girls side

 これは今日のお昼頃、たまたまあったことですけれど、わたしは何か不思議なものを拾ってしまいました。不思議なものというとなんだかハッキリとしませんが、なんというか全体に、モザイクがかかっているのです。

 この正体が何なのかはわかりません。偶然渡り廊下の下に落ちていたのです。わたし以外の周りのみんなは、これに気づいていないみたいでした。

 わたし自身、なぜ拾ったのかはわかりません。でも、何か――そう、誰かにとって、これはとても、とてもとても大切なもののような気がしたのです。それが誰かも、皆目見当もつきませんが。

 どなたかにきいてみるべきでしょうか。わたしはただ考えます。考えながらそっと、少し指で触れてみます。どこか柔らかく……まるで生きているような印象です。時折硬くなるような気もします。しかし、これが何か、明確な答えは返ってきません。硬くなったとしても、またすぐに元に戻ってしまうのです。


 全てが謎のまま、翌日、わたしは学校に向かいました。そしてわたしが学校に着くのと同じくらいのタイミングで、ホームルームの始まりのチャイムが鳴ります。例の奇妙なものはいつでも取り出せるよう、ちゃんと制服のポケットに入れてきました。いつ落とし主が現れてもいいように、です。


「ああ、山口さん、ちょっと」


 ふいに、校長先生に呼び止められました。わたしは振り返ります。そのまま校長先生は、にこやかな表情で頭を下げられました。


「いつも校舎を掃除してくれて感謝しています。山口さんがこうして掃除してくださるお陰で、今日も生徒たちが気持ちよく勉学に励めますからね。ところで山口さん。先々週にお孫さんがお生まれになられたと耳にしましたが、もう直接お会いになられましたか?」


 わたしはモップを手に、軽く微笑んで頷きます。


「ああ、はい、お陰様で。お嫁さんに似た、可愛らしい女の子でしたねぇ」


 そんなわたしの言葉に、校長先生は自分のことのように喜んでくださいました。

 そのまま少し話したあと、わたしはいつもの掃除の仕事に戻りました。ポケットの中の感触をもう一度だけ確かめ、もしかしたら今日これから、現れるかもしれない持ち主のことを考えます。


 一体これは、なんなのでしょう――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ついてない男はついてない 枢 公一 @kanamekoichi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る