第82話 エピローグ
奏さんが元の世界に帰って一ヵ月ほど経った。
魔王がいなくなったので俺の勇者待遇はなくなり、報奨金をもらって街で一人暮らしを始めた。自分から申し出たんだけどね。
この世界での不動産事情が分からないので、マスローさんに相談したらそれぐらい用意すると言ってくれた。
それで今、俺はこの一軒家に住んでいる。
元、魔王が住んでいた家で。
「元勇者に元魔王の家をよこすとは……あの糞ジジイども」
まあいいか。
この街に長居するつもりもないしな。
当初、考えてた通り、旅にでも出ようと思う。
「ああ、そうだ……その前に一応、冒険者にでもなるかな?」
俺が独り言を零すとリビングのソファに居座る、女冒険者から声が上がった。
「お? マサト、冒険者になるのか? それならアタシがギルドに紹介してやるよ。今のお前の実力ならいきなり最高ランクに登録できるぞ?」
「……。オデットさん……いつまで王都にいるの? もう奏さんも帰ったんだから、オデットさんも故郷にでも帰ったら?」
「なんだよ、いいだろう? こんな美人が家に来てくれるなんて中々ないぞ? もっと喜べよ。それに、ほら、お前がカナデを元の世界に帰してくれるならアタシを好きにしていいって言ったろ?」
「な!? 何ですか、それ! マサトさん! 不潔です!」
「私もそんな話、聞いていません。マサト様! いくら勇者を引退したからって、世間の目があります! あんまり素行が悪いと、カッセル王国の名も傷がつくんですからね!」
遊びに来ているミアとアンネが、オデットさんの言葉に過剰反応を起こす。
いや、ほぼ毎日、遊びに来ているんだが……。
ミアとアンネは俺が街に家を構えると聞いてからは、ほとんど毎日、ここに訪れている。
ミアは学校帰りに、アンネは仕事帰り?
実はアンネはメイドをするような出自じゃないらしくて、メイドの姿ではないんだよな。
ちょっと、また見たい気もするんだけど、今の私服姿も可愛いから、まあいいや。
因みにマッツも週に一回くらいのペースで顔を見せに来る。
結構、律儀な奴なんだが、最近になって婚約者のレオノーラさんに『魅惑の極楽湯』に通っているのがバレたらしくて、会ってくれないと泣いていた。
あれほど、もう行くなよって言ったのに……馬鹿な奴だな。いい奴なんだが。
ホルストは忙しいのか、勇者のパーティーの中で一番、顔を見せないが手紙は送ってくる。
最近、悩んでいるのが、近ごろ若い娘に後をつけられている気がして、怖い、と言っていた。普通の人が言っていたら、妄想癖のアホだと思うが、ホルストの場合はそれとは違う。
今度、確認してやるか。
どんな子か気になるしな。
2階から降りてきた俺の同居人が仕事着に着替えて降りてきた。
「マサトはもう少し、現状に感謝するべきだな。俺の目から見ても、お前の状況は羨ましいぞ? おっと、もう仕事の時間だ、俺は行くぞ、マサト」
「ああ、気をつけてな、マオ。ああ、そうだ、今夜、お店に顔をだすから、あの料理を用意していてくれない?」
「ああ、分かった。大将に言っておく!」
驚くことなかれ、今、俺はマオと同居しているんだよ。
いやさ、マオの紋章を奪ったあの後にさ、あいつ、行くところがないって言うから、つい、ね。
しかも今、マオが働いているのは俺とマオが初めて会ったお店だ。
「しかし……元魔王と一緒に暮らす元勇者って、シュールだよな」
オデットさんは呆れたようにマオが意気揚々と仕事に出かける姿を見送る。
「まあ、これも何かの縁だしな。それに元々、悪い奴じゃないから。魔王の資格がなくなって生きている魔王なんかいない! これでどこに行けばいいんだ! って、落ち込んでたし、まあ……放っておけなかったしね。俺に責任があるっていえば俺の責任だから」
「ははは、いいんじゃないか? お前らしいと言えば、お前らしい」
マオが元魔王だと知っているのは、ここにいる4人とマッツとホルストだけだ。あ、影丸一家もだな。
俺は奏さんが帰った日の夜、みんなに俺に起きたすべてのことを正直に話した。
もちろん、それで謝ったんだが、みんなは許してくれた。
終わりが良ければそれでいいって。
オデットさんが俺の作戦のことや、マオとの戦いについてフォローするように話してくれたのも大きかったと思う。
普通は激怒されても仕方ないところなのに……俺は仲間の寛容さに心から感謝した。
「ちょっと、マサトさん! 誤魔化さないでください!」
「そうです、マサト様! さっきのオデット様の話の詳しい説明をして下さい!」
俺の目の前にまで迫って来て、怒るミアとアンネ。
「のわ! ご、誤解だよ! オデットさんがからかってるんだよ。そんな約束はないから! それに俺がモテるわけないだろ?」
これは本当に今、思っている自分の評価だ。
俺はこの世界に来て、色々な人に出会って、マオと戦って、以前より等身大の自分を理解したように感じている。
俺は男として……というより一人の人間として、まだまだ、だったってね。
だけど悲観はしていない。これから変わればいいんだから。
「マサト~、そんなことはないぞ? アタシはいつでもいいから」
「なな! 私は許しません! とにかく駄目です!」
「ほら! これはやっぱり私のようなお目付け役が必要なんです!」
「オデットさん、話がややこしくなるからやめてぇ! この二人は純粋潔癖なんだから!」
「あーい」
勇者を引退してみれば、こんなに騒がしい生活になるとは思わなかった。
でも、俺もそろそろ動きだそうと思う。
やりたいことがあるからな。
俺のやりたいことというのは……一言で言うと……。
正義の味方が行く旅みたいなものかな。
モンスターに困っている人たちがいれば助けに行くし、悪党を見つけたら叩きのめそうと思う。
この異世界で悠々自適にスローライフをおくるのもいいけど、俺はその逆をいこうと思う。
誰かが困っている、理不尽なことが起きている、そして、結果、不幸に陥っている人たちがいるのを見つけたら、積極的に関わろうと思っている。
もちろん、本人たちの話を聞いてからだけどね。
ーーーー言うなれば、完全に自己満足の正義の味方になってやろうかな、と。
馬鹿げていると思うだろう?
