#04 おしまい
「いえ、将棋指しではありませんよ。誰がそんな事、言ったんですか。僕は至高なる流しの料理人。エイイチです。料理に命を賭け、果て死んだ料理人ですよ」
うむむ。将棋指しどころか、すでに、まさとしでもノリオでもなくなってるわさ。
真面目にアルツハイマーじゃないの。
霊が、アルツハイマーなんて患うのかは知らないけどもさ。
「ともかく! だぜッ!」
と、サラリーマンの霊が場を仕切る。
「なにはともあれ、宴会だ。宴会。無礼講。思いっきり飲むべ。もちろん未成年のイタコと晴夜はジュースで勘弁な。ファンタグレープも、沢山、用意してあるからよ」
そうして、人も霊も区別しないイタコは霊達に混じってファンタグレープを煽る。
サラリーマンの霊からネクタイを奪って、額に巻き、どじょうすくいを披露する。
ほれれ。
昨日、朝までサラリーマンの霊と飲み明かしたように今日は恐山の宇曽利山湖に笑い声が響き渡る。イタコと晴夜の喧嘩が長引き、辺りは、夕方から夜へと移行して暗くなろうとも、優しくも黄色い光に包まれた一同は馬鹿笑って転げ回った。
ワハハ、阿呆が、とだ。
空には下限の月が浮かび、お月様も、また楽しそうな彼女らを見て静かに微笑む。
いつの間にか、晴夜のジュースに酒が混ぜられていたのか彼は赤ら顔で酔っ払う。
「おう。ピアって最高だな。なあ、そうだろう。ニータン?」
酔っ払いは語らなかった霊にからむ。
「は、晴夜よ。よ、酔っておるのか? お主、まだ未成年であろうが。よいのか?」
「ハア? なにが? あ、コンプライアンス的にって話か?」
……いやいや、それは決して言ってはならん事だろうと苦笑いのニータン・後島。
かたや豪快な性格になってしまった彼は馬鹿笑いし続ける。
それを見たイタコも笑ってから言う。
「あっ、未成年が、お酒を飲んでいます。通報だ。通報ッ!」
「ケケケ。大丈夫大丈夫。わたくしは酔っ払っていませんよ」
……酔っぱらいの大丈夫は大丈夫じゃないわと、またもニータン・後島が苦笑い。
「てかよ。晴夜のジュースには、酒、入ってないぜ。入れてないにも拘わらず、このアホちんは酔っ払ったんだよ。多分、雰囲気だけで酔ったんだろうな。弱ッ!」
とサラリーマンの霊が酒瓶を一つずつ左右の手に持って、頭上で瓶をぶつけ合う。
「こいつ、すんげぇ、酒、弱いぞッ!」
と瓶を、ガンガンと、ぶつけ続ける。
晴夜は、ケミカルFXのような毒は中和できるくせに、酒には極度に弱いようだ。
イタコの目の端が、きらりんと光る。
「ようやく、弱点、発見だわさッ!!」
ししし!
覚悟ッ!
と笑いつつイタコは酒瓶を、沢山、持って晴夜に突撃した。
いつまでも止まない笑い声の中で、また馬鹿笑いしながら。
お月さまが、また静かに微笑み、夜は深々と暮れていった。
お終い。
ピア 星埜銀杏 @iyo_hoshino
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