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 爆弾らしいものは一瞬で見つかった。隠されもせず床に置かれていた。が……名刺ケース程度の大きさで、とても爆弾には見えない。それでもこれがそうなのだろう。


 爆発まであと1分。俺は爆弾を持って吹き抜けのテラスに飛び出す。坂井は既にそこにドラム缶を置いて待っていた。そのドラム缶の底の真ん中に爆弾を置く。昔テレビでこういうドラム缶に似た処理筒を使った爆弾処理を見た事がある。この中なら爆発しても、何もない真上に爆風と衝撃波が集中するので被害を最小限にできる。修士(物理)は伊達じゃない。


 残り時間、あと10秒。


「坂井、中に入って壁に隠れろ!」


 そう叫んで俺も室内に戻り、壁を背にして時計を見ながらテラスの様子をうかがう。


 3,2,1……ゼロ。


「あれ……?」


 何も起こらない。とは言え、今ドラム缶の中をのぞき込むのは死亡フラグだ。


「ねえ、矢島さん」坂井だった。「なんか、変なにおいしませんか」


「……ん?」


 そう言えば、確かにさっきから玉ねぎの腐ったような臭いが……待てよ、これ、プロパンガスの臭いじゃないか?


「プロパンガスだ! どこかから漏れてる!」


 慌てて俺たちは臭いをたどる。そして……例の爆弾の設置箇所のすぐ近くに、高さ60cmほどの段ボール箱を見つけた。その側面の一つに丸く穴が開いていて、そこからシューっという音が……


「これだ! 中にガスボンベ入ってますよ!」


 坂井が段ボールを力任せに引きちぎると、10kg用のガスボンベが姿を現した。すかさず俺はバルブを閉じる。


「ふぅ……」


 俺は一息つく。しかし……


 プロパンガスと空気が混ざったこの状況で、何かの拍子に引火したら、下手すればフロア全体が吹っ飛ぶ大爆発となる。そうか……多分アレは爆弾そのものではなく、火花を飛ばすだけの起爆装置だ。テラスに出したのは正解だった……


 その時。


「矢島さん!」


 声の方に振り向き、俺は愕然とする。


「星野さん!」


 再び、星野さんが走ってきていた。何故かほうきを3本ほど手に持っている。


「何で来るんですか! ちゃんと避難して下さいよ!」


 思わず険しい顔で怒鳴りつけてしまった。


「ごめんなさい……でも矢島さん、手伝って下さい!」


「は?」


「この臭い、プロパンガスですよね。実家がそうだったのでよく知ってます。ガスは空気より重いですから箒で掃き出せます。これ、バックヤードから持ってきました!」


 そう言って彼女は箒を差し出し、続ける。


「急がないと、15:10にライティングが切り替わります。その時に火花が飛んだら……爆発しちゃいますよ!」


「ええっ!」


 フォーラムではフロアごとにライティングがあるタイミングで自動的に切り替わる。大電流がオンオフされるその瞬間、電磁誘導で火花が飛ぶ可能性は高い。


「私、ガスの臭いに気づいて……でも、矢島さんに言えなくて……このままじゃ矢島さんが爆発に巻き込まれちゃう、って思ったから……」


「わかりました」俺は箒を2つ受け取る。「だったら自分らがやりますから、星野さんは逃げて下さい」


「いいえ、逃げるのならお二人も一緒です」


「ダメです! 自分らの仕事はここを守ることです。逃げるわけにはいかない!」


「だったら私にもやらせてください! これ、あの人の仕業ですよね。だとしたら私も関係ありますから……もう話してる時間はありません! 始めましょう!」


 そう言って、星野さんは箒で目に見えないガスを掃き始めた。呆気あっけにとられていた俺は、すぐに我に返る。


「……わかりました! 坂井、やるぞ!」


「はい!」坂井が俺の差し出した箒を受け取る。


 現在時、15:05。ライティング切り替えまで、あと5分。


---


 俺たち三人は非常口を開けてガスを掃き出していった。臭いは若干薄れたようだが、爆発しない保証はない。このままここにいるのは危険だ。


 15:09 。俺は坂井と星野さんに逃げるようにうながし、揃って非常階段に向かって走る。が……


「きゃっ!」いきなり星野さんが転んだ。


「星野さん!」


 彼女の右のパンプスのヒールが取れている。あと10秒。間に合わない……!

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