それから

 かくして、僕は晴れて彼女と付き合いだした。

 でも、やっぱり、このことは誰にも言えない。

 僕が彼女を好きだなんて言えないし、ましてや、彼女が僕を好きだなんて。

 袋叩きにあいそうだ。


 実際、彼女がなんで僕なんかを好きなのかは大いなる謎だ。

「なんで、僕なんか」

「僕なんかなんて言わない」

「だってさ。顔が良いわけでもないし。勉強ができるわけでもないし。面白いわけでもないし」

「はあ」

 呆れたように彼女が溜め息をついた。

「どっちかっていうと、暗いし……」

 自分で言ってて悲しくなってきた。

「ねえ、理由って欲しいの?」

「え?」

「好きに理由が必要なの?」

 理由、いや、だって、気にするよ。

「斉藤くんはなんで私が好きなの?顔?性格?」

 うん。顔も性格も。

「じゃあ、顔が悪かったら好きじゃないの?性格がひねくれてたら好きじゃないの?」

 え、正直言うと、そうかもしれない。

「私はどんな斎藤くんでも好きだよ」

「……」

「ただ、好きなんだよ」

 ああ、自分の好きがめちゃくちゃ汚れている気がする。でも、そんなふうに言ってくれる彼女がすごく好きだ。

「ねえ、私の好きになった人を馬鹿にしないで」

「……うん」

 彼女が僕の腕をポンっと叩いて、綺麗な瞳でウインクをした。

 ――そうだね。僕はもっと自分に自信を持っていいのかもしれない。


 迎えた文化祭の日、写真部の展示室の一角、彼女の撮った写真が飾ってあった。

 タイトルは「真昼の海」。太陽の光をキラキラと反射する海を背景に、僕の姿がしっかりと映っていた。なんと副題は「First Date」。

 みんなの視線が痛い。


 僕が彼女に恋していることは、誰にも言えないと思っていた。

 僕と彼女が付き合っていることは、誰にも言えない――そう思っていた。

 でも、僕は僕が思っているほどに悪くないのかもしれない。

 その写真の僕は、砂浜を踏みしめるように、しっかりと両足で立っていた。


 僕は、後ろ手に持っていた僕の写真を彼女の写真の横に飾った。

 タイトルは「黄昏の海」。

 そこには、薄く紅色に染まった海を見つめる彼女の横顔があった。


 そう、自信をもって、言ってやる。

 僕が彼女を好きなこと。彼女が僕を好きなこと。


 ――でも、僕だけが知っている彼女のことは、誰にも言わない。


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誰にも言わない 萩野 智 @Naotomo51348

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