おまけ〈ユリ・オブ・ザ・ダークネス〉

 とある昼休み。

 私はゆうさんと昼食をともにしていた。


「悠さん悠さん、ユリ・オブ・ザ・ダークネスって知ってる?」

「あー……いや、うんん、知らない」

「なんかね、うちのクラスの向日葵ひまわりさんが書いてる小説なんだって。私は見たことないけど、女の子が血反吐を吐きながら恋に友情に、いろいろ頑張るみたいだよ」

「へえ。恋とか友情は、テレビとか小説では目にするけれど、実際はよくわからないんだよねー……っていうことで、優葉ゆうはちゃんわかる?」

「わかる! とてもよくわかる!」


 悠さんはちょっとおっとりしてて、雰囲気が独特で、この前にもホムンクルスがどうとかっていう話をしていたけれど、私は錬金術とか魔法とかよくわからないし、一族の中でも賢くないし、結論、よくわからないので死ぬ程どうでもいのである。

 そして死ぬ程、悠さんが好きだ。


「おー、頼もしい。じゃあ教えて―」

「それはね……いや、よくわからない」

「そっかー」


 悠さんは突っ込まない。

 私が知ったかぶりをしても、それは『やっぱり知らなかった』と解釈してくれているのか、怒られたことはない。


「悠さん、豆腐、おいしい?」

「うん。豆乳よりおいしいかも」


 今日は悠さんに手作り豆腐をふるまっている。

 女子力の限界は豆腐に凝縮されているわけだが、

 それが伝わっているようなら私もうれしい。


「いつか絶対に言葉にするからね」

「言葉……?」

「大好きだってことをね……あ、豆腐が」

「なるほど。じゃあそれまで、よろしくね」


 めずらしく、悠さんが笑った。


「それまでじゃなくて、それからも、だよ!」

「よくわからないけど……向日葵がさっきからじーっとこっち見て何かメモしてるのが気になるんだよねー」


 あの人は前に、自分は観葉かんよう植物だと言った。

 私たちが寛容かんようでいるのが肝要かんようなのか?

 まあ……いったん置いておこう。


「いいのいいの。気にしないで、午後に備えてガッツリ食べよう!」

「……? うん。そうする」


 すべてはこれからだ。

 私はそれまで豆腐を作る。

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好きな子が豆腐をつれてきた話 向日葵椎 @hima_see

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