第68話 自称錬金王vs奴隷王②

 つらつらと物思いに耽っていたところ、いつの間にかだだっ広い平原へ来ていた。


 そこには不滅隊隊員と思しき者たちが数名待機していた。


 彼らは仲間救出のために集まった猛者たちなのだろう。


「皆は手を出すな!」


「サシで勝負してくれるのか。

別に全員で掛かって来ても構わないけど」


「これはいくさではないからな。

きっとお前の言っていたことは全て本当の事なのだろう。

ならば私は賢者の石を奪おうとする盗賊と変わらない」


 そう言って奴隷王は拳を構えた。


 即席で作り出した刀の切っ先を奴隷王へと向ける。


 互いの呼吸が合った刹那上段から斬り下ろした。


 俺の刀が先に相手へと届く。


 が、袈裟懸けに振るわれた刀は空を切った。


(斬った感触がない!?)


『スキル【アンタッチャブル】の効果によってマスターが奴隷王に触れることはできません』


(そういうことか……)


 俺は刀を二振りの短剣へと錬成し直し斬り掛かる。


 やはり奴隷王の霞のような身体をすり抜けるが、俺に相手の攻撃が当たることもない。


 そもそも力の差は歴然である。


 奴隷王が一発拳を放つ間にこちらは三度短剣を振るうことができるのだ。


 そして互いに相手の身体に触れることができないまま時間だけが過ぎていった。







 一昼夜戦い続けてなお勝負は決まらない。


 俺たちはいつの間にか防御を放棄してノーガードで戦っていた。


 奴隷王は元から相手の攻撃を躱す素振りは欠片もないが、俺も痛覚を遮断しているので痛みを感じることもないし、例え傷ついても瞬時に再生することができる。


 その結果の攻防というわけだ。


 そして当たらない攻撃に奴隷王が苛立ちを見せ始めるようになったころ、リンから念話が入る。


『まだ終わらないの?

こっちは日本へ帰還する準備がすべて終わったのだけれど?』


『将来、奴隷王率いる帝国と戦争になるかもしれない。

だから今のうちに奴隷王を攻略する糸口を見つけておきたい』


 そう返信した直後短剣を握る手に違和感を覚えた。


 それは徐々に大きくなってゆき、その手応えは形となって表れた。


 奴隷王の頬に一筋の赤い線。


 どうやら俺の予測は正しかったようだ。


【アンタッチャブル】はスキルである。


 スキルというからには当然その使用には魔力を使う。


 俺の短剣が奴隷王の身体をすり抜ける度に彼の魔力は消費されていったのだ。


 いくらチートスキルだといっても弱点はあるということだろう。


 ここで攻勢を仕掛ける。


 短剣の勢いは増し奴隷王の身体に付けられた傷が増えてゆく。


「く!?お前の魔力量は一体どうなっている!?」


「あー、魔力は幾らでも創れるから無限?」


 奴隷王の心は半ば折れて既に勝敗は決したが、ここで彼を殺すつもりはない。


 どのようにこの勝負を幕引きさせるか考えているとユランから救いの手が入った。


『マスター、帝国軍がそちらへと向かっています』


 俺は真後ろへ飛び退き奴隷王に告げた。


「勝負はここまでだ!

帝国軍がすぐそこまで迫っているぞ!」


 膝を着いて息も絶え絶えといった様子の彼に提案する。


「帝国軍の狙いはお前だ。

転移で逃がそ―」


「必要ない」


 奴隷王は俺の言葉を遮るようにして言葉を続ける。


「俺の負けだ。モニカは諦める。

それよりもお前の名を教えろ」


「ザラマート王国ピリオッド領領主カール・ピリオッドの三男。

ドット・ピリオッド。錬金術師だ」


 そう言い残し俺はリンたちの元へと転移した。


 馬鹿正直に名乗ってしまったが、よくよく考えてみると俺は帝国内で戦闘行為を働いてしまった。


 国際問題になったらと思うと不安だ。

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