歴史はわからせる

 週刊誌で、ヤリサーの件が暴露されたのは、それから一か月後のことだった。


 まあ、ここに至るまでに、実はいろいろあって。

 実はあの乱痴気騒ぎの後に、すぐさま現職衆議院議員の不祥事が発覚した。その内容は、未成年との淫行。相手は高校一年生だったりする。


 恐ろしいことに、この事件がヤリサーと無関係ではなかった。ぷよぷよもびっくりの連鎖だよ。


 まず、タイーホされた衆議院議員はこの大学の卒業生で、ヤリサーから接待を受け見返りに便宜を図っていた黒幕のひとりだった。

 そして高校生との淫行なのだが……実は、この大学のヤリサーって、高校時代から半ばスカウトみたいな形で女子を集めるらしいんだよ。もちろん行為が大好きなビッチどもをな。

 もちろん金だったり、大学卒業時の就職あっせんだったりとかの見返りは準備する、ということで。


 すげえな、乱痴気エスカレーターシステム。


 ま、そんなシステムがあるからこそ、政治家、いや性事家のセンセイもさ、先物取引よろしく熟れる前の果実を味わいたかったんだろうな。政治家としては、この先生きのこれなかったけどさ。


 ちなみに、淫行がバレたのはなぜかというと。


 残念なお知らせだが、その淫行相手JKがちょっとだけオツムが足りなくて。

 SNSに『政治家の○○センセ、粗チンだし早いしサイテーだった』なんて書いちゃったもんだから、驚くほどの速さで拡散され大騒ぎになったから、だ。


 で、真偽のほどを確かめるというよりも、裏付けをとることが進められ。

 その中でヤリサーが案の定絡んできて、関連人物が一網打尽に糾弾されましたとさ、めでたしめでたし。


 その政治家のセンセイは、しばらくの間『粗チンでそーろー先生』と陰で揶揄されっぱなしだった。当然議員は辞職。

 天網恢恢疎てんもうかいかいそにして漏らさず、というよりも、援交快快粗チンで漏れ出す、って感じだな。せーしと一緒に秘密まで漏れちゃった。


 もろちん大学も無傷では済まず、学長は更迭、理事長も辞任。ヤリサーからは退学者多数、話したこともないやつの姿もかなり消えていた。

 俺が大学入学してまだ一か月も経ってないのに、なぜか一足早いゴールデンウィーク・延長版の到来だよ。


 ああ、ちなみに坂本先生はすっぱ抜きスクープみたいな記事を任され、風俗ライターみたいな仕事から卒業できたらしい。今は発行部数それなりの多さを誇る、普通の週刊誌編集部に在籍している。

 お礼として飯おごってもらったけど、はじめて食ったなあ、『処女苑』での焼肉。こっちに来てから外食なんて、安上がりなラーメンチェーン『快楽苑』にしか行ってなかったからな。苑、しか合ってねえ。


 ちなみに処女苑とは、ヴァージニア産の若いメス牛の肉しか使わない焼き肉店だ。俺の一か月の食費分が一回で消え去るほどの高級店。

 もう二度と行くことはないだろう。二度も三度もイケるのはヤリチソパンツマンだけだ。


 あと最後に、吉崎さんなんだが。一時期すごくショックを受けてふさぎ込んでいた。


 というのも、政治家さんと淫行したJKが通っていた高校が、吉崎さんの卒業校だったのよね。

 母校も今現在在籍している大学も乱痴気の波にのまれてしまったわけで、吉崎さんの心中は察して余りある。というか俺と同じ境遇だし、俺にしか吉崎さんの心中はわからんかもしれんけど。


