第23話 結びの一番
全ては終わった。結局俺は廃嫡されて冒険者になるどころか、元の伯爵家に戻ってしまった。まぁ、中身は全く違う家の伯爵になってしまったのだが、そんなことは些細なことだ。これも定めと受け入れるしかないか。
「デューク様~」
一人心象に浸っていると王女殿下がトコトコとやってきた。来年は成人を迎えることだし、そろそろ大人の階段を上っても良い年頃なのではなかろうか。そんなことを思いながらも、胸に飛び込んできた王女殿下を抱きかかえた。
「ローザ様、そんなことをなされては危険ですよ」
「もう! ローザ、と呼び捨てにする約束でしたわよね?」
そんな約束をした覚えはなかったのだが、それを言うと後が怖いので素直に頷いておいた。この小動物のような可愛いお姫様を侮ってはいけない。見た目は小動物だが、中身は百獣の王ライオンなのだ。それに対して俺はマーモットに過ぎない。この先生きのこるためには従順に従うしかないのだ。
でもあの尻になら、敷かれても良いのかも知れない。
黙っている俺のことを心配したのだろう。しがみついたまま、こちらを見つめた。
「デューク様はこれで良かったのですか? 追放刑では甘いような気がするのですが……」
「心配ないさ。きっと国王陛下が俺達に直接処分するチャンスを与えてくれたのだろう」
「まあ!」
俺の意見に驚きを隠せない様子のローザ。多分そういうことだと思う。ギロチンにするのは簡単だ。だが、それでは十年も抱えていた恨みを晴らすことはできないと考えたのだろう。
腐っても公爵家である。灰の中で燻り続ける火のように、恨みが別のところに、例えば第二夫人側や、元伯爵家で働いていた人達に向くことを恐れたのだろう。
「……デューク様はそんなこと、なさいませんよね?」
「もちろんですよ。そんな生易しいことはしませんよ。地獄のフルコースをたっぷりと味わわせてあげますよ」
フフフ……と笑う俺を見て明らかにローザは引いていた。心外だな。本当にそんなことするわけないのに。
****
隣の国へと通じる道を一人の男が歩いている。
「くそが! どうしてこうなった。これも全てあの公爵の陰謀に決まっている。最初から私を破滅させるつもりだったのだな! だが覚えていろ。必ず復讐してやる。私を捨てたこの国ごとな」
「そうはいかんな」
「だ、誰だ!」
「私だ」
「お前だったのか」
日はすでにどっぷりと暮れており、すでに周囲は真っ暗だ。群青の空に浮かぶ丸い月だけが彼らを照らしていた。二人の男は互いに睨みあった。
「復讐か?」
「もちろん。そのために国王陛下がわざわざチャンスをくれたのだからな」
「くっ! お前も国王も、大した奴だよ!」
そう言いながら放った魔法は見えない壁に阻まれてアッサリと霧散した。その信じられない光景に目を見開いた。
「バカな!?」
「バカはお前だ。相手の力量も知らずに挑んでくるとは、思った通り愚か者だったみたいだな」
「何を!」
再び魔法を放つが、先ほどと同じように霧散した。それを見てようやく勝てないと判断した男は一目散に逃げ出した。しかし、もう一人の男はそれを許さなかった。
「死ぬが良い」
「ぬわー!」
両手から放った電撃は男をあっという間に消し炭に変えた。後にはチリしか残らず、そのチリもすぐに風に舞っていった。
しかし、その男はしぶとかった。
「フクシュウ、ユルサヌゥ……」
姿亡き者、怨霊としてその男はこの世界に残った。彼を支配しているのは深い怨念だけである。
「しぶとい奴だ。だが、そうなることも予測済みだ」
男は袋から何やら白い粉を取り出した。それは塩。清めの塩である。むんずとそれを掴むと、エイヤッとばかりに怨霊に投げつけた。
「悪霊退散!」
「グワァアアア!」
清めの塩を浴びた怨霊は断末魔を上げて虚空へと消え去っていった。
後に静寂だけが残った。
「これで悪は去った。安らかに眠れ……」
男は踵を返すと暗闇の中へと去っていった。
****
お母様のお墓はすぐにハイデルン公爵家の専用墓地へと移し替えられた。これでお母様も安らかに眠れることだろう。
この結末をお母様はどう思っているのだろうか? あの時点ではまさか夫が主犯だとは思わなかっただろう。父親から愛されてはいないと感じていたかも知れないが、お母様が愛していたのは事実だ。それだけでいいじゃないか。
「しかしデューク様、本当にあれで良かったのですか?」
一応のケジメはついたものの、どうも納得がいかないという表情でセバスが問いかけてきた。セバスとしては大事なお嬢様が亡くなったのに許せない、ということなのだろう。
「大丈夫。きっと閣下が手を下しているよ」
それから俺はセバスに閣下がやりそうな手口を語った。それを聞いたセバスは一部で納得していたが、一部では納得しなかったようだ。
「あの者が怨霊になるのは納得できるのですが、塩で倒すと言うのはどうも納得が行きかねませんな。どうして塩で怨霊が倒せるのですか?」
そうか、この世界では塩が悪霊を退散させる効果があることは知られてないのか。これは困ったぞ。妙なことを閣下に喋られては困る。
「セバス、そう言えばこれは、公爵家にだけ伝わる秘伝だった。誰にも言ってはならないぞ」
俺は極めて真面目な口調でセバスに言った。セバスは俺から発せられるどす黒いオーラを感じ取ったようで、コクコクと青い顔をして首を立てに振った。
よしよし、これで秘密は守られることになるだろう。
「さてと、今日も一仕事するかな」
「デューク様、こちらが本日のお仕事の予定となっております」
「うわ、めちゃくちゃ多いな。何とかならないのか、セバス?」
目の前に三段重ねになった書類の山が築かれた。こりゃ大変だ。
「これでも極限まで減らしております。王女殿下様が伯爵家に嫁いでくるまでの時間はそれほど残ってはおりません。それまでにせめて形にだけでもしておかなければ伯爵家の面目が保たれません」
「ハイハイ、分かったよ」
愛する妻に不甲斐ないところを見せるわけにはいかないからな。ここはあっと驚くような領地にしておこう。そうだな、遊園地や動物園、テーマパーク、カジノなんかを作っておくのもいいんじゃないか?
俺は街作りゲームのプレイヤーになったかのごとく動き出した。どうやら俺の第二の人生はシムシティのような街作りゲームだったようである。それはそれで、ありありのありだな!
――Fin
****あとがき****
ここまで読んでいただき、まことにありがとうございます。
パロディネタ満載でお送りしましたが、少しでも楽しんでいただけて、笑っていただけたら、書き手として、それに勝る喜びはありません。
笑いを忘れたときは、またいつでも読みに来てもらえると嬉しいです。
多くの方に読んでいただき、本当にありがとうございました。
無能を装って首尾良く廃嫡されたけど、何でこうなるの!? ~今更戻ってきて欲しいと言われてももう遅い。冒険者王に俺はな……え? なれない? 何で!? ~ えながゆうき @bottyan_1129
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