5

「そのまま伏せて下さい!」


 言うが早いか、俺は彼女の上に覆い被さる。


「矢島さん!」坂井だった。


「お前は逃げろ!」


 叫んで俺は目を閉じ両腕で頭を守りつつ、神に祈る。


 せめて、彼女だけでも……


 15:10。


 ライティングが切り替わる。が、爆発は起こらない。


 やはりガスは十分薄まったんだ。助かった……


「矢島さん……」


「あっ……すいません!」


 星野さんの声で、彼女に被さったままなのに気付いた俺は、慌てて飛び退くように彼女から離れる。


「いえ……ありがとうございました……」


 起き上がった彼女の顔は、真っ赤に染まっていた。


---


 逮捕された例のストーカー男の供述によれば、いつも彼女と帰っている俺を見て彼氏と誤解し、失恋の腹いせのため彼女の殺害を計画したらしい。だが、捕まった時に俺がその「彼氏」なのに気付き、今度は俺を爆発に巻き込んで殺そうと考えた。だから俺が現場に向かうように仕向けたのだ。ここまで悪質だと実刑は免れない、という話だった。


「これでストーカーは消えたし、もうボディガードも必要ないですね」


 警察から帰る電車の中。俺がそう言うと星野さんは、はっ、とした顔になるが、すぐに真顔に戻る。


「そうですね。ボディガードは必要ないです。でも……」


 そこで彼女の顔が赤くなる。


「私、まだ矢島さんにお礼してないですよね。パフェって約束でしたけど……よろしければ今日、私の家で一緒に夕食でも……いかがですか?」


 上目遣いで見つめられてしまった。


「え……いいんですか?」


「もちろんです。矢島さんが今日私をかばって下さった時、すごく嬉しかったです。実は私、制服フェチで矢島さんのこと、制服が似合う素敵な人だな、ってずっと思ってたから……」


 なんと。でも、星野さんだって今日は大活躍だったと思う。ぶっちゃけ惚れ直した。


「だからこれからは、その、ボディガードじゃなくて、その……」


「あ、ほら、駅に着きましたよ」


 照れ隠しにそう言って、俺は彼女に背を向ける。


「……ん、もう」


 窓ガラスに反射した彼女の鏡像が唇を尖らせるが、すぐに笑顔になる。


 振り返り、差し出した俺の右手を、躊躇ちゅうちょなく彼女は左手で握った。そのまま俺たちは電車を降りる。ヤバい。俺の中のいろんな物が爆発してしまいそうだ。


 彼女の家まで、ここから5分。


 俺の爆発(?)まで、あと5分。

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爆発まで、あと5分。 Phantom Cat @pxl12160

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