第56話、気高く美しく燃え盛る、火(カムラル)のごとき魂持ちし少女の物語は、受け継がれ続いてゆく




いつの間にか、朝が来ていた。

あの日のような心地よい光が、目に眩しい。



最期を迎えるのには、いい朝だった。




「…………とまぁ、こんなとこだ。これが私がカリスであり、ノヴァキである理由だな」

「ちょ、ちょっと待って、じいちゃん! なんで最後の落ちがそんな微妙なのさ! ……って言うか終わり? もっと話すことあるでしょ! その後とかさ!」


カリス・カムラル。

かつてそう呼ばれた自分とみまごうばかりの、一人の少女。

その自分偽る病と、重い宿命を背負った少女。



「いや、同じにしては失礼か。お前はカムラルのものの中でも、誰よりも美しい」

「何だよ急に。照れるじゃ……ってはぐらかさないでよ、続き~っ!」


だだをこねる、その様もいとおしく、故に別れがたい。



「話はここでしまいだ」

「……っ」


冷たくにべもない一言。

少女はそれだけで理解しただろう。

表情を凍らせ、しゃくりあげる。


カムラルの宿命背負いしものには笑顔が似合う。

儚く、強く燃え盛るからこそ、心に残したかった。

目の前の少女の、その笑顔を。



「……話を聞いた上で、私にはずっと解き明かせなかった謎があるんだが、聞いてくれるか?」

「う、うん」


半べそでけなげに頷く少女。

それすらいとおしくて自然と笑みがこぼれる。



「サミィは言った。初めて会ったノヴァキに私がこれほどまでに惹かれたのは、同情などではないと。……だったらそれはなんだったのだろう? この身を焦がす強い感情は?」


それは、最期の……少女に対する教えだ。

重い宿命を背負った、カムラル家のものにとって、もっとも必要なもの。

真剣に問いかけると、少女は笑った。

こっちも嬉しくなるほどに華びやかに。


「そんなの……決まってるじゃん。一目惚れだよ、一目惚れ。好きだったんだ。恋しちゃったんだよ」


本当に楽しそうに。

これから来る悲しみを奥へ奥へ隠して。

それはきっと、彼女のやさしさだ。



「そうだったのか……初めて知ったよ」

「嘘だよ。だって知らなきゃ……」

「だからお前は美しいのだな。誰かを愛することに、気付くことができたのだから」


病に打ち勝ち、自分の魂の赴くままに。

オレはそれができなかった。

だからそれがうらやましくて、誇りに思える。


言葉を塞ぐようにしてそう笑うと。

燃え盛る炎も暮れの日も及ばぬほどに少女は赤くなった。

赤面症は家系らしい。



「私は知っているよ。そのけしからん相手を」


何せ惚れ方が同じだから。

そう言って意地悪く笑うと。


「いい! 言わなくっていいって! ちょ、ちょっと水変えてくる!」


人生の中でもっとも輝いているだろう表情を浮かべて。

恋する少女は部屋を出て行く。


その場にはただ静寂だけが残されて。



「……これでいい。ようやく会いにゆける」



オレは目を閉じたのだった。


生をまっとうできたと。

その価値はあったと。

愛しい人に伝えるために。



「……」


そっと、瞳を閉じる老人。

二つの名を持ち、二つの人生を生きたもの。

その、価値ある生を如実に表わすがごとく。



薄日に照らされ、永久の眠りにつく姿は、幸せの笑顔に満ちていて……。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

きっと、出会ったその瞬間からホワイトフラッグ~Quality of Life~ 陽夏忠勝 @hinathutadakatu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画