Sterben Houseへようこそ

夏樹楓花

命をかけた脱出ゲーム

 朝の空は雲がなければ透き通るように綺麗な青に見える。そして、夕暮れ時になると茜色に染まる。これは、人間誰しもが知っていることで自慢げに話しても驚く人はいない。それどころか、馬鹿にされるのがオチである。そんな事を考えながら新学期二日目の学校へ向かう。これだけを聞くと多分『こいつやばい奴だ』とか『怖い』などと言った悪い印象を持たれるのは間違いない。

 でも、僕も一昨日そして昨日のような出来事に巻き込まれなければこんなごくごく普通のことを考えていない。

 というのも、事の発端は今から二日前のことである。

 それは、夏休みの最後の日のこと。

 中学三年生いわば受験生である僕は夏祭りに行くことも出来ず、夏休みを勉強で終えるところだった。そこで、僕はみんなで集まって遊ぼうとクラスメイトの和人と晶、みゆ、そして幼馴染の彩花にラインを送った。ここまでは、ごく普通の学生の行動と何ら変わりはない。

 そして十二時過ぎくらいにみんなが待ち合わせ場所である噴水公園に集まった。集まった直後和人が

 「夏だし肝試しやらないか」

と言い出した。確かに面白そうだと思った僕は賛成と声をあげようとした。その時、みゆが

 「肝試しって、夜神社とか墓地とかに行くやつでしょ、怖いからやだ」

と言った。僕もその発言を聞いたら賛成だった意見がひっくり返った。

 なぜなら僕の家は、門限が十七時までだからである。門限なんて破ってナンボと思っている人もいるかもしれない。僕も最初はそう思っていた。しかし、今では門限を守ることにしている。

 少し昔話になるが、あれは確か小学六年の冬に和人の家で遊んでいた時のことである。遊びに夢中になり気がつくと門限の十七時の五分前だった。僕は、走って家へと帰った。多分門限を四分位過ぎたあたりで家に着いた。そして家に入ろうとドアに手を伸ばすも鍵がかかっていた。俗に言う、締め出しである。

 しかし、締め出しとはそこまで長い時間されるものでもない。しかも、今日は雪が降るほどの寒い日である。そんなことを考えながら、自分の非を反省していた。手の感覚がなくなってきたがまだ鍵は開かない。家に入れたのは三、四時間が経過してからである。家に入れず凍え死にそうになったのを鮮明に覚えている。

 なので、門限があるから他のことしようと言おうとした。その時、みゆの発言を聞いた晶が

 「それならこのサイトのやつやらないか」と携帯をみんなに見せた。

 そこには、『命をかけた脱出ゲーム』と書いてあった。それを見て彩花だけが動揺していた。

 しかし、不思議なものである。会場に行ってやるのではなく、サイトに今いる場所の住所を送るとスタートすると書いてあるのだから。これを見たみゆは

 「これなら怖くなさそうだからやってもいい」

と言った。みゆに続きみんながやろうといった。無論、僕もである。内心、胡散臭いから何も起きず終わると思っていた。

 しかし、本当はここで気づくべきだったのだ。重要なものを見落としていることを。『命をかけた』というワンフレーズの重みを。そんなことを真剣に受け止めていない僕たちは、サイトに住所を送信した。

 すると、夢でも見ているのではないかと疑いたくなるような光景を目にした。

 それは、やりに串刺しになった人間や滴る血がぽたぽたと音を立てている浴槽がある気持ちが悪い場所に気が付いたら移動させられていたからである。

 みんな困惑した。それも当然だ、さっきまで公園のベンチに座っていたのだから。少し経つと聞いた事のない声が部屋に響いた。 「皆さんsterben houseへようこそ」

と。確かにサイトにはsterben houseと書いてあった。だが誰一人としてこんなところに飛ばされると思っていなかった。そんな事を考え困惑していると追い討ちのように、また聞いた事ない声が

 「君たちには今から命をかけた脱出ゲームをやってもらいます。このゲームを放棄するとそこにある死体のようになってしまうので注意してください」

と。そして説明が始まった。

 「このゲームは二部構成になっています。第一部は今いる部屋からの脱出。その部屋から脱出する方法はただ一つ。それは、出口の扉に鍵がかかっているのでそれを開ける事です。知識があれば、ここで死ぬ人はまずいませんね。そして第二部は二つに分かれて試練をくぐり抜けろです。こちらは死者が出るかもしれませんね。では、スタートです!皆さん頑張ってください!」

と。急に絶望的な説明をされたせいで全員ボーッとしていた。

 しかし、ふと現実に戻り後ろに振り返ると、晶が鍵穴を見つめていた。みんなで晶に駆け寄って話し合いを始めた。

 「晶何やってるんだ?」

と和人が聞くと

 「みんなはこの手の脱出ゲームの映画とか見たことあるか?」

と晶がみんなに問いかけた。この質問に見たことがあると答えたのは、みゆと和人の二人だけだった。すると続けて晶がその二人に「なら、二人はわかるんじゃないか」と言った。 

