回廊の隠し扉

ーー地下回廊の先には、シンデレラがいる。



“強欲の騎士”レオナルドの言われるがままに、俺達は再び地下回廊を歩いている。


スケルトンの小隊と何度か遭遇したが、レオナルドや連れの女達が戦うことはしない。基本的には、戦闘は他の人間に任せるつもりらしい。


レイシーは街で調べ物をすると言うので、別行動を取ることになった。レオナルドによると、地下回廊の攻略には、その方がむしろ都合がいいらしい。


地下回廊はどこまでも続く。


ローズによれば、半日を費やしても終わりが見えなかったらしいのだから、かなり長い道のりになりそうだ。


「本当にいるのかネ。ここまでの労力と時間を費やして、無駄骨というのだけは勘弁ヨ」


李が悪態をつく。


無駄骨とスケルトンをかけているのか、気になるところだったが、そこはあえて触れないでおこう。


「間違いない。シンデレラはいる」


このダンジョンの名前にもなっている少女、シンデレラ。


御伽噺では、“シンデレラストーリー”の語源にもなった出世街道を駆け上がり、蔑まれる身分からプリンセスへと変身を遂げるダイヤの原石だ。


レオナルドによると、シンデレラと呼ばれる少女がこの回廊の先に幽閉されており、彼女こそがダンジョン攻略の糸口なのだと言う。


「根拠が乏し過ぎて、正直話にならんネ」


そう言いつつも、レオナルドに従う李も、何か思うところがあるのだろうか。


回廊は本当に長い。


ローズは半日を費やしてこの回廊の探索を一人で行ったらしいが、尊敬の念すら抱く。肉体的にも、精神的にも、過酷すぎる。


スケルトンは際限なく現れ、回廊の闇は一層深く染まる。闇だけは深まる一方なのに、景色は一向に変わらない。正直、気が狂いそうだ。


こんなことを半日も続ければ、俺なら心が折れてしまうだろう。李もローズに対しては信頼を置いており、“教団”の中でも手練れの類に入るのだろう。


「ここだ」


レオナルドが立ち止まった。


まだ回廊は続いている。

まだ二時間も経過していないはずだ。


「何のつもりだネ」


レオナルドが壁際に立つ。


何かを探るように壁を指で撫で、そして、指先で何かを押し込んだ。壁に溶け込んだスイッチのような何かを。


壁が音を立てて動き出す。


壁が開けて、地下へと続く階段が現れた。いわゆる、隠し扉だ。


「これは気づきませんでした」


ローズが感心したように唸る。


目印になるようなものなどは、一見すると見当たらなかったが、よくもこんな扉を発見できたものだ。


「この先はどうなっているのですか」


「階段が二手に分かれる。まあ見れば分かる」


レオナルドを先頭に地下への階段を降りていく。“灯台”の明かりが無ければ、完全な暗闇に包まれているはずだ。


レオナルドは立ち止まる。


彼が事前に言っていた通り、階段は踊り場のところで二手に分かれている。


「行き止まり……?」


「よく見ろ」


石の扉が二手に分かれた通路の先にそれぞれ設置されている。足場にも何か仕掛けが施されているように見える。


「扉の前の足場が巨大なスイッチになっている。仕掛けは簡単だ」


レオナルドがそう言うのを待っていたように、連れの女二人が前に出て、という足場の上に立った。


それぞれの足場が数センチだけ沈むと、目の前の石の扉が持ち上がった。


女のうち、片方が足場から退くと、扉はドシンと大きな音を立ててまた閉まった。


「同じくらいの体重が両方の足場に乗っているときにだけ扉が開く仕掛けだ。足場は先まで連動していて、両方の足場の均衡が崩れると扉、というよりは、天井が落ちる」


ようやく、彼が攻略を断念していた理由が分かった。


彼は続ける。


「俺一人ならどうにかなるが、もう片方を彼女らのどちらかに委ねられなくてな」


時は満ちた、とはこのことだったのか。


「つまり、同じ人数でそれぞれ挑む必要があるということネ」


「その通りだ」


李のパーティとレオナルドのパーティで、自ずと構成は決まる。


李、ローズ、俺。

レオナルドと女二人。


この二組に分かれて、この先は行動することになる。


レイシーが別行動を取るほうが都合が良いというのは、この人数合わせのためか。


「おそらく、先で合流できるとは思っているが、確証は無い。ここからは魔導書を介して通話する」


李とレオナルドが魔導書を通話モードに切り替え、それぞれが定位置に付く。


全員が揃うと扉が開く。よく見てみると、扉が開くというよりは、天井が上下することで進路を開いたり塞いだりしているようだ。


「極力、ジャンプはすんなよ。どこまで繊細か知らんが、両者がペチャンコになり得る」


俺達は二手に分かれて先へと進んだ。


前方にスケルトンの気配は無い。今のところ、襲撃の心配は無さそうだ。


「ローズ、どう思うネ」


「まだ何か隠しているように思います」


レオナルドと別れるなり、李とローズが不穏なやりとりを始める。


魔導書の通話にはミュート機能も備わっているらしく、レオナルド側には声が聴こえないようになっているようだ。


「この先にシンデレラがいて、そのシンデレラが鍵を握る……この情報の出何処が全く分かりません。何か根拠があるとは思いますが」


「つくづく信頼ならない男だヨ、奴は」


レオナルドという男を信用していないのは、李やローズも同様らしい。


何か企んでいる。

そんな気配すら感じる。


「おっと」


先頭を歩く李が立ち止まった。


「合流は無かったようだネ。当たりを引いたのはこちらみたいだヨ」


前方に見える鉄格子。

その中に酷く汚れた格好の少女が一人。


「彼女がシンデレラ……」


李が頷く。


シンデレラ。

このダンジョンの鍵を握る少女がそこにいた。

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