第5話 思いが通じる5分前(最終回)
「負けました」
ついに勝敗が決着した。
最終盤における20回を超える連続王手。
一歩でも間違えれば、即詰みのギリギリの勝負の中、彼女の思考は頂点までかけあがった。
聖夜に将棋の歴史が塗り替わった。
最年少タイトルホルダーがここに誕生したのだ。
記者が対局場に流れ込んでくる。
両者に簡単なインタビューをするためだ。
彼女は、ほとんど無意識で答えていた。
「藤本新聖叡の素晴らしい将棋でした。ここまで気持ちよく負けたのは高校時代以来です」
敗者は、そう言って、勝者を讃えた。
「総合通信の相田です。それでは、藤本新聖叡にお聞きします。対局中は、何を考えていましたか?」
若い女性の記者が優しく問いかける。
「えっと、大事な人のことを、私のことを信じて応援してくれる人のことを考えて指していました」
インタビューは続いていく。
※
彼女はすべての仕事を終えて、一人部屋に戻る。
応援に来てくれていた両親と師匠には、ちゃんと感謝を伝えた。
だから、やることはひとつだけ。対局中は預けていたスマホの電源を入れる。
10時間近くに及ぶ激闘のせいで、もう彼女はなにも考えることができなかった。だからこそ、本当の気持ちだけが残っている。
もう深夜なのに、彼はすぐに着信に出てくれた。
「メリークリスマス、藤本」
そうだ。今日はクリスマスだった。自分の野望も彼女は戦場において来てしまったのかもしれない。
「メリー、クリスマス、せ……んぱい」
旅館の庭には白い雪が積もっている。
思いが通じるまで、あと5分。
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