第69話 時空の旅人

 奴隷王の元から皆のいるところまで転移して帰ってきた。


 既に四季以外の者たちは日本へ帰還したらしい。


「まったく、

用が済んだら転移でさっさと帰ってくればいいのに」


「おいドット!奴隷王の奴はどうだった?」


 リンは呆れ顔でクリスは奴隷王に興味があるようだ。


「どうって何がだよ。

とにかくあいつはヤバいな。

現状俺以外対処できないと思うよ」


「ということはドットがいればザラマートは安泰ってことだな!」


 国のことを案じるとはこれでも王家の一員という自覚はあるらしい。


 クリスは楽観しているようだが、今回はただの一対一の喧嘩のようなものだから奴隷王の魔力切れを狙えただけである。


 本物の戦争ともなれば大将である奴隷王が一処で戦い続けるとは考え辛い。


 それに魔力を回復させる手段などいくらでもあるのだ。


 そう考えると奴隷王の対抗策は戦わないこと、これに尽きるだろう。


「失礼します」


 なぜか神官姿の女性が部屋に入ってきた。


「げ!」


「教皇猊下!

こんなところにいらしたのですね!

まだまだ話し合わなければならないことはあるのですよ!」


 つんつんしてはいるが美人の神官さんにクリスは連れていかれてしまった。


「……、クリスが教皇?

こっちの状況は一体どうなっているんだ?」


「ああ、ドットの帰りが遅いからクリスを教皇に仕立て上げた」


「話を端折りすぎじゃないか?」


「これまでこの国を牛耳っていた連中がいなくなるんだよ?

そうなれば誰かが彼らに代わって国を運営しなければならない。

お誂え向きにここは宗教国家だ。

これまで何百年もの間姿を現さなかった龍がいきなり顕現した。

そして人化したヒムロと髪の色以外まったく同じ姿形をした者がいる。

今ではクリスは神の使いとして崇められているよ」


 俺のいない間にこいつは何をしているんだ。


 それにしても嫌な予感がする。


「他にしたことは?」


「セントルイーズ自由交易都市を併合した。

まず闘技場と闇市は廃止して、

傭兵ギルドは解体し奴隷たちも解放する。

そして新しい傭兵ギルドを立ち上げた。

ちなみにそこのギルドマスターはドットだよ」


 こいつは一体何を言っているのだろうか。


「ちょっと待った!

俺もクリスもまだ学生なんだけど?

それにギルドの運営なんて俺には無理だ。

そもそもしたくなんてない!」


「学校?そんなの分身体にでも通わせたらいい。

傭兵ギルドに関してはナデシコたちに任せれば問題ないよ。

それからドットはもっと兵隊を創らなければならない。

この先西側諸国は荒れに荒れるからね。

既に各国に派遣していた傭兵たちには帰還するよう伝達した。

つまり国を守る軍を持たない国がいくつも誕生するわけだ。

近いうちに必ず戦争が起こる」


 さすが元Qちゃんだ。


 まさかここまで考えていたとは思わなかった。


「さて、私と四季はそろそろ行くかな。

短い間だったけど、ドットと共に生きるのは心地良かったよ。

……、そんな顔をするな。

何も永遠の別れというわけではないでしょ?」


 俺はどんな顔をしているのだろう。


「Qちゃん……。

その時が来たら必ず会いに行くから」


 滂沱と流れる涙で視界が歪む。


 そして娘の四季へと向き直る。


「わたしたちが日本へ帰れるのはドットさんのおかげです。

本当にありがとう」


 四季も泣いてはいるが、俺との関係を知らないためただのもらい泣きというやつだ。


「四季。君と会えて嬉しかった。

日本へ帰ったら母さんを大事にするんだよ」


「何ですかそれ。

まるで父親みたいな事を言って……。

こんな時にふざけるなんて良くないですよ」


「おう……」


 本当は父親だと名乗りたかったがそれはできない。


 だからこんな素っ気ない返事になってしまった。


「ドット!

これでしばしのお別れだ!

いつの日にかまた会おう!」


 その言葉を最後に二人は日本へと転移していった。







 俺はしばらくソファーに腰掛けぼーっとしていた。


「そういえば……、

俺は覚醒者に進化したんだっけ」


 ステータスを確認してみると職業が変っていた。


 時空ときの旅人。


 意味はわからないが、それが新しい職業名だ。


 お気に入りだった錬金術師という肩書を失ってしまった。


 俺が軽くショックを受けているとクリスが戻ってきた。


「あれ?もう帰っちゃったか」


 手だけで返事をするがクリスは構わずに話し続ける。


「いやー、酷い目にあった。

みんなさ俺のことを崇めるよう目で見るんだ。

なかには涙を流すやつもいて参ったよ。

しかし王族とはいっても十八男の俺が教皇だってさ。

大出世だよな!」


「俺は新しい傭兵ギルドのギルドマスターだってさ。

面倒だよなー」


「ってことはこれからも一緒だな!」


 まったく暢気な奴ではあるが、沈んでいた俺の心はいつの間にか元に戻っていた。


「そんなことよりさ。

ドットも【時空魔法】を使えるんだよな?」


「まあそうだな」


 イザナクエストの報酬でもらった【スキルクリエイション】で創ることはできる。


「だったらさ……、

これから日本へ行ってみないか?」


「お前何言ってるんだよ。

向こうにも管理者がいて部外者を排除してるらしいぞ?」


「その管理者とやらに見つからないようにするスキルを創ればいいだけだろ。

何も日本へ帰ると言っているわけじゃない。

ただ、ちょっと遊びに行くだけだ」


「……」


 クリスの提案に乗り気な自分を誤魔化せない。


「【時空ときの旅人】か……」


「ん?何か言ったか?」


「いや、何でもない。

よし!日本へ行ってみるか!

でもちょっとだけだからな!」




イザナクエスト完


 

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イザナクエスト 柴咲ゴウゴゴウ(キャットフード安倍) @tttsevenstarsttt

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