エピローグ

 困惑している二人を置いて、村人たちも、この状況を理解し始めたようです。


 ポカンと口を半開きにしている二人が、周りの村人たちに押し出されるようにして、広場の中央へとやって来ました。


 そして、まだ口を開けたままの二人の許に、セドルフさんとマリーさんが歩み寄ります。セドルフさんとマリーさんの表情は、先ほどとはうって変わって、真剣な顔つきに。


「ルナ、フラン。お前たちは、素晴らしい未来という大きな門と、それを開く鍵である、勇気を秘めている。足りないのは、その門を開く力だ。……あの二人に頼んで、力を手に入れるための旅に連れて行ってもらう気はないか?」


 セドルフさんがそう言うと、ようやく、ルナさんとフランさんの顔つきが変わりました。状況を把握したみたいです。


「私は……行きたいです」

「ルナが行くところなら、僕も付いて行くよ」

「そうか。わかった」


 セドルフさんは次に、私たちの方を向きました。


「ということなんだが、私の娘、ルナと、その友人、フランを頼んでもいいだろうか」

「私はむしろ嬉しいくらいですけど。どうですか?ユーリさん」


 ユーリさんは左手をアゴにあてがい、少し考え込んでいました。ダメ、なんでしょうか……?


「ルナかフランのどちらか、料理はできるか?」


 んんっ? 料理?


「あ、僕は一人暮らししてたんで、一応できますよ」


 フランさんが律儀にそう答えました。


「じゃあ、食事には困らないな……。よし、愛美もルナやフランと一緒に居たら楽しいだろうし、引き受けます!」

「そうか! ありがとう! ユーリ君、頼んだぞ」

「はい、危険な目に遭いそうになれば、全力で回避しますのでご安心ください」

「そんなに心配はしてないさ。君なら半端な危険くらい蹴り倒せるだろうからな!」


 どうやら、この前の戦いでユーリさんがオークを蹴り倒していたことを言っているみたいですね。まぁ、私もユーリさんに助けられた経験がありますから、安心できることは保証しますね。


「ありますございます! ユーリさん!」

「ありがとうございます!」


 二人はユーリさんにお辞儀をしました。


「そうと決まれば、二人の荷造りをしないとだな……」

 ユーリさんがそう呟きました。

 すると、横からマリーさんがでてきて、

「大丈夫ですよ。お二人の荷物は既に馬車の中に積み込んでいますから」

「あ、そうですか」


 やっぱり、さいしょっからこのつもりだったんですね。私は少し、控えめに尻尾を振りました。


「では、もう出発されると思いますが、愛美さん、最後にこれを」


 そう言って、マリーさんが懐から取り出したのは、紐でくくられ、ネックレスになったオパールでした。


「あ、ありがとうございます!」

「いえ、旅の御守りですから」


 貰ったネックレスを首に掛け、宙にかざすと、虹色の光が輝いて見えました。


「さぁ! ユーリさん、ルナさん、フランさん! 出発しましょう!」

「あぁ!」

「はい!」

「うん!」

「頑張ってきなさい……」

「帰りを楽しみに待っています……」


 セドルフさんとマリーさんは、子を送り出す親の表情をしていました。


「三年を目処に、ここに戻って来ようと思っています。それまでお元気で!」


 馬車に乗り込みながら、ユーリさんは村の人たち全体に、そう言いました。

 それに、待ってるぞーー! と、何度も叫んでくれた村人たち。その声に、私たちはたくさんの元気をもらいました。



 こうして、私たちは、意外と馬術を扱えたフランさんと、レナードさんのような才能を秘めたルナさんを仲間に加え、新たな旅へと、出発しました。


 それから私たちが、博愛の医術士として語り継がれていくのは、また別のお話です。

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異世界に猫として転生したのですが、イケメンさんに拾われちゃいました 九里 睦 @mutumi5211R

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