第16話騒がしいロロ

「さあ、ギアスを交わそうではないか。フレイムロードのロロよ」


いきなり転移してきたフレイムロードに人形に戻った魔将軍は切り出した。


「え…いきなりキツくないですか…当たりが」

フレイムロードのロロはたじろいだ。


「咄嗟にお主の場を荒らしてしまったのは詫びる。だが今ここに現れた理由はそれではあるまい」

魔将軍は言う。何せ犬に例えるなら尻尾をフリフリして涎を垂らしている様な浮かれた状態で転移してきたのだから。

怒りからでは無いのはすぐに分かった。



「あ、文句は勿論有ります、はい」

ロロは軽く言う。

だが本題はソファに横たえられている人物が何者かと言うことであった。

キロクがタオルケットを甲斐甲斐しく用意して掛けていた。


「でもそれより…ソチラの方は…」

ロロが言いかけると。


「やはりギアスじゃな」


「なんでぇ!?」


「貴女は口が軽いから…」

横から自分の傷を癒しながらブエルが言う。


「彼女の事は今回の事も有ってデリケートなのよ。貴女、此処まで追ってきたみたいだけど異世界だって気付いてる?」


ロロはポカンとした。


「え、異世界だった?」


「精霊は色々ぶっ飛んでるからね…異世界転移も私達より抵抗も少ないんでしょうけど…十二魔としてはもっとしっかりしてほしいわね」

ブエルは説教モードだ。


イヤイヤとばかりにロロは身をよじる。

ロロは炎の上位精霊だ。女性の人形をしている。姿は朧気だが…

精霊は言わば意思有る魔力が形になった様なモノだ。肉体と言う殻を持たないので転移にも抵抗が少なかったのだろう。



「まあブエルよ。こやつの姦しさが十二魔一なのは知っておる。じゃから手っ取り早くギアスで…」


「ギアスは嫌なのー!だって魔将軍様と結んだら抜け穴有っても格が違って何も出来ないもん!」

駄々っ子の様にロロは床を転げ回る。さながら燃えるモップだ。


「では我々二人とギアスを結ぶなら妥協するかな」

保の容態を見ながらキロクが割ってはいる。


「ブエルと私のダブルギアスなら魔将軍様のギアスよりはキツくないだろう?」


「ギアスから離れてよ!」

バタバタとまたモップになるロロ。


「私見てたんだから!戦ってる所!

その方は少なくとも『王』の格があるわ!持ち上げなくてどうするの!」


「持ち上げる…とは?」

魔将軍は一瞥する。


ビクッとなりながらもロロは続けた。


「元四天王の魔将軍様さえ手を焼いたんだもん。四天王…いえ、品格によっては魔お…」


「ダメじゃ」


「なんでぇ!」


「この子は深い傷を持っておるのが分かったからじゃ。それに人間からの転生者を…お主は敬えるかの?」


「え、転生者?あの実力で…」

ロロは悩んだ。転生者は元は人間だ。モンスターと人間が争う前なら人間に協力したり魔法の手解きもした。

だが人間が牙をむいてからは精霊は悲惨だった。

強力な武具に封じられて利用されたり、下級の精霊は使い捨ての魔道具に封じられ消滅させられた。


「フレイムロードよ。お主はこやつを許せるか?モンスターとなって共に戦ってくれるこやつを」


「思ったんだけど…その方は異世界の人間よね?

私達の世界でモンスターに転生しようなんて人間は居ないもの」

少し間を置いてから…


「許すも何もこの方は精霊の悲劇に関係無いわ」


「そうか」

魔将軍は少しほっとした様に力を抜いた。



「だから教えてくれないかしら。この方の事を。始めから」

ロロは姦しさを抑えて言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る