第2話 果肉

目を開けると、見慣れない部屋にいた。

木目が連なる天井、畳の匂い

ライトブルーのシーツがひかれた、さらさらの布団。新品の匂い。



周りをゆっくりと見渡してみた。

あ、カモミールの匂い。

不思議と怖くなかった。知らない人の部屋にいて、なぜ怖くなかったのかと問われれば

自分でも理由はわからない。

でも本当に、なにも、怖くなかった。

ゆっくりとふすまを開けると、フローリングの床が広がっていた。視線をずっと右にうつすと、小さな木製のテーブルが見えた。

その向こうに茶色いレザーのソファが。


そこに、男は腰を下ろしていた。


雨の中で見た、濃紺の瞳(め)。一重まぶたの三白眼は、一見すると良い印象じゃない。


「カモミールの匂い」

とっさに出た言葉は、初対面の人間に対する言葉として、かなり唐突なものだった。


バカなのか。あたしは。いや。。。まぁバカだけどね。

沈黙の時間が流れる。


次の言葉に迷っていたあたしに

「カモミールティー」

男は小さく呟いて、茶色い熊の絵がかかれた大きなマグカップを、唐突に差し出してきた。


鼻に優しく入ってくる、カモミールの匂い。

ほんの少しメンソールのような、清涼感がある。


あたしはそのライトグリーンの液体を、なんの躊躇もせずに飲んだ。


「おいしい」

見ず知らずの人間からいきなり差し出された液体を、なんの躊躇もせずにのんだあたしを


男は面白いと思ったのだろうか。

少しだけ、意外そうな顔をして、ふっと笑った。


なんであたしはここにいるんですか。

なんであたしは男物のスウェットを着ているんですか。

あなたは誰なんですか。


いろいろな言葉が頭を巡ったけれど、どれも口にはしなかった。

目を閉じて、布団に横になった。

もしかしたら、夢かも知れないし。実はあの雨の中であたしは死んでいて

目を覚ますことは2度とないのかもしれないし。


「ポトフみたいなもの」

ふすまが開き、男があたしの枕元に、白いプラスチックの椀に入った

「ポトフみたいなもの」とペットボトルの水を置いた。


死んでなかった。

生きてるっぽい。生きて、誰かの部屋で、「ポトフみたいなもの」をご馳走になっている。


ウィンナーとキャベツと人参と

ジャガイモにも見えるような、さつまいもにも見えるような、白い塊が顔を出している。


ぱりっとウィンナーを噛む。熱い肉汁が口から飛び出し、唇をやけどする。


痛い。。。

なぜかあたしは泣いていた。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スムージー 苺パンツちゃん @ichpan1201

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