第20話 オーバードライブ

 魔族を破裂させるために必要な魔力は膨大な量になるだろう。こればかりは大自然の力だけでは無理かも知れない。

 大自然のみんな、そして、この惑星の外に無限に広がる小宇宙よ、オラに魔力を分けてくれ!

 俺の呼びかけに応えて魔力が集まってくる。それも思った以上の魔力だ。これアカンやつ! 大自然だけで十分だった! 小宇宙はいらんかったわ! ヤバいヤバい、マジでヤバい。早く魔族にぶつけないと、とんでもないことになってしまう!


「マジカルストリング・オーバードライブ!」


 魔族に繋げた魔法の糸を通して一気に魔力が魔族に注ぎ込まれた。そして、パァン! という爆竹のような乾いた音を立てて魔族は破裂した。その後には魔族は確認できなかった。おそらく弾け飛んだのだろう。我ながらなかなかエグいことをしてしまった。


 呆気に取られた一同が俺の方を見た。うん、言いたいことは分かるよ。多分やり過ぎたね。もっとソフトな方法があったはず……。

 アッー! 逆に魔族から魔力を絞り取れば良かったのか? いや、それならそれで、最後には魔族のミイラが残されるだけだったので微妙か。下手すりゃその不気味さにローザが泣き出して、トラウマになってしまうかも知れない。一人で夜眠れなくなってしまったり、一人で夜トイレに行けなくなってしまったりしては大変だ!

 チラリとローザの様子を見かけると、大きな瞳をまん丸にしていた。驚いている顔もなかなかいけるな……いや、待て、違う。何度も言うが、俺はロリコンじゃない!


「あの、デューク様、大丈夫ですか?」

「え?」


 ダイジョウブ? 別にダイジョウブ博士に魔改造してもらったわけではないので、特に問題はないのだが、なぜ……。もしかしてだけど、魔力を大量に魔族に送り込んだので俺の体は大丈夫かって話なのかな? まぁ、送り込んだ魔力は俺の魔力じゃないしな……。

 と言うか、魔族を破裂させるほどの魔力を注ぎ込んで無事な人間がいることがおかしいのか! 確かにそれはまずい。こんなときは仮病だ。この手に限る。


「う……」

「デューク様!」


 俺は明らかに不自然にしゃがみ込んだ。それを真に受けたローザは心配そうに俺の服を掴んだ。罪悪感からか背中に嫌な汗が流れる。ごめん。ほんとにごめんな。

 チラリと見ると、アーシュがうさんくさそうな目でこちらを見ていた。やだ、バレてる!?


「早く! 早くデューク様を私の部屋にお連れして上げて!」

「へ?」


 予想外のローザの言葉に変な声が出た。いや、王女殿下の私室ではなくで、どこか適当な医務室なんかで十分なんですが……。ローザの言葉に返事をした騎士達が一目散に俺の脇を固める。これは逃げられない! 王宮騎士からは逃げられない! チラリとローザの表情をうかがうと、ニタリと笑っていた。……ローザ君? 君、また何か良からぬことを考えていないよね?



「あの、王女殿下? 私はもうすっかりと元気になりましたので、この辺りで退出させていただいても……」

「ダメですわ」

「ですよねー」


 俺は今、王女殿下の部屋に軟禁状態になっている。まさか王女殿下がここまで独占欲を抱えているとは思っても見なかった。まさに「獅子身中の虫」である。

 そんな俺は事もあろうか王女殿下がいつも使っているベッドに寝かされ、俺の顔のすぐ隣には王女殿下の顔があった。

 何だろう、どこからか分からないが、凄く落ち着くような良い香りがする。


「デューク様、私のことはローザと呼んで下さいといつも言っているではありませんか。なぜそう呼んで下さらないのですか」

「いや、しかし……。それでは、そうお呼びしたらここから出してもらえますか? ローザ様」

「ダメですわ」


 笑顔で断られた。理不尽だ。あああああ! あの手紙をもらったときにヤバい子だと分かっていたはずなのに!

 そんな俺の葛藤を余所に、ローザは俺の手を両手で握りしめた。どうやら心配はかけてしまったらしい。


「……ローザ、実は俺、なんともないんだ」

「知っておりますわ。ですが、異常があることにしておいた方がいいですわ」


 何だ。最初からバレていたのか。

 ……だったら別にローザのベッドに寝る必要なくない!? いや、その前に。王女殿下の私室に連れ込まれる必要なくない?


「でもどうやってあれほどの魔力を生み出すことが出来たのですか?」

「それは、大自然から魔力を少しずつ分けてもらったのですよ」

「大自然から魔力を分けてもらう?」


 言っている意味が分からないようで、コテンと可愛く首を傾げた。


「そうです。人間が魔力を持っているように、この世界の全てのものは、植物も動物も、空も大地も海も、全てが魔力を持っているのですよ。そこから少しずつ魔力を分けてもらったのです」


 ビックリ仰天! とばかりに目を見開いた。俺のやったことは元気玉の魔力版である。この世界の住人には分かりにくいのかも知れないな。

 それを聞いたローザが何か言おうとしたとき、扉を叩く音がした。

 振り返ったローザは扉から入って来た人物を見て驚いた。


「お父様!」


 まさか忙しい国王陛下が自室に来るとは思っても見なかったようである。その後ろには王妃様の姿もある。

 ああいけません、いけません。俺が娘のベッドで寝ている姿を見てはいけません。もしかして、俺、ギロチンとかになっちゃうのか?

 しかし、俺が斬首台で首を切断されるイメージを持ってガクガクブルブルと震えているのとは裏腹に、ご両親は何も言わなかった。逆にこの沈黙が怖いわ。


「デューク、ローザを魔族から守ってくれたそうだな。先ほどまで事情聴取が行われていたので、礼を言いに来るのが遅くなってしまった。娘を、この国を救ってくれてありがとう」


 なんと、国王陛下が頭を下げた。たかだか子爵に対してである。それだけではない。後ろに控えていた王妃様も頭を下げている。俺はベッドから飛び起きた。


「頭を上げて下さい! 私などに頭を下げる必要などありません」


 俺が国王陛下の前に跪いたその隣に、すぐにローザが跪いた。それを見た両殿下はようやく頭を上げてくれた。


「やはり、な。デュークはこの国の英雄になるにふさわしい人物だな」

「……はい?」


 何だか分からないけど、俺またなんか株が上がっちゃいました!? 本人は全然そんなつもりはないんですけど-!


「そうですわね」


 フフフと王妃様が笑った。思わず見とれてしまうその美しい笑いは、どこかローザに似ているものがあった。ローザも大きくなったら王妃様みたいに巨乳の美人になるのだろうか? 今のまな板からはとても想像できない。

 そんなことを思いつつローザを見ると、ギロリと睨まれた。まさか、悟られ!?


「デューク、此度の魔族討伐、まことに大義であった。その褒美として、伯爵の位をデュークに授ける」

「ははぁ! ありがたき幸せにございます!」


 うわぁぁあん! 子爵ですらままならないのに何でもう伯爵になってるの!? 何でこうなるのっ!

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