でも、今の俺にはそれを成すだけの力は持っているんだよ。
もちろん、正体や顔は極力隠していこうとは思っているけどね。
必要ならそこまではこだわりはしないけど。
俺はばあちゃんの言っていたような人間になろうと思うよ。
すぐには無理だけど、少しづつ自分を磨いていこうと思う。
それで納得が行ったら、真剣に元の世界に帰る方法を探そう。
来月には出立したいな。
この家はマオにでも任せればいいか。
因みに俺の能力のすべてが分かった。
今の俺の保持する能力は、
【紋章の支配者】【戦略・戦術師】【強運】【稀代のペテン師】【人たらし】
に加えて、奏さんにもらった、
【剛腕】【疾風】【剣聖】【武技開眼】【体術網羅】【金剛の体】【獅子の心】【心眼】【状態異常無効】【精霊の祝福】【時空魔法】
そして、マオの紋章から得たのは、
【魔力超上昇】【魔力高速回復】【闇の光線】【雷魔法】【炎魔法】【風魔法】【闇属性吸収】【超身体強化】【超成長】【魔物のカリスマ】【魔族のカリスマ】【魔獣のカリスマ】【怒り覚醒】
【不滅のオーラ】
といったところだ。
マオの話だと魔王は勇者と違って自分のスキルがどんなものか分かるらしいんだけど、マオのは本気で怒るまでは分からなかったんだと。
それぞれの能力の内容は……まあ、その内に話そう。
たた、マオの力ですごいところは【超成長】だな。
本当にあのままにしていたら、マオは史上最強の魔王になっていたかもしれんよ。
想像もできないけど。
「今日は、みんなで夕飯食べに行くか! いつもの店に」
「おお、いいねえ。マサトのおごりだろ?」
「わー、行きます、行きますー! あそこの料理美味しいですもんね」
「私は……でも、マサト様が何をしでかすか分かりませんし……伯父様には許可をもらっていきます!」
「よし、それと無理かもしれないけど、マッツとホルストにも声をかけよう。ああ、ホルストは酒は禁止なんだっけ? ま、いっか」
そう決まると、みんな7時にお店に集合と決めて、それぞれのところに帰っていった。
突然静かになって俺はこの友人たちがいてくれてよかったな、と思う。
でも勇者について、こんなことも言われているのも俺は知っている。
勇者は得だ。何の努力もしないで力を得て、お偉方にもすり寄られて、異性にはモテモテ。一度でいいから勇者をやってみたいもんだ、と。
まあ、当たっているところもあるのかもしれない。
でも、これを言う人たちは奏さんのことは知らないだろう。もちろん、おれのことだって。
だから、こういう奴が来たら、こう言ってやってその願いを叶えてやろうと思う。
だったらお前が勇者やれよ! てね。
そして、紋章を貸してやるよ。それでとことん働いてもらうけどね。
まあ、いい。
これから今後の事を考えようと思う。
ただ、今日だけは……
仲間との楽しい時間を謳歌しようじゃないか!
俺はそう考えると、一足先にマオのいるお店に出発した。
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ここまでお読みいただきありがとうございます!
一章の完結です。
今後は少し時間を置いて2章を練りますね。
雅人は旅に出ると言ってますが出るかは分かりません笑
学校に行くかもしれませんし、他の国に出現した魔王に会いに行くかもしれませんし、決まってません(作者が考えてない)。
紋章の支配者。仲間はアカン、スキルは分からん、人違い召喚。でも、たとえクズ勇者だったとしても人に優しくあろうと思うのに遅いということはない。 たすろう @tasuro
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