第3話
「まず、これを身に着けてください。
渡されたのはIDタグ。
「これって通過時に記録されるの?」
「はい。ゲート通過時に記録されます。ID無しで通過を試みた場合は
「なるほど。とりあえずブリトニーが行方不明となった場所を確認させてもらえるか?」
「わかりました。こちらです」
ミランダが床を蹴り飛び上がり、アランも続き、俺も飛ぶ。無重力の中、流されるように移動する。
そこは居住ブロックにある通路だった。ミランダの端末でセキュリティカメラ映像を確認する。
「再生します」
映像右下のタイムスタンプによると四日。再生されて数秒後、画面奥から一人の女性が現れた。ウェーブのかかった黒い長髪。資料で見たブリトニーに間違いない。彼女はトートバッグを抱え画面手前の部屋に入っていく。少し早送りされて五分後、別の女性が入室。さらに30分後、後から来た女性が退室し、映像は停止された。
「後から入室した時にはすでにブリトニーの姿はなかったそうです」
「室内にカメラはないの?」
ブリトニーが入っていったドアを叩きながらアランが問いかける。
おい、その質問は駄目だ。
「中はシャワーエリアです。あるわけがないでしょう」
クックック。二人目退室時の姿を見れば聞くまでもないだろう。あれはどう見ても風呂上りだ……おい、やめろ。そんな目で俺を見ても助けてはやれない。……わかった。
「えー、ミランダ、中を見てもいいだろうか?」
「構いません」
シャワーエリアは水を扱うだけあって二枚のドアで阻まれていた。無重力化の水は恐ろしい。どこにでも入り込む。隙間なんてあったら大事だ。つまり人の出入りはこのドア以外にありえない。
「完全な密室じゃないか」
アランは目を輝かしているが、もともと宇宙船という密室だ。全長二キロの密室が一室に変わっただけ。
「ミランダ、ブリトニーが所属していた研究開発部責任者の話を伺いたいが、許可してもらえるだろうか?」
「確認してきます。少々お待ちください」
ミランダが離れた途端にアランがくっついてきた。
「でもどうするのさ、これじゃあ手掛かりなしだ」
「そうでもない。得られるものはあった。なんだその顔は? 少しは自分で考える癖をつけろ」
「んー殺されてバラバラにされて流された?」
「馬鹿か。どうやって五分でそれができる。恐らく、これは狂言だ」
「どういうことだい?」
簡単な話だ。シャワーエリアの密室。セキュリティカメラの映像、IDタグによるゲート管理、そこまで厳重な環境で人を消すなんて不可能だ。協力者がいない限りは。
わからないのは思惑。俺たちが呼ばれた理由は? 何のために行方不明を装った? わからない事だらけだ。
「理解はできたけど、どうするのさ?」
「情報を集めるしかないだろう。ほら、戻って来たぞ」
「お待たせしました。研究開発部長セルゲイ・マイスキーが協力します。ブリーフィングルームに向かいましょう」
先行する二人を追う。何か掴めればいいが。
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