第17話この子は私が

魔将軍は語った。

人間世界での安田保の事を。


キロクは語った。初めの吸血から…血から読み取った事を。


ブエルは語った。

癒しの魔法を掛けて保の心に触れてしまった事を。



そんな三名の証言をロロは黙って聞いていた。



時には驚き、時には怒り、表情は変えながらも黙って聞いていた。



そして一つの結論をロロは出した。





「そっかぁ。この子は人間世界でいじめられてたんだ…それも最も愛されるべき人達から…」

姦しさはどこへやら。今は憐憫を浮かべた表情で、寝かされた保に寄り添っている。


「そうか。ロロよ。同情してやれるのか…」

魔将軍は語りながらも己の見通しの甘かった事を悔いていた。

人間に化けてそれなりに人間らしく暮らしていたと思っていたが、やはりモンスター。

人間の心迄は繊細には読み取れなかったのだ。

ただ生きづらそうな保に目を付け此処に誘った。


だがロロは元々人間と交流が有った部類のモンスターだ。

人間の心の機微にはそれなりに敏感な所がある。

故にその虐待された生い立ちに同情したし、腹も立てた。



「私決めた。この子の守護精霊になる」

ロロは言った。


「守護精霊じゃと?本気か…」

魔将軍は唸った。


「本気も本気。この子には孤独が一番の毒だよ。この子には癒しが…心のケアが必要なの」

アノ方とは呼ばず、子供を慈しむ母の様にロロは言う。


「だから私はこの子に『宿る』。内側から治していくの」


「馬鹿な…ロロよ。それは『宿り』を行うと言うことか!」

『宿り』とはその通りそのものに宿る事を言う。守護精霊には種類が有り、側で教師や家族の様に寄り添う事がほとんどで、宿りは言うなれば道具になるようなものだ。


それこそ今敵対している人間の扱う武器や防具に宿るのと変わらない。道具に劇的な守護を与える代わりに使い捨てにされる立場だ。

精霊の悲劇の一つだ…



「魔将軍様。大丈夫。私に任せて」


「ならん。お主は十二魔じゃぞ。簡単に替えが利く立場ではない。考え直せ」

魔将軍は諭す。

だがロロの決意は固い。


「魔王様にする気が無いなら私の後釜の十二魔にこの子を据えれば良いよ。私はこの子をほっとけなくなっちゃったんだ。

昔を思い出すなぁ。人間の守護精霊になって魔法を教えた日々を」


「なら教師役でよいではないか。無理に宿りに拘らなくても…」




「じゃあ失礼して…」

言うが早いかロロの姿が薄くなっていく。

そして側の保に触れると吸い込まれる様に消えて無くなった……



「ロロよ!」

魔将軍は吠えた。

ロロは消えて無くなってしまったのだ。制止も聞かずに宿りを行ったのだ。






(しつこいですよ魔将軍様~)

ロロの声が三人の頭に響いた。


「ロロか!」

魔将軍は狼狽する。


「やっぱりね」

「ええ、やはり」

ブエルとキロクはしたり顔だ。



「魔将軍様。ロロは『孤独が』一番の毒だと言いましたよね。普段から姦しいロロが使われるだけな筈はないじゃないですか」

ブエルは言った。


(そうそう。この子に宿ってこの子の『良心』になるのが私の守護精霊の在り方です)

ロロも言う。


(私位の精霊歴が長い奴は宿り方にもパターン持ってますって)

あっけらかんと言う。


(この子に無断なのはごめんなさいだけど、これが最善だと思うから。暴走しそうなら私が助言するし、辛そうならずっと寄り添うし)

そして、と続ける。


(此処には私含めて四人も協力者が居るし。この子を元気な十二魔にしちゃいましょう!)


「勝手に決めおって…ヒヤヒヤしたわ…」


(とりあえず魔将軍様は早く服を着て。この子そろそろ起きるから)


「でしたね」

キロクがいそいそと替えの服を探しに行く。


(これからは炎の精霊の私が心を温めてやるし!)



ロロの決意が脳内に響き渡った。


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異世界転生、好きな人?が出来たので 太刀山いめ @tachiyamaime

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