 で、正直なところ何もすることがなかったので、予定外の連休の間に俺は吉崎さんをメッセージや通話でたびたび励ましてあげた。

 最初はびくびくしながら俺と話をしていた吉崎さんも、今はだいぶ心を許してくれたと思う。


 吉崎さんと仲良くなれた、これだけが収穫だった。


 ま、だからといって、あんな事件の後に突き合おう、じゃなかった、付き合おうなんて言えるわけないわな。吉崎さんがフラッシュバックにさいなまれちゃう。


 傷が癒えたら、お互いに。それまで待とう。うん、俺って思いやりができる男。



 ―・―・―・―・―・―・―



 そうして少しの時が過ぎ、世間のワイドショーから、ヤリサーの話題も放送されなくなってきたころ。


 郵便局のセクスパックで、薄い荷物が、俺のアパートに送られてきた。


 なんじゃこりゃ、と思って差出人の名前欄を見てみると、そこには驚きの文字が。


『川上 謙信』


 俺がセクスパックの包装をゴーカンマよろしく引き裂き、丸裸にすると。

 中から出てきたのは一枚のブルーレイディスク。


 そして、そのブルーレイディスクには、メッセージがマジックで書かれていた。


『同じ科のやつらと見てくれ』


 ……はぁ?


 何やらメッセージというか、現状報告みたいなものが録画されてるんだろうか。

 謙信、俺にも同じ科のやつらにも何も言わず退学しちゃったしな。


 ふむ。

 そうすると、やはりこれは吉崎さんと見るのが正解だろう。だって俺んち、ブルーレイ再生できるような機材、PCすらもねえし。

 ひょっとすると、これを口実にして吉崎さんの部屋にお邪魔できる可能性も……


 ……よし、善は急げ。吉崎さんも謙信のことが気になってるはずだし、さっそく伺いを……



 ―・―・―・―・―・―・―



 吉崎さんへ聞いてみると、あっさりOKが出た。

 ただし、今日はダメ、二日後ならいい、とのことだったので、ブルーレイディスクが届いてから二日ほど待って、吉崎家を訪問する。


 ちょっとだけ吉崎さんの部屋にお邪魔してドキドキ感はあるけど。


「川上君、元気かなあ……」


「まあ、生きてることだけは確実だと思う。とりあえず再生してみようよ」


「うん」


 今日の目的はあくまでブルーレイの確認。

 ぽちっと再生して、あとはそれからだ。


「……」

「……」


 二人、少しスキマを開けつつ並んで、ディスクが再生されているPCの画面を凝視する。


 やがて、なにやらエヴァっぽいロゴが画面いっぱいにドドーンと。



『獅子鳥蜜音をわからせたい』



 ……は?


 二人仲良くあっけに取られていると、やがて映像が映し出され。


『……なによ、もう面倒くさいなあ。いいからとっとと撮影終わらせて解放してよ』


 そこには、なにやら下着姿でけだるそうにしている、セクシー女優らしき人物が映し出された。


「……笹島!?」

「み、光音!?」


 忘れるわけがねえ、あの乱痴気で乱痴気だった頭が乱痴気の乱痴気退学者、乱痴気蜜音だ!!

 あいつ本当にセクシー女優になったんかーーーーい!!


 そういや、乱痴気にくらべればどうでもいいけど、ああ、本名が光音だったなあ、と吉崎さんの叫びで思い出した。蜜音と光音ではアクセント違うからしゃべればわかるだろ、知らんけど。


『さあ、きょうはデビューして飛ぶ鳥を落とす勢いの人気を誇る、獅子鳥蜜音をわからせるチャレンジだ! しかし、蜜音はビッチオブビッチともいえる、マン戦練磨の床JAWSジョーズ! 果たして今日のチャレンジャーは食物ならぬイチモツ連鎖の頂点に君臨する女優に食われてしまうのか、それともその立派なモリでヒィヒィ言わせられるのか、どっちだ!』


『……わたしに勝てると思ってんの、そのチャレンジャーは? 身の程知らずね、五秒で終わらせてあげるわよ。いいからとっとと呼んできて』


『おおっといつになく強気な蜜音! だがしかし、今日のチャレンジャーもAV業界でデビュー後、わずか数か月でトップ男優の座をつかんだ性器末覇王、とっておきの漢だ! 果たしてどんな好勝負が見られるのか、注目だァァァァーーーーッッ!!』


