第2話 逆襲
「不敬罪で、この場で切り捨ててやる! お前たち、この女を拘束しろ」
場は、騒然となった。兵士たちが私を取り囲んだ。
「そこまでだ! 残念ながら、逮捕されるのは、あなたです、兄上!」
混乱したパーティー会場に、ひとりの貴公子が現れる。
「カール。どうして、おまえがここにいる!」
「この混乱を収めるためです、兄上。すべては、エリザベス令嬢が教えてくれますよ?」
「私が、こんな茶番に手をこまねいてみているだけの、か弱いレディだと、思っていたんですか? 元・婚約者様?」
「なにを言っている……」
「最終的には、私が勝つって言ってるんですよ、このバカ王子っ!」
さあ、披露しよう。
愚者たちの円舞曲を……
※
「イザイラさん、私の父は外交を司る国務尚書だとご存知かしら?」
「ええ、知っています。そうやって、家柄を誇るつもりですか……潔く負けを認めてください」
話をしているだけでも、イライラする。私を敵に回さなければ、こんなことにはならなかったのに……
「国務尚書は、輸出入を取り扱う税関も管轄なのは、ご存知?」
「えっ?」
そんなことも知らないで、王子様に近づいたんだ。
「それでね、禁書となっている黒魔術の書籍や道具の密輸がこの前、見つかったらしいんだけど、どうやら輸入元は、あなたの叔父様が経営している会社みたいなのよ。すごい偶然ね?」
「私は何も知りません」
「そう言うと思った。でもね、会場の皆さん、これだけは覚えていてほしいわ。その密輸は、何度も繰り返されていた形跡があるらしいわ」
会場が違った意味でざわつきはじめた。
イザイラは、少しだけ顔色が悪くなっている。
でも、もう許せないわよ?
「そして、もうひとつ。実は、私は1年前から、突然、意識を失い行動する夢遊病のような症状がでてしまっていたんですの。医者に診てもらっても原因不明で困っていたんですが……」
「それを、口実に逃げるつもりか!」
バカ王子は、黙っていてほしいんだけどな。
「違います。父のつてを使わせていただいて、王宮魔導師様に診察していただいたんです。彼は、何と言ったかわかりますか? ジェームズ様?」
「まさか……」
「そのまさか、黒魔術を使用されている痕跡があるって……ええ、おかしいですわね。黒魔術は、許可が無いものが取り扱えば重罪。その許可は、王宮魔導師様しか持っていない」
私はゆっくりとバカップルを追い詰めた。
「でもね、この王国には、黒魔術を使えるかもしれない存在が、王宮魔導師様以外にもいることは皆さまもご存知ですよね?」
状況証拠は、そろっている。
「イザイラ様のご実家……黒魔術の禁書を秘密裏に輸入していたのはまさか……」
学生の誰かが気がついたようだ。
「ええ、黒魔術は、人の意思を操作できるほど危険なもの。使うだけで重罪ですわ」
私は勝ち誇った顔で、イザイラのメンタルを削り続ける。
「そんなものは証拠がないじゃないですか! たしかに、叔父様が不正をしたかもしれません。しかも、私がその主犯なんて、論が飛躍しすぎです!」
「わかっているわよ。そんなこと。でも、あなたは、もっと勉強した方がよかったわね? 実は1週間前に、学校が所有する森の中で灰が見つかったんです。随分、新しい灰でほとんど回収できたわ」
「灰なんて言われても、意味が分からないわ」
「無駄なあがきね。知らないなら、教えてあげるわ。黒魔術が作用したものは、たとえ燃やしても、適正な処理をしていなければ、魔力で簡単に復元できるの!」
「えっ……」
「そして、こちらがその復元したもの。たくさんの紙と一本のペンがでてきたわ」
見る見るうちに、イザイラと王子様の顔は青くなった。
※
「6月30日 12時50分
エリザベスが、私を池に突き落とす」
「2月15日 15時
クラスメイトみんなに、エリザベスが私を階段から突き落とした幻覚を見せる」
「3月1日
食堂の料理人が、私の食事に針をいれたことを自供する。
首謀者はエリザベス」
※
「おそらく、あなたは、このペンのインクに黒魔術をこめていた。きっと、操作系の魔力ね、違う? 日時を指定して、人を思い通りに操れるというところかしら」
「知らない、知らないぃ。これは全部、あんたのでっちあげぇ」
「さきほどとは、まるで性格が違うみたい。まぁ、いいわ。なら、ここにいる皆様に判断をゆだねましょう」
「なにをするつもり?」
「簡単なことよ? あなたが私たちにしたことと同じこと」
王宮魔導師様にお願いして、1度だけ私がこのペンを使うことを許してもらっている。
私は、紙に一言だけ書き足した。
※
「1分後
イザイラが、すべての真実を話す」
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