第16話 転がっちまったら、急には止まれねぇ

「おらよっと!! 」


 下から上へ。


 すくい上げるようにして剣を振い、堅牢な外殻に覆われた岩衣団子虫イワゴロモダンゴムシを空中へと浮かせる。


 案の定、弱点である腹部を守ろうとイワゴロモダンゴムシは瞬時に丸まるがそれが俺の狙いだ。


「ネルミ、今だ! 」


「はい! え、えーいっ! 」


 合図を送れば、後方から駆け寄ってきたネルミがブンッと勢いよくメイスを振り抜き。


 ガコンといい音を響かせながらボールのように丸くなった巨大団子虫を射出した。


 球状のままぶっ飛ばされたイワゴロモダンゴムシは、通路を塞いでいた仲間達を巻き込むようにして激突する。


「ミュイ! お見事デス! ストライクなのデスよ! 」


 並の剣では刃毀れしてしまう程堅い外殻に覆われたイワゴロモダンゴムシだが、同じ強度を持つ仲間が弾丸のようにぶつかってきたとなればただでは済まない。


 群れ全体に強い衝撃が走り、身を守ろうと慌てて丸まったイワゴロモダンゴムシたちはその勢いのままゴロゴロと転がり後方に控えていた比較的小型の魔物を次々に押しつぶしながら通路の奥へと消えていった。


「よしっ! と、それじゃ先を急ぐぞ」


「あの…転がって行ったイワゴロモダンゴムシの群れは追わなくていいのですか? 」


「ん? ああ。 あのまま真っ直ぐ進んだ先は行き止まりだからな。 俺達は転がって行ったイワゴロモダンゴムシの群れが戻ってくる前に、さっさとこの先の角を曲がってセーフゾーンを目指すとしよう」


「悪しき怪獣たちを全滅させなくていいのデス? 」


「今回に限っていえばそうだな。 アイツらのタフさとこのダンジョンのギミックからして、時間をかけて倒し尽くしてもそこまで旨みがないってわけだ」


「ホミュ。 非、効率的というわけなのデスね」


「だな」


 一応イワゴロモダンゴムにも、なかなか使える固有のドロップアイテムがあるのだが。


 それを狙うのなら、このダンジョン”食物庫”じゃない方がいいだろう。





 ◇◆◇






「ふぅ、どうやらセーフゾーンに着いたみたいですね」


「だな。 少し疲れたか? 」


「あっ、いえ。 体力的には平気なのですが…ここに出る魔物の見た目が、その…ちょっと苦手で」


「あー確かに、昆虫種は結構見た目のインパクトがあるよな」


「はい…」


「ボロニャ的には、サイズ感に差異がありますがあの怪獣たちは良い食料になりそうという印象です」


「えっ…」


「なっ。 ボロニャ、虫を食べるのか!? 」


「ブニュー!! ボロニャの食料ではないのデス! ただ、その反応をみるにこの土地の人々は食料に困ってないようデスね…」


「そう、だな。 虫を食料にしなきゃいけない状況ではないが…ボロニャの居た場所では違ったのか? 」


「ミュイ。 味のいい虫なら取り合いになる程度には切迫していたのデス」


「そ、そうか…」


(そこまで危機的な状況の土地なんて、俺は聞いた事ない…ボロニャはまだ踏破されてない未発見の場所からきたのか? )


「ミュ! それより、マスター! セーフゾーンに到達した我々はギミックの教授を要求するのデス! 」


「おっと、そうだったな。 んじゃ、適当な場所にでも腰かけてくれ」


「は、はい」


「ニュイ」


「よし。 じゃあ、これから簡単にダンジョン攻略には欠かせない要素の一つ。 ギミックについて説明するぜ」


 ギミックとはダンジョンが持つ特殊な能力の総称で、冒険者でいうところのスキルに似ている。


 一括りにギミックといってもその内容は多岐にわたり。


 例えば、分かれ道にぶつかったら必ず右に曲がり続けないとボス部屋に辿り着かないといったような特殊ルール系のギミックや。


 道中に出現する魔物を二十体以上倒さないとダンジョンの最奥に出現する魔物が二体に増えるなどボスに関連したギミックもある。


「そして、ここ大鎌の食物庫におけるギミックは。 道中で倒した魔物がボス部屋に転送されてボスがパワーアップする材料になるってことだ」


「ニュイ!? パワーアップするのデス!? 」


「そ、そんな…」


「っと、そうはいってもそんなに心配する程じゃないぞ。 ボス部屋に転送された魔物をボスが食う事で、食った量に応じて全体的に能力値が上昇するんだが…その上がり幅は微々たるもんだし」


「ホミュ、そうなのデスか…」


「少し安心しました」


「まあ注意するとしたら…一定量以上の魔物を道中で倒してると。 ボスをパワーアップさせるだけじゃなくて、戦闘の途中に時間差で魔物の死体が転送されてきてそれをボスに食われるとダメージを回復されちまうから、こっちの火力が低いうちは厄介かもな」


「なるほど、だからジルさんは先程。 イワゴロモダンゴムシの群れを無理に倒さなかったのですね」


「ああ。 今の俺達の戦力なら、回復される前に火力で押し切れるだろうけど。 ここのボスはギミックで強化したところで良いことは特にないからな」


「ニュ? その様子だと、強化したほうがいいボスもいるのデス…? 」


「そうだな、ダンジョンによってはギミックを利用してあえてボス戦を難しくする事でドロップや宝箱の中身が良くなる場所もあるんだ。 とはいえ、自分たちの力量を見誤れば自滅するだけだからボスの強化は慎重にやらないといけない」


「たしかに…。 死んでしまったら、いくら報酬が良くなっても意味がない…ですもの、ね」


「そうだな。 俺達ならこのダンジョンは問題なくクリアできる難易度だが…。 油断大敵、気を抜かずに最後までいこう」


「了解なのデス! 」


「はいっ…! 」

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何故か有望株の仲間が追放されたので俺はソイツについていく事にした 猫鍋まるい @AcronTear

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