第8話 絶望の音

『ヤツの手がかりをつけた!』

『この眼帯見覚えがある!!』

城の客間に眼帯が落ちてあったのを城の護衛が見つけた。間も無くしてこの眼帯をしている者はカムイ王国の冒険者だと判明した。


「スラムのガキ共め、ふざけた真似を。全員生け捕りにしろ。」

 護衛長は眼帯を握り潰しながら命令を下した。


 不安が漂う街、普段よりも人が少なく皆緊張した面持ちをしている。今までの柔らかい日常は二度と取り戻せなくなっていった。



 ちょうど城の演説広場を見渡せる屋根の影にウィルは身を潜めていた。もうこの王国にはいれない、アレン達を巻き込めない。もし匿っていた事がバレればタダでは済まされないはずだ。ここに潜み兵隊の様子を見ながら王国から抜ける予定だ。


『おい、聞いてくれよ、噂になってるみたいだけどお城に眼帯が落ちてたみたいだよ。犯人の物だって、それに眼帯しているのはスラムの冒険者らしいのよ。今兵隊さんが捕獲しに出ているみたい。』


 メインストリートの八百屋のおばさんが大きな声で野菜を買いにきた客と噂話をしていた。

(まさか!?)

 全身から冷や汗が噴き出る、そんなばかな・・・。ウィルが城とは反対方向に駆け出そうとした時だった。


『開けろ開けろ!道を開けろっ!』

 たくましい声が鳴り響いた。そして声の元その光景に体が固まった。6人の仲間が身体中ボロボロになって強制的に歩かされている。先頭のアレンは顔を殴られているのか目蓋が切れて顔が血だらけ、足を引きずっている者や泣いている者も。


(まずい、隙をみて助けに行かなければ。)

ウィルは様子をうかがいながら、屋根を伝って追いかけた。アレン達は城の演説広場に連れて行かれ壇上に一人一人縛り付けられていった。


「処刑?!」

俺たちを匿ったせい?アレン達は俺たちと一緒にいたから殺されるのか?


『君たちに聞く、この眼帯をした者が二人君たちの冒険者パーティにいるな。そいつらはアルテイナの子孫だという事を知っての上で組んでいたのか?』

兵隊長はアレンの顔に近づき眼帯を顔に押し付け質問した。


「だから何だ、俺たちは支え合って生きていただけだ。それにアルテイナの子孫に会ったからといって、お前達王国の犬に報告する責務はない。」

アレンは兵隊長を睨みつけ、痛みを堪えながら、だが少し笑った顔で答えた。


「クソガキが」

兵隊長は長い剣をゆっくり腰から抜き、何の躊躇もなくアレンの右脚を跳ね飛ばした。

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 アレンの魂の叫びが王国中の響き渡る。一人の少年の脚が切り落とされているというのに、観衆はただ冷たい目を向けている。


カウントダウンが加速する。



 俺は全身に呪力を高速で巡らせ、眼帯を下ろした。短剣を抜き怒り身を任せ飛び出そうとした時だった。


「近くに・・近くにいるんだろ!んが・・絶対に来るな!馬鹿な真似は・・するな・・、俺たちを助けようとしても・・お前一人では何もできない・・、お前達と一緒に過ごした・・日々・・・楽しかった。お前には進まなくてはならない道があるだろ!ここで終われない!俺たちの分まで進み続けろ・・お前は死ぬな!倉庫に俺の槍がある、お前が持っていけ・・・」

アレンは残された声を張り上げ血の涙を流しながら空に向かって叫び続けた。

(ああ、生まれ変わってもまたあの部屋でみんなで暖かいシチューを食べよう)


「ガシッッッ」



「お前はすごいヤツだ!認めてやる!だから俺の期待を損ねるような真似をするなよ!立ち止まるな!こんなクソ犬に構っている暇なんてないんだから。」

 レックスは最後まで強気だった、いつもはウィルを認めないでグチグチ言っていたが、正直レックスはウィルにすごく憧れていた。

(次こそお前を超えてやる!)


「ガシッッッ」



「これから苦しい事がたくさんあるかもしれない。怒り、悲しみ・・君なら乗り越えられる!金を無駄遣いするんじゃないぞ!進め!」

 グレンの声は少し震えていた。いつも買い出しの時に野菜や肉を値切っている姿が脳裏に浮かぶ。

(生まれ変わったら皆で探検でもしに行こう)


「ガシッッッ」


兵隊は俺が近くにいると踏んで動き出し始めた。俺は彼らを直視できなかった、ただ屋根の影で背を向け大粒の涙を滝のように流すことしかできない。



「あなたに剣術を教えてもらえて、とても嬉しかった。みんなは私の家族、家族が出来て私はとても幸せ。ありがとう、これからも応援してるよ」

 メイは大人しい妹のような存在だった、皆のことを愛し家族だと言ってくれた。

(生まれ変わっても家族でいようね)


「ガシッッッ」


俺はその場を離れていった。



「ウ、お・・お前なんていつもいつも格好つけやがって、女の子からモテモテで!だけど、ここで諦めるお前は嫌いだ!!お前は最後まで格好つけろぉぉぉ!!!」

 遠くからロッズの張り上げられた声。いつも俺の一つ一つの行動にいちいち文句をつけてくる、お前は最後まで俺にこうしてくれた。

(生まれ変わったら俺はお前よりモテてやる。)


いまはもう離れている城の方向から小さな声が聞こえてくる。



「俺たちの夢の都市へ・・・」

遠くに離れすぎて聞き取れなくなってしまった。

リューズ・・君は希望に満ち溢れた存在だった。徹夜で夢を語り合ったことは忘れない。



カウントダウンが加速する。



 俺は皆を絶対守ると言っておきながら、皆を守れなかった。仲間を失った、俺たちと関わったせいで処刑された。ファルお前は望んでいたのか?これでは母さんの時と同じ状況だろ、どこにいるんだよ、アレン達の思いをお前は聞かずにもう国を出ているのか?



『うおぉぉぉぉぉ』

 雨天の空、どんなに遠くにいても国民の声ははっきりと俺の元へと届いた。


 自分の中で壊れる音がした、仲間の首が次々に斬られていく絶望の音が耳から離れない。心が引き千切られる、心にポッカリと穴があく、その穴を怒りが満たしていく。


 二回目だ、今までの生活はこうして突然無くなった。

ウィルは眼帯から青い炎の呪力が溢れ出ていることに気づかない。

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お尋ね者冒険者が誰かに英雄と呼ばれるまで ロッキーズ @ryulion

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