第2話
私、
もしかしたら私はかなりハイスペックな美人さんなんて見られているかもしれませんが、その実態は部室やお家の中ではかなりずぼらな性格という典型的なダメ人間で、他の人に面倒事ばかり押し付けているような人ですからね。
去年の部員さんも、そのせいか皆抜けてしまいましたし。
そんな中でも一人だけ、こんな廃部寸前の所に残ってくれた方がいました。
もうお気づきかもしれませんが、その人こそ、今の私の彼氏である、
彼は何故か知りませんが、私の側にずっといてくれました。
その上他の部員さんがいつも嫌がっていた毎月の掃除当番も、彼は嫌な顔一つせず引き受けてくれました。
そうしてずっと二人きりの生活を送っているうちに、私は一つの願望を抱くようになりました。
『芝地君とお付き合いしたい』と。
私自身叶わぬ想いだと思っていました。
私のことを完璧美人だと思っているほかの人々とは違って、彼にはマイナスな印象をずっと与え続けていたのですから。
本人は気にしていませんが、意外と彼って有名人なんですよ?
しかも髪型のみならず私服まで地味な私に、彼の相手なんて務まるのか、なんて毎日考えて、勝手に一人でブルーになっていました。
けれどもそんな理性で私のハイになっている本能を抑えられるはずもなく、日増しに彼への想いは強くなっていきました。
でも私には告白できるほどの勇気がありませんでした。
私にできることは、近所の神社に、『芝地君と両想いになれますように』というお願いを毎日することだけでした。
ただお参りを始める前に気構えが揺らいでしまい、私との幸せではなく、彼自身の幸せのみを願うようになっていきました。
すると丁度百日目のお参りを終えた四月のある日に、彼に遊園地でのデート(?)に誘われました。
朝から隣町の外れにある遊園地に入場したのですが、ジェットコースターで私がフラフラになっている状態でお化け屋敷に入ってしまい、失神してしまった、なんてこともありました。
でもそれ以外は私にしては珍しく特に問題は起きず、私は一日中そこで楽しむことができました。
それだけでも充分満足でした。
でも、欲張りな私はずっとそれを求めていました。
それでも両想いなど期待してはいませんでしたが、まさか夢にまで見た彼からの告白を、現実で受けられるとは思っていませんでした!
その時は心臓がバクバク高鳴りっぱなしで、何とか先輩としての威厳を保つために頑張っていましたが、告白されてしまったときにはもうその気持ちを抑えきれず、私はいきなり彼に抱き着いてしまいました。
因みに家に帰ってすぐに、顔を真っ赤にしてしまうほどの恥ずかしさと、忘れられない彼の体の温もりで足をバタバタさせ、声にもならない声を上げながらベッドを転げまわることになるのですが、それはまた別のお話。
閑話休題、勿論それを断ることなど出来ず、晴れて私は彼と恋人同士になりました。
もうその時の私はもうそれはそれは嬉しすぎて、翌日の学校に必要なものの殆どを忘れていくほどでした。
しかもその日必要なものが同学年の友達だけではどうしても集まらず、一部を彼にも借りることになってしまったという事件があり、生涯この上ないほどの恥となってしまいました。
そんな波乱も起きてしまいましたが、それからの二か月間、私は芝地君と幸せな時間を過ごしていました。
ある時は遠くの街にお出かけしてみたり、またある時には芝地君のお家にお邪魔して勉強を教えたり。
その中でお互いの呼び方も変え、私のことは露葉先輩、芝地君のことは拓哉君と呼ぶことになりました。
拓哉君は最後まで自分のことを呼び捨てで呼んでほしいと言っていましたが、流石にそれは私が却下しました。
……『呼び捨てで呼んだら私自身がどうにかなっちゃいそう』なんて言えなかったので、半ば無理やり『先輩』を付けさせた形になってしまったのは少々心残りですが。
とにかく、そのなかの一日一日がかけがえのない宝物のような日々でした。
ただ、ここで一つの疑問が生まれるでしょう。
ここまで私がずっと惚気話をしてきたのに、それが何で崩壊寸前にまで到達してしまったのか。
それはただの喧嘩が拗れただけ、なんて言われているかもしれませんが、本当はそうではありません。
私は今からそれを遂に告白して……
「おーい、露葉先輩」
「にゃっ!? 拓哉く……じゃなくて芝地君、どどど、どうしてここに!?」
梅雨に入り、雨でジメジメした雰囲気が漂う六月。
夢のような、でも現実として起きていたことの回想から醒め、入口へと視線を向けると、一人でいたはずの部室に、いつの間にか芝地君が立っていましたた。
噂をすれば、というやつでしょうか。
それに今私がいるここは施錠されていて、部長である私と顧問の先生以外は開けられないはずじゃ……?
タチも運も天気も悪いですね、なんて言って素直に受け容れられるはずもなく、私にはただ彼を見ながら「違うんです、これは、そうじゃないんです」と、腕や首を左右に振り、聞かれてもいないことの釈明をすることしか出来ませんでした。
「いや、普通に部活しに来ただけですし。それに、『私がいなくても合鍵があれば大丈夫だぞ♡』って一方的に押し付けてきたのは先輩じゃないですか」
「~~~~!! そんなこと知らない!」
「いや、知らないと言われましても……まぁいいです、今日の部活を始めましょう」
こうして、二人だけの部活が、今日もスタートしました。
この後、この部室を舞台にひと悶着起こってしまうなんて、今の私には知る由もありませんでした。
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