ついてない男はついてない

枢 公一

紛失

「やっぱりついてねぇ……」


 俺は昼休み、学校の個室トイレで自分の身体を眺めながら、ぼそりとそう独りごちた。

 最初は目を疑った。それから15分ほど放心していたのも事実。しかし、ついてないものはついていない。だからいい加減、現実を受け入れるべきだ。無理やりながら、自分にいい聞かせる俺。


 ――そう。ある日突然、俺の股間にあるはずのものが


 これが漫画や小説なんかだと女体化しているとかいうパターンもあるかもしれないけど、俺の場合は違う。単純についていないのだ。ない。何もない。つるんと手が滑るだけで、そこに何もないのである。

 まさか俺が知らなかっただけで、女子はみんなそうなっているのだろうか。ならばおしっこするときはどうしてるのだろうか。クラスの女子に訊くべきか否か。――いや、冷静に考えてみれば、そんなもん訊けるわけもないだろうと思う。当然、胸が膨らんだりとかいう現象もなかった。


 俺はさんざん悩んだ挙句、まずはトイレから出た。このままここにいたところで何も変わらない。まだ思考は混乱中だったが、最初にやるべきことはわかっている。捜索だ。捜索するのだ。俺の股間を。


 もしかしたら、どこかに落としただけかもしれない。そして、もしかしたら親切な誰かが拾ってくれているのかもしれない。たとえ可能性は僅かでも、すがることができる考えにはすがるべきなのだ。

 俺は教室に戻り自分の席に座ると、ゆっくり目を閉じて先程までの自分の行動をひとつひとつ辿っていった。

 失われた股間を求め、自らの記憶を探る。

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