#03 人工呼吸
いや、強くなりたいと思う事自体は間違いではないような気がします。
単に強さと力を履き違えてしまった事が問題だったのかもしれません。
フフフ。
わたくしは、大きな思い違いをしてしまっていたのですね。
あらん限りの力を否定され、とてもよく分かりました。ピアは素晴らしいとも悟りました。下位互換であるエクソシズムに加え、たとえ仏の数が劣ろうともピアを、沢山、持つイタコさんには初めから、わたくしでは敵わない相手だったのですね。
ようやく理解致しました。
そうして優しくも温かいさざなみに揺られていた晴夜の瞳がゆっくりと開かれる。
「あ、アホの目が開いた。死んだのかと思ったわさ。いや、死んで欲しかったわさ」
目の前には、どアップなイタコの顔。
唇を尖らせ、まるでキスを迫り、彼の唇を奪うがイキオイ。
うおっと驚いて眼前にあるイタコの顔を強制的に引き離す。
「人工呼吸は、いらない?」
「いりません。結構ですッ」
「えへっ。あんた、クズだけど、格好いいっちゃ、格好いいからね。一応、経験として人工呼吸をしておこうかなって。もちろん恋人にはなりましぇん。仇敵、仇敵よ」
などと軽口を叩くイタコは、いつも彼女に戻ったのだろう。
敢えて、
馬鹿を演じる事で場を和ませ、悩みを持つものの心を開き救う、あの彼女にだ。もちろん、周りにはサラリーマンの霊や真田幸村の霊、コスモス少女の霊がいる。いや、それどころか、力を貸した数多の霊達も満面の笑みで控えている。ガハハと。
無論、あの語らなかった霊も微笑みながらも、静かに佇む。
……うむ。晴夜。その顔はワシの正体も分かったのじゃな。
微笑み静かに目を閉じる。
「さてさて、このあとは?」
人差し指を立てるイタコ。
数多の霊達が酒瓶やジューズのペットボトルを右手で持ち上げて一斉に口を開く。
「飲み会しかねぇだろうッ」
うぉぉッ! と一際でかい叫び声をあげて飛び上がる一同。
「宴会だわさ。宴会。飲みもんだけじゃ寂しいから、そこの、あんたよろしくッ!」
美味しい料理を追求して死にきれなかったコックの霊を指差してから笑うイタコ。
からからと回るあの風車もイタコにつられてけらけら笑う。
「待って下さい。僕も料理ができますよ。僕に任せてくれませんか。とびっきり美味しい料理を、このなにもない岩場で作って魅せます。僕は至高の料理人ですから」
まさとし〔もしくはノリオ〕が、胸を張って一歩前に出る。
「てか、本当に、あんた、誰よ? 確か将棋指しだったよね」
イタコが、眉尻を下げる。
困惑の極みとばかりにだ。
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