異世界転生したら、元の世界のある「神様」の人生をなぞる羽目になりました

@HasumiChouji

異世界転生したら、元の世界のある「神様」の人生をなぞる羽目になりました

「あ〜、すまんが、そなたが死んだのは儂がやらかした手違いのせいじゃ……。設定が矛盾だらけの世界を作ってしまったもので、辻褄合わせの現実改変をやっておった時に……まぁ、その、ちょっとな……」

 1人寂しく受験合格をお願いしに初詣に行く途中に、何故か、突然現われたブラキオサウルスに踏み潰されると云う、何が何だか訳が判らない死に方をしたボクは……H・R・ギーガーって名前だと思うけど、ともかく何かのホラー映画に関わった昔のイラストレーターだか何かがデザインしたとしか思えない禍々しい場所に居た。

 目の前には、クトゥルフ神話の化物にしか思えない自称「神様」。

 何だよ、この、ビジュアルは異常極まり無いのに、展開だけは安っぽいラノベみたいな状況は……?

「なるほど、異世界転生が望みか……。わかった、今、適当な『異世界』を作る」

 ちょっと待って、異世界転生モノの「異世界」って、その都度、作られてたの?

 しかし、この神様が作る「異世界」って、どんな異常な代物に……。

「安心せい。そなたの世界も……他の『異世界転生』を望んだ奴の為に作った『異世界』の1つじゃ。気付いておらんかったのか?」

 ……。

 …………。

 ……………………。

 えっ?

「そなたの想像力の範囲外の『異世界』には成らんので、まぁ、気を楽に持て」

 なるほど、異世界転生もののラノベそのまんまの世界が出来る訳か……。

 そう言や、初詣に行こうとしてた神社に祀られてる「神様」って、ラノベのジャンルで言えば……。

 後から思うと、この時、そんな余計な事を考えたのが運の尽きだった。

 初詣に行こうとしていた神社は……。


 目の前に居たのは、この手の話の「王様」そのまんまの姿の王様。

「異世界より転生した勇者よ。悪役令嬢の成れの果てであるクレイジー・サイコ・レズの魔女に誘拐された我が娘を取り戻して来てくれんか?」

「は……はい……」

 転生した途端、本当に、ボクの想像の範囲外のモノが何1つ見当らないお城で、色んなオタク向けコンテンツを適当にごちゃまぜにしたとしか思えない命令を受ける羽目になった。

 ええっと……ボクって、オタクとして、ここまで浅いヤツだったっけ?

「父上……このようなどこの馬の骨とも知れぬ転生者風情に、我が妹の奪還を命じるなど……」

 突然、そう言い出したのは、ファンタジーっぽい格好で、それっぽい口調なのに、何故か、EXILEあたりのメンバーに居ても違和感が無いパリピとかウェ〜イ系とか、そんな顔と雰囲気の若い男。

 どうやら、この国の王子様……そして、救出対象のお姫様の兄さんらしいけど……。

 何かが引っ掛かる……。

 この世界には、ボクの想像の範囲外のモノが無いのなら……何故、ボクは、こいつを「想像」したんだ?


 マジでボクの想像の範囲外のモノが見当らないこの異世界で、ストレスにならない程度のスリルに満ちた冒険の後、ボクは魔女に攫われたお姫様を奪還し、英雄扱いされ、お姫様と結婚し、子供も生まれ、平穏な人生を……送っていた筈だった、王様が死んで、王位を義理の兄が継ぐまでは……。


「証拠は上がっておるぞ。下賤な転生者の分際で、余を暗殺し、この国を乗っ取ろうとするなど、不届き千万ッ‼」

「ええっ? ちょっと待ってよ……ボクがそんな事をする訳が……」

「申し開きは牢獄の中でやれ……」

 牢獄の中で受けた拷問は、ボクの想像の範囲外のモノなど何1つ無かったにも関わらず、ボクは何1つ真実が含まれていない「自白」をしてしまった。

 これだけは、自分で想像してたよりも、はるかに、あっさりと……。


 かつての英雄であったため、ボクは、死刑だけは免れたが、愛する妻や子と引き離され、辺境で……あと何十年続くか判らない余生を送る事になった。

「あの時……余計な事を考えなきゃ良かったのかな……?」

 元の世界で、死んだ時、初詣に行こうとしていたのは……太宰府天満宮だったのだ……。

 菅原道真の人生って……ラノベに喩えると、追放ものだよね……。

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