせる。
「ただいま」
「お、おかえり」
石川が戻ってきた。
女の姿で。
……。
は?
はぁ!?
理解が追いつかないんですけど!
現在進行系でご迷惑おかけしてるんですけど!?
「ボク――いえ、私気付いたんです。『そういう目』で見られないのなら、『そういう目』で見られるようになれば良いんだって」
何を言ってるの?
やめろ近づくな。
鼻をくすぐる良い匂いで俺を惑わすな。
「ちょ、ちょっと待て。お前、本気で俺に気があったのか!?」
「……昔からこんなダメな自分を気にかけてくれたのは一人だけでしたから……」
頬を赤らめるな。
ポッ、とか効果音を出すな。
上目遣いで見るんじゃない!
どこからともなく拍手が聞こえてくる。
それを皮切りに次々と柏手を打ち、職場内が祝福ムードに包まれる。
「おめでとう」
「おめでと~」
やめて、何この祝福の声!
しかも俺の意思ガン無視で話が進んでいる!
待って、こっちは何も返事してないよ?
「いやぁ最後にいいニュースだ」
「胸が熱くなりますな」
ねぇあなた達さっきまで俺と同じ立場にいましたよね?
困惑の表情浮かべてましたよね?
状況への順応力高すぎませんか。
「実にお似合いじゃないですか、ねぇ!」
「ほらほら皆さん、もっと盛り上げましょう」
囃し立てていたのは吉田と鈴木だった。
お前らかい!
「え? どうしたんですか先輩そんな怖い顔して」
わからいでか!
「まぁまぁ先輩。ここは男として、いえ人類として最後の務めを果たしてください」
「……人類として、ねぇ」
こうして俺は石川と結婚した。
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