 暑苦しいわこの司会が。

 AVにそんな要素求めてる人間どんだけいると思ってる。ドン引きするわ、単なる企画ものだな。


 ま、蜜音がこの業界で元気にしてることは分かった。じゃあ消そうか、なんて思ってたら、そのあとにこれ以上の衝撃がぶっ飛んできやがった。


『今日のチャレンジャーは、秘孔ならぬGスポットを的確に攻め、いくつもの女優をマラ先ひとつで完堕ちさせた期待の大物だ、その名も山下信玄やましたしんげん!!』


『…………えっっっっっっ!?!?』


 男優の姿を確認したらしい蜜音が、画面の向こうでマジ驚愕の顔をする。


『な、なんで……ここに……』


『……久しぶりだな、蜜音』


 そして俺と吉崎さんは。


「「はぁぁぁぁーーーーーー!?」」


 叫び声が1フレームの誤差もなくシンクロした。


 男優が、男優が……謙信じゃねえか!!

 なんだよあいつ、大学退学して男優になったんかーーーーい!!


 もうツッコミどころだらけで、ツッコむ気すらなくなったわ。


『う、うそ、なんで……しかも、そんなに、大きい……』


『ふっ、アナボリックステロイドでサイズ増強、炭酸修行で持続時間すらも克服した今の俺に死角などない。さあ年貢の納め時だ、覚悟しろ蜜音』


『あ、ああ、ああああああ……』


『悔しかろう、悲しかろう? あの時見下していた男に……おまえは今日、わからせられて、しかもそれが世間に知られるんだからなァァァァ!! さあ復讐の時間だ!!』


 どうでもいいけど炭酸修行ってそんなに効果あんのか? びんかんな先っちょを炭酸につけるとかのあれだろ?


 なんて疑問は浮かんだけど、とりあえず吉崎さんの前なので黙った。


 ちなみにそのあと、蜜音は謙信にわからせられっぱなしで、最後は干からびてくさやの干物みたいになってた。おいにぃきつそう。

 ぶっちゃけ勃つのをこらえるより、笑いをこらえるほうでいっぱいいっぱいだったわ。


 ただ、思わず最後まで見てしまったことだけはちょっと後悔。

 吉崎さんは顔を赤くしながら下向いちゃったし。


「……」


「あ、ご、ごめんね吉崎さん。結局最後まで見ちゃって、ははは……」


 ……およ、なんでそこで吉崎さんが上目遣いをしてくるの? しかも目を潤ませて、身体をくねくねさせて?


「……藤川くんは」


「う、うん? なに?」


「わたしを……わからせたいとか、考えたことある?」


「はぁ!?」


 突然の吉崎さんの発言にビビった。


「え、えーと……」


 どうする俺、わからせるって何をだ? 乗るべきかこのビッグウェーブに。

 いやしかしここは吉崎さんの実家、おそらくほかに家族もいるだろうし……


「今日は、誰も家にいない、から……」


「おうふ!!」


 誘われてるよな、これ絶対誘われてるよな!?

 いやでももしここでやったとして、きっかけが謙信と蜜音の出演するAVを見たからなんて、最上級にむなしくないか!?


 ……さあ、どうする俺。男を見せるか、オトコを捨てるか。間違いは許されないぞ。





 ────── カクヨムコン始まったので第二部完 ──────



 いやもうこのあたりが限界でしょう

 さすがに最初の頃のパワーは失われつつあります


 カクヨムコン終わって、また機会があればお会いしましょう

 お読みいただいた方々に最大級の感謝を!

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好きだった女子と妹が不特定多数と乱痴気騒ぎしていた現場に遭遇したので、縁を切ろうとしたらすり寄られた。でももう遅い。 冷涼富貴 @reiryoufuuki

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