 僕はさっぱり何を言っているのかわからなかった。それもそのはず、僕はこの手のホラーが苦手で好んで見たりしないからである。すると不意にみゆが

 「わかった!」

と叫んだ。みんながみゆの方を見ると

 「さっき知識があれば死なないっていってたよね!ってことはこの部屋は何かのパクリ。そして、この手の部屋からの脱出でヒットした映画といったらアルマーテしかない」

と言った。

 「アルマーテって何?」

と聞くと説明してくれた。

 「アルマーテと言うのは、アメリカで上映された脱出ゲームの映画で、こんな感じで血だらけの部屋に飛ばされた少年少女がその部屋から脱出するみたいな内容である」

と、そして続け様に

 「あの映画の脱出に使った鍵は確か」

と言ってみゆは物色し始めた。すると三分も経たないうちに

 「見つけた!」

と声がした。声がした方を向くと、みゆは鍵を握りしめていた。そして、鍵を扉に差し込むと扉が開いた。僕はその時こんな簡単なのかと思った。

 すると知らない声がまた聞こえた。「congratulations、第一部攻略おめでとう。ここでは知識を持っているかを試したのです。サイトには脱出ゲーム系の映画が好きな人がやらないと即死と書いといたのですが、ほんとに知っている人に出会えていませんでした。なのでよかった。次の第二部も頑張ってくださいね」

と言って知らない声が止んだ。

 そして、みんなで次の部屋に入った。

 入った途端周りが真っ白になった。気がつくと周りには和人とみゆしかいなかった。

 今回の部屋はさっきの部屋と違ってすごく綺麗で一部を除けば普通の部屋だった。そんなことを考えているとまた声が聞こえてきた。「第一部の案内人が言ってたかもしれませんが、第二部は試練をくぐり抜けろです。今回あなたたちに挑戦してもらう試練は、裏切り者は誰だ!ジャッジメントです。解答回数は二回。もちろんいないもありえます。制限時間は一時間!仲間を疑ってゴールめざし頑張ってください。あ、間違えたらその時点で回答者は……わかりますよね」

といい声は止んだ。

 しかし、僕はここで今度の声はどこか聞き馴染みのある声だったと感じていた。すると、和人がいきなり

 「俺はお前たちを信じる」

と言い上を向いて

 「裏切り者はいない」

と叫んだ。少し間が空いて謎の声が笑いながら答える。

 「ブッブー不正解」

と言った。その瞬間和人が串刺しにされた。

 みゆは悲鳴をあげ、僕は呆然とした。

 『目の前で人が死ぬ』

 『友達が死ぬ』のを見たのが初めてだからである。しかも、酷い。おでこ、胸の二箇所を金属製の大きな串に貫かれているのである。 なぜかその光景を見ていると、ふと我に帰った。そうだここには、もう俺たち二人しかいないし、裏切り者がいるのは確定だと。

 しかし、それと同時に一つ疑問が生まれた。 それは、僕以外にはみゆしかいないということは、裏切り者はみゆであるのは間違いない。しかし、裏切り者であるみゆはなぜこんなにも泣き叫び、絶望しているのかと。その疑問が新たなる選択肢を産んだ。

 それは、この部屋には、もともと僕たち三人の他に誰かがいた。そしてそいつが裏切り者だという選択肢だ。

 そこで、僕はみゆにゆっくり近づき耳元で 「仮説にすぎないけど、もしかしたら僕たち以外に人がいるかもしれない」

と小さい声で伝えた。

 なぜ耳打ちにしたのか、それは、この第三の選択肢に気がついたことが裏切り者にバレてしまって隠れられたりでもしたら時間だけが過ぎ言い合いになって自滅。もしくは言い合いにならなくても制限時間でお陀仏のどちらかになってしまうからである。なのでみゆには第三者がいるかもの他に

 「僕がいいと言うまでその場から動かないでくれ」

と伝えた。なんせ、みゆは不器用で感情を隠すことができない。だから今回は僕一人で探ることにした。

 この部屋には、常人が隠れられそうな場所は二つしかない。一つ目はベットの下、二つ目はタンスの中。

 そして常人は絶対に隠れない、いや隠れられない場所がひとつ。それは、この綺麗な部屋の中で唯一異彩を放っている赤く血で染まったクマのぬいぐるみの中。

 僕は一番最初にぬいぐるみ以外の場所を探りはじめた。と言うのも、ぬいぐるみの中なら逃げることができないからである。他の二つは逃げるために穴が空いているかもしれないし、なんならおかしな話だが転移門があるかもしれない。こんな常識はずれのことを考えるようになったのもさっきの常識はずれの光景を見たからなのだろうと考えながら探っていくがベットの下も、タンスの中も何もないし隠し扉の類もない。と言うことはと皆さんもわかったと思う。

 僕もこの時確信していた。第三者はぬいぐるみの中にいるのであると。恐る恐るぬいぐるみに近づき思いっきり引っ張ったがそこには幼馴染である彩花がいた。

 僕は呆然と立ちすくむ。そんな僕に向かって彩花は

 「みつかっちゃった」

と微笑んだ。あの声に聞き覚えがあったのはいつも聞いていた彩花の声だったからだと気がついた。その瞬間、僕の目の前は真っ赤に染まった。そして数秒で、目の前が何も見えないくらいに真っ赤に染まって気を失った。

 目が覚めると家の布団の上にいた。時計を見ると月曜日の七時になっていた。

 何だ夢か。と思いながら最後の光景がふと頭をよぎった。それは、視界が真っ赤になっている僕に向かって彩花が

 「このゲームどうだった?楽しかったでしょ。なんせ私が考えたのだから」

と顔の半分が笑い半分が真顔の状態で話しかけてるシーンだったからである。

 その不思議な夢のことを考えながら学校の準備をして家を出た。学校までの道は普段と同じように忙しく動く車や人でボッタ返していた。

 その通学路で彩花の家の方に振り返ると、そこには別の人の名前が。

 何が起きているのかわからず走って学校に行くと、目を疑いたくなる光景が。クラス分けの掲示板にあの夢で死んだ、和人と最後に僕が見つけた彩花の名前が載っていなかったのである。僕は、ここで初めてあの出来事は夢ではなかったのだと、そして、もう二度とあの二人には会えないのだと知り、クラス分けの掲示板の前で一人立ちすくみ泣いていた。

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