第3話

「まぁいいです、今日の部活を始めましょう、露葉先輩」

「え、ええそうね、さっさと始めましょう、芝地君」

 今日の部活も、ほぼいつも通りにスタートしました。

 私たち二人の在籍する部活は、何の変哲もない英語部です。

 私は元々英語が一番好きだし得意だったのですが、彼は入部当初英語が得意ではなさそう、というかどちらかというと苦手そうなのですが、何故ここに入部したのでしょうか、その原因は私には未だに教えてはくれません。

 あれだけ訊いたのに。意地悪なんです。

 ただ慢性的な部員不足の我が部には退部者は一人でもいれば致命傷になってしまうので、元より悪い扱いをするつもりはありませんでした。

 なので、部員が多かった頃から彼には私がみっちり英語を教えてあげました。

 彼はそれで少しづつではありますが、英語の成績が上向いていると嬉しそうに話してくれました。

 その日は私も自分事のように喜びました。

 そんなアットホーム感もあって、ここに居続けてくれるのだろうと思っています。

 結局その距離の近さが、私がこんな恋に落ちてしまう切っ掛けにもなったわけですが……

 私が恨めしさも込めて彼に目線を送ると、彼もずっと私を見ていたようで、目が合ってしまいました。

 普通なら気恥ずかしさですぐに目を逸らすところですが、今日に限っては彼から目が離せなくなってしまっていました。

 それは彼が、いつにもなく真面目な顔をして私の瞳を見つめていたからです。

 まさか……復縁!?

 何故でしょう、嫌ではないと思っている節があるのが少し悔しいです。

 すると彼は決意を固めたかのように立ち上がり、


「そうだ先輩、新たにここへの入部を希望してくれている生徒を見つけたので、紹介してもいいですか?」


 と言いました。

 私個人としては心の中にある謎のガッカリ感もあってか、少し不満がありましたが、部活であることを考えると背に腹は代えられないので、私はその提案を渋々了承しました。

 そしてその判断を聞くなり、その人を呼んでくると、彼は部室を飛び出していきました。

 三分くらい待ったでしょうか、その入部希望者さんを連れて来たのか、ドアをノックする音が聞こえました。

 入っていいですか、と彼の声で訊かれたので、いいですよと答えました。

 すると彼がドアをゆっくりと開けました。


「露葉先輩、こいつが新しい入部希望者です」

「初めまして、桜本さくらもと珠萌たまもです。これからよろしくお願いします、巴川露葉先輩」


 そう名乗り、部室に堂々と入ってくるこの女子生徒。

 名前は彼から本当に暇な時の駄弁り相手として話をしていましたので苗字は知っていましたが、女子だというのは知りませんでした。

 そんな桜本さんが、私を見るなり、挑戦的な笑みを浮かべながら挨拶をしています。

 何か嫌な予感が、体中を駆け抜けています。

 そしてその予感が示す危機は予想よりもすぐに、目の前にやってくるのでした。


「ということで、こいつが俺の新しい彼女です。 これからもよろしくお願いしますね、

 と、彼の声。

「新しい、って、えっ?」


 私はこの一言を誰にも聞こえない声で零すくらいしか出来ず、そのまま部室を後にする彼を追いかけることができませんでした。

 後に残されたのは、私と桜本さんと、その間を支配する深い沈黙のみ。

 その沈黙に呑み込まれ、私は暫く動くことすら出来ませんでした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大好きだった先輩と喧嘩別れしたので、偽装彼女を使ってよりを戻そうと思っています @Hakoniwa_19

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