3
そして、今日。
いつものように俺は3階の巡回を開始する。平日の昼過ぎは客もまばらだ。星野さんのショップの前を通りかかる。接客中だったが、彼女は俺に気付くと一瞬片目をつぶってみせた。"今日もお願いします"のサイン。俺もウィンクを返す。"了解"。
このささやかなやり取りが嬉しくてたまらない。ボディガードも4回目。だんだん彼女との会話も弾むようになってきた。勤務明けのそれを楽しみに俺は巡回を続ける。
しかし。
ふと、ツナギの作業服を着た業者と思われる中年の男が、前から空の台車を押しながら歩いてくるのに気づいた時、俺の心の中で警報が鳴る。
おかしい。出入りの業者は大体把握しているが、こんな作業服は見た覚えがない。しかも、胸に入店許可証がない。出入り業者なら必ずつけているはずの。
「すみません」
そのまま俺の右を通り過ぎようとしたそいつを、俺は呼び止める。
「どちらの業者さんですか? 入店許可証を……」
そこまで俺が言いかけた時だった。
「!」
いきなりそいつが俺に向かって台車を押して手を放したのだ。そして
「待てぇ!」
迫ってくる台車をジャンプでかわし、俺はそいつを追った。意外に足は遅い。タックルすると、そいつはあっけなく床に転がった。
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「出入り業者のふりをして、
1階警備員詰所。俺はもう一人の警備員、後輩の
だが。
ふいに、俺を見たそいつが驚いた顔になり、やがてニヤリと笑うと口を開いた。
「フォーラム3階に爆弾を仕掛けた。15時ちょうどに爆発する」
「!」
俺は思わずそいつの襟首を掴む。
「本当か?」
「ああ。北側通路の真ん中あたりだ。そこの床にデジタル表示でカウントしている黒い機械がある」
時計を見る。14:55。あと5分しかない!
「坂井!」俺は坂井に顔を向ける。「倉庫から空の
「わかりました!」弾かれたように坂井が走っていく。
そして俺は非常ベルを鳴らし、非常放送のスイッチを入れる。
「ただいま3階にて火災が発生しました。お客様は店員の指示に従い、速やかに非常階段で避難してください。繰り返します、ただいま3階にて……」
一通り放送を終えた俺は3階に上がる。北側通路の真ん中……星野さんのショップの近くじゃないか!
既に3階に客は誰もいない。店員が誘導したようだ。
「スタッフの皆さんも避難してください!」
俺が大声を張り上げると、店員たちも非常階段に向かって走っていく。だが、一人だけこちらに走ってくる女性がいた。星野さんだ。ゆさゆさと揺れるバストに釘付け……になってる場合じゃない!
「矢島さん!」
「星野さんも避難してください!」
言い捨てて俺は走りだそうとするが、
「待って!」
星野さんが俺の右手を掴む。
「星野さん……?」
「矢島さん、さっき男の人追いかけてましたよね……あの人、私のストーカーです!」
「!」
衝撃だった。だが、今はそれに気を取られている余裕はない。
「……とにかく逃げてください! それじゃ!」
「あ、待って、あともう一つだけ……」
彼女の手を強引に振りほどき、俺は駆け出した。
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