第21話 マジでざまぁする一話前

 何の不幸か、無事伯爵となり帰ってきた俺をセバスとバジーリオは我が事のごとく喜んだ。俺は全く嬉しくはなかったのだが、喜ぶ二人に好きにさせていた。

 もう俺一人ではさすがに領地が広すぎて運営することができない。問題なく統治するためにも、もっと家臣が必要になってくるだろう。


 急激に出世した俺に寄ってくる虫は多いだろうなぁと思っていたが、そこはさすがの閣下。すぐに優秀な人材を送り込んでくれた。お陰で新たに売り込みに来たどこの誰だか分からない貴族からの申し出を突っぱねることができた。


 そうやって何とか上手いこと領地運営が軌道に乗り始めたころ、急な知らせが俺の元に届いた。それは祖父からの知らせで、今すぐ来て欲しいとのことだった。


「セバス、何かあったのかな?」

「私からは何とも言えません。急ぎ、行ってみるしかありません」


 セバスにも分からないらしく、肩をすくめた。もしかして、ハイデルン公爵の身に何かあったのか? 居ても立ってもいられなくなった俺は後のことを家臣達に丸投げし、


「責任は全て俺が負うから、好きなように領地を運営しておいてくれ」


 と言って早々に砦を後にした。道行く馬車から見える景色は俺が初めて来たときからは想像もつかないほど発展していた。

 もちろん畑や水路は残っている。だがそれ以上に家が増え、多くの人が笑顔で行き交うまさに桃源郷のようになっていた。今も次々と人が移住してきているらしい。主に元父親の子爵領から。実に頭の痛い話だ。これ以上恨みを買うのは避けたいところなのだが。



 祖父の住んでいるハイデルン公爵領は隣の領地である。そのため、砦を出発して次の日には祖父の元へ到着していた。


「何かあったのですか?」

「ああ、そうだ。こうしてはおれん。すぐに王都へ出発するぞ。デューク」


 この祖父の急ぎよう。ただ事ではないな。王都に行くということはそこで何かあったのか。何があったのかは分からないがローザのことが心配だ。大丈夫だろうか?


 あの誕生日会の後、本当に大変だった。結局あの日、ローザは俺を解放してくれなかった。そのため、仕方なくローザの部屋で一夜を共にすることになったのだが、すぐに妙な噂が立ってしまった。いくら俺でも十四歳の子供に手を出すようなことはしない。俺は紳士であって、変態紳士ではないのだから。

 だが、世間一般にはそうは思われなかったようである。俺とローザはそう言う関係にあると噂されるようになった。ローザに悪いことをしたな、と思っていたのだが、どうやらこの噂の出所はローザであることを後で知ることになった。どうして……。

 俺はひょっとして、とんでもないヤンデレに目をつけられてしまったのではなかろうか。これはハーレムは無理そうだなぁ。さようなら、ハーレム。良い夢見させてもらったぜ……。


 ゴトゴトと王都へと進む馬車の中、祖父は黙ったままだった。何だかその光景が今にも誰かを殺しそうな雰囲気だったので、俺は何も聞くことができなかった。

 それならばハイデルン公爵に聞こうと思っていたのだが、こちらも以下同文だった。

 一体何が起きているのか。さすがにこの状態を見れば俺にも分かる。おそらくはお母様の死の真相が明らかになったのだろう。そしてそれを国王陛下に伝えに行くのか、それとも国王陛下はすでに知っていて、俺にその真相の全てを話そうとしているのか。

 どちらなのかは分からなかったが、お母様関連であることは間違いないだろう。


 そのままの状態で王都へと着いた俺は、すぐに王城へと向かわされた。祖父と叔父は王都のタウンハウスに向かうようだ。本当に色々と聞きたいことはあったが、今は二人の指示に従っておこう。馬車にいる間、有無を言わせぬ迫力がビンビンと伝わって来たからだ。

 あの状態でギャグを言う勇気はなかった。俺も芸人としてまだまだである。

 王城に着くと、待ちわびたとばかりに王女殿下のローザが今や遅しと待ち構えていた。


「デューク様!」

「ローザ!」


 抱き合って、そのままクルクルとローザを回した。ハリウッドでよくあるシーンを再現してみた。上手く行ったと思う。何故ならヤンデレヒロインローザがニパァ! と明るい笑顔をしているからである。

 気をつけなければ。ローザの両手には常に包丁が握られていると思え。


「デューク様が突然いらっしゃると聞いて、とても驚きましたわ」

「え? ローザ様は何で私が王城に呼ばれたのかの心辺りがないのですか?」

「ええ、ありませんわ。もしかして、デューク様も?」

「そうなんですよ。何となくは分かるのですが、ハッキリとは何も聞いてないですね」


 うーんと二人して考え込んだ。俺の方の事情は暗いからな。なるべくならローザには話したくないな。誰もこんな暗い話なんて聞きたくはないはずだ。どうせ聞くなら楽しい話が聞きたいはずだ。

 そこで俺はローザに案内されたサロンで、ローザと別れてからあった武勇伝の数々を話した。ローザは大変喜んでくれた。

 これだよ、これ。これで良いんだよ。復讐なんてするもんじゃぁないよ。指差して「ざまぁ!」なんて言っちゃダメだよ。

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