第3話
その日は珍しく屋敷の広間に全員が集まっていた。
「そんじゃ、ジェダイト連れて人里降りてくるから大人しく留守番してろよ」
マスターが数年ぶりに人里に出掛けるので、全員の体調確認と戻るまでの間にしておくことの確認をすることになったのだ。
「ビクターは裏庭の手入れと家事、ドクターはメディックと武器庫で作業、アンバーは森の見回りよろしくな。長くて一ヶ月は戻る気ねぇけど、やること終わったら好きにしてていいから相当な緊急時以外はくれぐれも人里に着いて来んなよ、いいな?」
はいはい、とそれぞれの返事を聞いたマスターはジェダイトという体格のいい男を連れて屋敷を出ていく。
留守番中の役割を言い渡された面子はその後ろ姿が見えなくなれば直ぐ様解散し、与えられた役目をこなしに仕事場へと向かった。
屋敷を出てほんの数分。
マスターはふと足を止めて口を開いた。
「....あ、お前連れてきたの間違ったかも」
「えぇ?折角選ばれたと思ってうきうきしてたのにそういうこと言っちゃう?」
ジェダイトは人里に連れていくには少しばかり浮いた見た目をしているのだ。
ドクターやアンバー、メディックは限りなく人間の姿をしているが、ビクターとジェダイトはそれぞれ少なからず浮いてしまうような点がある。
ビクターは手袋さえしていればあまり目立たないが腕が魔力そのもので出来ているので決まった形状をしていないし、ジェダイトは目隠しの布を着け、更には詳細は省くが手足に大きな枷を着けている状態だ。
はっきりいって確実に目立つ。
「いっそ奴隷扱いで俺のこと連れ回せば?そしたら枷も何も違和感ないと思うけど」
「お前みたいに気安く主に話し掛ける奴隷が居て堪るか。....というか、お前も、お前達も奴隷扱いなんてしたくない」
眉を寄せて眉間に皺を作ったマスターに対し、ジェダイトは目隠し用の布の下で申し訳なさそうに眉を下げた。
「優しいのか自分勝手なのか、本当わかんないねぇ」
ジェダイトのその言葉に、マスターは苦い表情を浮かべるだけだった。
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その昔、100年ほど前に魔王という存在がいた。
その魔王は四人兄弟で、女一人と男三人の偏った兄弟ではあったものの、それぞれ自分の得意分野では並ぶ者がいないほどに優れており、誰を魔王と決めることなく四人全員に魔王の称号が与えられたが、歴代であり得ない異例の扱いだ。
先代から受け継がれる称号の力は、本来一人にしか与えられないため一つの力を四等分することとなったが、四人からすればさして気にすることでもなかった。
女の身でありながらも魔王城の全てを取り仕切り、時には城すら動かすと言われた"城の魔王"
聖騎士のような出で立ちとは裏腹に戦場を一人で一掃する力を持つ"戦場の魔王"
気紛れに
膨大な魔力を有し、単純な魔力勝負でいえば兄弟の中でも随一の力を持っていた"傀儡の魔王"
魔王になったはいいものの、四人の魔王は人間と争うことに嫌気がさしていた。
"無駄な争いを続けてもお互い消耗していくだけで、何も生まれない。ならば勇者に和平を持ち掛けよう。"
"元はと言えば人間側が領土侵攻の為に仕掛けてきた戦争なのだから、此方が多少折れれば彼方も納得するはず。"
その考えは甘かった。
当時の勇者達は
最後に残った傀儡の魔王だけは殺しきれなかった勇者達は和平を受け入れたことで戦争は終わったが、殺された兄弟の死体を回収した傀儡の魔王は静かな怒りを心の奥底で灯していた。
"兄上達はまだここで死んではいけない"
"姉上、兄上、今甦らせますから"
「....そうして出来上がったのが...メディ、お前さんだ」
「ほう、ということは性能的に僕はマスターの二番目の兄上がベース、ですかぁ。いやはや、
「俺は完全にマスターがベースに作られてるから何とも言えないが、....そんなことよりマスターが帰ってくるより前にちゃっちゃと仕事を終わらせようじゃないか、一ヶ月じゃ足りんぞ」
「はいはい、わかってますとも」
暗い地下室でドクターとメディックは話していた。
事の発端はメディックが自分より古参であるドクターに
結局、知ろうが知るまいが彼らからすればマスターに忠誠を誓っていることには変わりないのだ。
作られた人間擬きである自動人形の二人は無駄話を止め、せっせと作業を開始した。
魔王と忠誠と自動人形 leito-ko @syulei
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