【短編】アステロイドベルトの片隅で
Edy
第1話
サケを一口。ゆっくりと味わってから飲み干し、余韻が残っている内にサシミ。……間違いない、やはりサシミにはコメの酒。とくに『陸号』との組み合わせが一番だな。
いや待て、『セーコー』ならどうだ? きっと素晴らしい風味が生まれるだろう。
「マスター。『セーコー』を一合。ヒヤで頼む」
「マイケル。タイショーと呼べよ。店のスタイルに合わせろ。それから『セーコー』は切らしている。諦めてくれ」
何を言っているんだか。そっちこそアフリカ系のキナガシ姿は似合ってないからやめたほうがいい。
だいたい何だこの店は。トリイだか、ブツゾウだか知らんが邪魔なものが多すぎる。まあ、サケの豊富さでここを超える店は火星にないから黙っているが。
オリエンタルな雰囲気が台無しになっているオープンテラスから夜空を見上げる。
分厚いドームに阻まれて星どころか空すら見えない。俺たちの空は蓋をされている。火星、キアネ連鎖クレーターに作られたドーム型コロニーで生まれ育った俺は空を知らない。いや、知識としてはある。地球の空は蓋をされていないそうだ。そこから見上げる空とはどういったものだろう? いつか行ってみたい。サケの本場を回りたいものだ。
マスに残る『陸号』をグラスに移して呷る。
鼻の奥に残る香りが何ともたまらなかった。
「マイケル! 仕事入ったよ。あ、タイショー、僕にも同じやつを」
アランか。ブランドスーツに高い時計、髪は綺麗に整えられて、革靴もピカピカだ。ラテン系の顔立ちも相まって人の目を引いている。が、探偵が目立ってどうする。そして俺の隣に座るな。俺まで目立つ。悪い意味で。
視線を落とすと、ヨレヨレのスーツとくたびれた革靴しか見えなかった。せめて髪を整えて、無精髭をなんとかすればいいのだろうが面倒くさい。
「何の仕事だ」
「人探しさ。行方不明者捜索。
「断れ。見つかるわけないだろう」
「宇宙空間を探すんじゃないよ。オニガシマっていう小惑星があってね、そこに張り付いている
「船の中だと? すぐに見つかるだろう。それにどこの企業の船だか知らんが、何で俺たちみたいな探偵社に話がきた?」
「依頼人から君の元上司を経由してきた仕事だよ。腕の良い探偵を紹介しろって話があったらしい。……くー、探偵と言えばバーボンと決めてかかってたけどサケも良いね」
「ハードボイルドごっこがしたいなら煙草でも咥えていろ」
アランがちびちび舐めるように味わっている横で頭を抱えたくなった。元上司だと? 宇宙軍火星キアネ基地の
「……やろう。いつ出る?」
「翌朝。小惑星ベスタの中継ステーションまで定期便で行けば、
好きにしてくれ。天を仰ぐつもりで見上げたが、そこには薄汚れた天井があるだけだった。
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