第22話 ざまぁ!

 それから数日の間、俺は王城で過ごすことになった。さすがにローザの部屋に住み込むわけにはいかない。俺はなぜか渋る両殿下と王女殿下のローザを説得し、何とか客室に泊めてもらうことができた。娘の部屋に殿方を押し込もうとする両親ってどうなの? もしかして、俺の頭、硬すぎ!?

 

 そんなこんなで用意された部屋は、王城の中でも特別に立派な部屋で、聞いたところによると隣国の王族が宿泊するようの部屋だそうである。

 なんでこんな部屋に……と思っていると、すぐに答えは出た。自分の部屋に来てくれないのなら、こっちから出向けば良いじゃない。こうして俺が泊まっている部屋に、ローザが入り浸ることになった。ローザ曰く「許可をもらっているから問題ない」とのことだった。俺は頭が痛くなった。


 そんな一歩間違えば変態紳士になりかねない状況で日々を過ごしていると、なんかだ周囲が騒がしくなっていることに気がついた。騒がしい原因は、いつもにもまして王城に貴族達が集まっているからである。

 ザワザワと騒然となりつつある王城。一体何が始まるんです!?

 そんな予感を抱きながら、いつもの日課となっている中庭ティータイムを二人で楽しんでいると、使用人が俺達を呼びにきた。


「王女殿下、デューク様、国王陛下よりお呼びがかかっております」

「……分かりましたわ」


 とは言ったものの、明らかに不機嫌な様子が分かるローザの物言い。せっかくの二人だけのティータイムが邪魔された! と不快感をあらわにしていた。

 いや、さすがの国王陛下でも俺達のティータイムを邪魔しようと思って仕事はしないでしょ。俺としてはついにこの日が来たか、と言った感じだ。俺はローザに目配せして席を立った。



 ホールにはすでに多くの貴族達が詰めかけていた。その中からは一体何があるんだ? と言う声も聞こえる。俺達と同じように何も聞かされずにこの場を訪れている貴族達もたくさんいるようである。

 ざわめきが納まらないうちに、どうやら始まったようである。宰相が「静粛に!」と声を張り上げた。シンと水を打ったかのように静まり返るホール。そこに一人の縄に縛られた男が連れてこられた。元トーデンダル伯爵だ。今は確か子爵だっけ?

 ざわめきが再び大きくなった。あれは元伯爵じゃないか、とヒソヒソと周囲に聞こえるように話している。一体どういうテクニックなのだ。陰口が遠くまで響くスキルを持っているのか?

 コホン、と玉座に座る国王陛下が咳をすると、周囲は再び静かになった。


「トーデンダル子爵よ、なぜお前が呼び出されたか分かっておるな?」

「い、いい、いえ、なぜ私がこのような恥辱を受けているのかサッパリ分かりません」

「そうか。では私が教えてやろう。お前には妻殺しの容疑がかかっている。いや、容疑ではないな。お前は自分の妻を殺した犯罪者だ」


 国王陛下の言葉に一気に騒がしくなった。やっぱりそうだったのか、という声があちらこちらから聞こえてくる。どうやら他の貴族達からも疑いの目が向けられていたらしい。


「そ、そんな! 何かの間違いです。さては誰かの企みですな? そのような甘言に騙されてはいけません! それに、証拠が無いではありませんか!」


 必死に食い下がるトーデンダル子爵。それもそうか。抵抗しないと破滅だもんな。まぁ、抵抗しても破滅フラグは折れないと思うけど。


「そうか。それでは証拠を見せよう。連れて来い」


 国王陛下の命令によって三人の男が連れてこられた。俺はそのうちの一人に見覚えがあった。俺達を襲った奴らの中に、確かにその顔があったのを覚えている。

 俺の中に眠っていた黒いナニカが一気に膨れあがったのを感じた。コイツは俺のお母様を……。


「デューク様」


 それを諫めてくれたのは俺の隣で腕を組んでいたローザだった。俺の心の変化を敏感に感じとったらしい。そのお陰で冷静になれた。


「ありがとう、ローザ。もう大丈夫だよ」


 コクンと首を立てに振るローザ。その顔は全てを察してくれていた。駄目な旦那を叱ってくれる良い嫁女になってくれそうな予感がする。

 俺はそのまま事の成り行きを見守ることにした。俺の代わりに祖父が、国王陛下がその罪を裁いてくれるだろう。


 連れてこられた三人を見たトーデンダル子爵は苦虫を噛み潰したようになっている。どこでそいつらを見つけたんだ、とその顔は如実に語っていた。

 その三人の隣に祖父が立った。


「この者達を捕まえるのには苦労させられたよ。だが、顔さえ分かってしまえば魔法でどうにでもなる。そして捕まえさえしまえばこちらのものだよ。口を割らすことなど、たやすい」


 ヤベぇよ。もの凄くどす黒いオーラが漂っている。今の祖父は悪魔閣下と呼ばれても誰かも反論しないだろう。連れてこられた三人が虚ろな目をしているのはそのせいか。一体どんな尋問を受けたのか、想像したくないね。


「全てはこの三人が話してくれたよ。実に協力的で、本当に助かったよ」


 祖父はにこやかに笑っていたが、もう何も言うまい。目を合わせるのさえ怖い。その祖父を見たトーデンダル子爵はまな板の鯉のように口をパクパクとしている。恐怖で声すら出せないのだろう。


「トーデンダル家は今日より取り潰しとする。そしてお前は国外追放の刑に処す。二度とこの国に立ち入ることは許さん」

「お、お待ち下さい!」

「お前の意見は求めない」


 国王陛下のこの一言によって全ては終わった。俺の父親は国外追放。第二夫人とその息子は実家の某準男爵家に戻されることになるのだろう。準男爵は位を次の世代に引き継げない。息子君は平民に下ることになる。

 

 それをちょっと羨ましく思ってしまうのは未だに庶民感覚が抜けないからだろうか。だが、今や俺は伯爵だ。俺の両肩には領民達の幸せがのしかかっていると言ってもいいだろう。まぁ、頭は簡単に付け替えられるだろうけどね。だから、気楽にいこう。


 俺の中ではこんなもんかと思っていたのだが、祖父達は違ったようである。射殺さんばかりに凄まじい目で罪人を睨んでいる。これはやりかねないな。まぁ、それもやむなしか。

 取りあえずこれだけは言っておこう。ざまぁ!

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