第3話 真実と復讐(最終話)

「いやだ、やめて、そんな、うそでしょ」

 イザイラは、明らかに動揺している。


「大丈夫よ、あなたが嘘を言っていなければ、悪いのは、私でしょ? みんなに判断してもらうために、あえて、真実を話すと書いたのだからね」

 さあ、チェックよ。これになにか対抗策を打ち出せるのかしら?


 だせなければ、チェックメイト。

 あと、50秒ね。


「そんな――私は、ただ……」


「ただ? 何なのかしら? まあ、いいわ。あと数十秒後には、すべてがわかる。私が悪いのか、それとも、あなたがすべて自作自演をしていたのか」


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


「謝る必要はないわ。だって、あなたは被害者なのでしょう。すべては、私が仕組んだことで、あなたは私を罰して王子様と楽しく過ごせるのよ? とても、楽しみね」


 あと、30秒。

 イザイラは、化粧も崩れて、汗と涙ですさまじい形相になっている。でも、こんなことで私の怒りは収まらない。


「もし、あなたがすべての黒幕なら、魔術法違反と傷害罪、それから、王族と公爵家の仲違いを計画した罪で、国家反逆罪になってしまうかもね。あなたの計画は、内乱につながりかねないほど危険な行為だもん。もちろん、男爵家は取り潰し。残念ながら、あなたのお父様は処刑されてしまうかもしれないわ。首謀者のあなたも――きっとね」


「いやああぁぁぁぁぁあああああああ」


「イザイラ、なにか言ってくれ。お前は、被害者なんだよな? そうなんだよな?」


 あと、15秒だ。観衆たちは、王子と自作自演女の茶番を、冷たい目で見つめていた。


「いや。死にたくない。言いたくないぃ。私は、お妃さまになって、みんなにうらやまれる幸せな生活を……」


「10、9、8……3、2、1、0。時間ね。イザイラさん、私の質問に答えて。あなたは、黒魔術で周囲の人間を操って、私を追い落とそうと計画した、違いますか?」


「ちがう、ちがう、ちが……あっ」

 彼女は必死の抵抗もむなしく、黒魔術の影響下に落ちる。


「そうです。私は、自分が王妃様になるために、エリザベスを失脚させようと計画しました」


「黒魔術も使ったことを認めますか?」


「はい、叔父様に頼んで、黒魔術の道具を密輸しました。もちろん、お父様にも相談の上です。いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 観衆たちは、言葉を失った。

 悪女の絶叫だけがホールにこだました。


「みなさん、これが真実です」

 私は、高らかに勝利を宣言した。


「嘘だろ? 俺は、お前のことを信じていたのに……」

 王子も泣き崩れるイザイラをぼう然と見つめている。


「さて、兄上。あなたは、エリザベス公爵令嬢を冤罪で糾弾し、陛下の許しもなく勝手に婚約破棄する暴挙に出た。これは、許されない行為です」


「……」

 元婚約者は、頭を垂れて、地面に向かってわけのわからないことを小声でつぶやいていた。


「陛下からすでに、裁可は得ております。まず、兄上。あなたは、今回の件で犯罪者を擁護し、婚約者であったエリザベス公爵令嬢を公衆の面前で愚弄した。あなたは、王族にはふさわしくありません。残念ながら、王位継承権は、はく奪。廃嫡なりますので、別命あるまで、王宮で謹慎してください」


「……」


 これは、島流し寸前ね。王宮にいても謀略に巻き込まれる危険性があるから、どこかで飼い殺しされることになるはず。


「そして、今回の主犯である男爵家は、すべての爵位と領地、家財を没収。男爵は、裁判にかけられます。また、イザイラは、奴隷身分に落とし、黒魔術使用の罪で、声が潰されます。もう、あなたは、どんな陰謀にも関与できない」


 声を潰されてしまえば、もう黒魔術は使えない。

 女の奴隷身分であれば、成り上がりの商人や裏社会に買われることが多い。そうなってしまえば、ある意味、死よりも辛い状況になるだろう。それも、元貴族の称号がそこでは、逆の方向に作用してしまう。


 高貴な身分の女だったというのは、支配欲に満ちたゲスな男たちにとって愉快なスパイスなのだから……


「いやああぁぁぁぁぁあああああああ。奴隷なんて嫌だぁぁぁっぁ。私は、王妃様になるはずだったのにぃ」


 イザイラは、衛兵たちに連れられてどこかに消えた。

 たぶん、もう会うこともないだろう。


「エリザベス公爵令嬢。この度は、本当に申し訳ございませんでした。王族を代表して、あなたにお詫びいたします」


 さすがは、王族の最高傑作と言われるカール王子だ。聡明でうらやましいわ。


「ええ、でも、殿下が謝ることではありませんよ」


「陛下は、あなたのことをとても心配しております。公爵家には、この度の兄の愚行に対して、誠意をもって対応させていただきます。なにか要望があれば、言ってください」


「ならば、私は留学に出たいと思います。その費用と推薦状を書いていただくことはできませんか?」


「留学ですか?」


「ええ、残念ながら、私はこの後の予定がすべてなくなってしまいました。ほとぼりを冷ますためにも、知見を広げるためにも、世界をもっと見たいのです」


「わかりました。陛下と王宮魔導士様、おふたりから推薦状をいただきましょう。その2通があれば、世界中のどこでも学ぶことができるでしょう」


「ありがとうございます」


 さすがに、こんなことになってしまったから、しばらくは縁談の話もでてこないだろうなぁ。それなら、今回の件で作った王家への貸しを有効に使って、人生を謳歌してみせる。


 私の新しい人生は、今からはじまる。

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悪役令嬢は倒れない!~はめられて婚約破棄された私は、最後の最後で復讐を完遂する~ D@11月1日、『人生逆転』発売中! @daidai305

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