大好きだった先輩と喧嘩別れしたので、偽装彼女を使ってよりを戻そうと思っています
貝
第1話
俺、「
いや、今でも好きだが。
彼女は元々俺と同じ部活に所属していて、部員も二人だけで、そんなものだからお互い話をする機会もほかの人と比べて特段に多かったというのも、俺らの心を大きく揺れ動かした原因でもあったのだと思う。
少し下世話ではあるが、彼女の容姿が黒髪ロングで黒タイツという俺の好みドストライクであったところも要因の一つとして書き連ねておくべきだろう。
そして、俺が高二になた今年の四月、彼女に俺が告白した。
彼女は笑いながらも、頬を真っ赤にしながらそれを承諾してくれた。
この時の俺の心はというと、胸が躍るという表現が酷く陳腐に見えてしまうほどの喜びようであった。
本当に彼女のことが大好きで、一日でも彼女の声を聴かないと、翌日の授業に全く集中できないほど彼女の存在に依存しきっていた。
それなのに先日、あんな喧嘩をしてしまった。
最初は他愛もないちょっとしたじゃれ合いのはずだったのだが、話が熱中していくにつれ言葉遣いが二人とも荒くなってしまい、付き合い始めてからその時までの二か月間でも全くしなかった喧嘩というイベントを、人生のうちでもこれ以上ないというほどの過激さでやってしまったのである。
当然ながら、お互い気まずくなってしまい、二週間経った今でも
ただ、あの喧嘩の原因は間違いなく彼女だと思っているし、自分から頭を垂れてもう一度零からやり直しましょうなんて言えたものではない。
幾ら最愛の先輩と言えども、ここだけは譲れないのだ。
絶対に譲れない戦い、ここに現る。
よーい、どん。
とはいえ、どうすればこのどうしようもない状況を打破できるのか、俺には皆目見当もつかなかった。
なので、俺はいつものように、あいつの許に寄り、作戦を練ってみることにした。
「なぁ
「なんで私にそんな質問をすんの? そんなのあんただけで考えてよ」
「つれないなぁ」
こいつは「
こいつは今日も今日とてカラフルなカバーを付けたスマホをいじりながら俺の話を受ける。
こいつの短いスカートをめくってみたらどんな反応をするだろうか。
因みにこれでも態度は軟化したほうで、昔は幾ら話しかけてもガン無視されてしまうほどの嫌われっぷりだった。
「別にあんたなんかに好かれるために生きてる訳じゃないし。 で、何の用だっけ?」
「忘れるの早すぎでしょ」
「ごめんごめん、拓哉様の有難いお説教は有難すぎて私には退屈に聞こえてしまうのが多いから」
「それは流石に俺に対して当たりが強すぎないかな、ねぇ?」
「はぁ……」
こんなどうしようもない会話になった挙句、溜息まで
ただ、こいつと話している間に、俺は妙案を思いついてしまった。
「珠萌、俺の偽装彼女になってくr」
「は? 嫌ですけど」
「ひどーい」
余りにも早い拒絶反応の返事に、
なんてこったい、俺の現状打破への渾身の一手が見事に封じられてしまっただと……?
「な、頼むよ。 俺とお前の仲だろ?」
「いや、それでも彼女役は役不足だって」
「どこまで尊大なんだね君は」
「だってアンタの彼女役なんてそんなもんでしょ、彼氏役がこれじゃ難易度が高くなる要素が見つからないじゃん」
「確かに俺だけだったらそうかもしれないけどさ、それでも彼女役なんて難しいと思うよ、だって相手は何といっても成績校内トップの『鋼鉄の露ちゃん』だし」
「何その異名」
「俺が今考えた」
「はぁ……」
また溜息を吐かれてしまった。
本日二度目である。
「まぁでも確かに、そっちは難しそうかも」
「だろ? でもお前だったらそう難しくはないだろうからさ、お願いします」
これ以上会話していても埒が明かないと思い、両手をぴったりと合わせた状態で深く深く頭を下げ、お願いしてみる。
「うーん、仕方ないか、じゃあ条件付きでなら、アンタの提案を受けてあげる」
「受けてくれる!? ありがとう! やっぱり俺の珠萌は今日も聖人だな」
「お、俺の……!? アンタ、何言って……!」
わなわなと身を震わせる珠萌。
よく考えたら、これじゃあ俺がこいつを露葉先輩とまとめて一緒に二股にかけようとしているように見られるじゃないか。
急いで修正しなくては。
「あー待て違う、別にお前に好意があるわけじゃないからな、俺はずっと露葉先輩一筋だから」
「……」
今度は完全に黙り込んでしまった。
と思ったら、不意に珠萌ががばっと顔を上げて、俺のことをじっと見つめてきた。
しかも珍しく彼女がスマホをしまい込んだ。
普段ではありえない彼女の行動に、思わず後退りしたのだが、それで空いた距離の分だけ彼女も距離を詰めてくる。
「ねぇ、さっき私、『条件付きで』って言ったよね?」
「ああ、確かに言ってたな」
「だったらその条件、また今度決めさせてもらうね」
「あ、ああ。 お前がそうしたいなら別にいいよ」
「ありがと。 じゃあね」
それだけを言い残し、彼女は再びスマホをいじりだした。
もうこれ以上の会話はしないという意思表示だろう。
それなら仕方ないと、俺も自席に戻った。
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