その生まれから、名のある貴族の血を引きつつも屋敷では人間のように扱われなかったエリーゼ。
何も考えるな。言われたことだけをやればいい。意思など必要ない。そう言われて育ってきたエリーゼが、言われるがまま残虐な噂の絶えない将軍のもとに嫁ぐことから始まる物語。
序盤から中盤にかけては、エリーゼが人形から人間へと戻るお話へ焦点が当てられます。
とにかく何事にも怯え、人の視線やあるいは厚意を素直に受け取ることのできないエリーゼ。地の文は彼女の視点から描かれる三人称なので、読んでる側からしたら「そうじゃないよ!」って伝えてあげたいのにそうできないのがもどかしい。なのでゆっくりと、それでも確実にエリーゼの心が開かれ、人間らしく生まれ変わった瞬間は心の底からほっとしました。
中盤から後半にかけては王宮に渦巻く陰謀へ。
ここまで読むと、序盤の人間関係ががらりと変わって見えてくるので面白いです。
そしてエリーゼが凄く強い女性になっていて、長らく自分を虐げてきた相手にハッキリと自分の思いを告げるシーンには胸が震えました。
文章が美しく、けれど読みやすい。1話の長さがちょうどいいのもあるのかも知れませんが、気付けば結構な量を一気読みしてしまいました。
エリーゼの芯の強さがとてもかっこよかったです!
不遇な少女が、皆から恐れられている将軍に嫁がされ、けれど相手は実は素敵な男性で、彼に愛され幸せになっていく——そんなよくあるシンデレラストーリーかと思いきや、この物語の主人公は少し違いました。
その出生から虐げられて育ったエリーゼは婚約者の死のすぐ後に、まさかのその婚約者の死を招いたとされる狼将軍ヴォルフリートのもとへ嫁ぎます。ところが彼は自身の境遇に厭世的になっており、死を望んでいた——。
エリーゼは運命に流されているようで、その実、嫌なものは嫌としっかりと内心では認識しています。はじめは心の奥底で祈り、願うだけでしたが、やがて本当に大切な人を見出し、彼を愛し、包み込み、そしてその愛を守るために、以前ならただ俯き従うばかりだった人たちに立ち向かい、さらには何の躊躇いもなく危険に飛び込んでいきます。
自身も辛い経験をしていながらも、ただ守られるばかりでなく、自ら愛し、立ち向かうことを決断した彼女はその儚く美しい容姿や性格の描写にもかかわらず、とても凛々しく、なんというかとても格好よかったです。
もちろんヴォルフのはにかむような優しさと格好良さもとっても素敵だったのですが!
番外編でのミアのお話が、この物語にさらなる深みをもたらしてくれていました。
そしてとっても甘い二人の番外編……ごちそうさまでした!
権謀術数渦巻く王家の陰謀とそれを乗り越えていく運命の二人のめくるめくロマン。
素敵な物語をありがとうございました!
封建制度の強い王国で政治的な思惑に振り回される令嬢と将軍の、政略結婚から始まる恋愛ストーリーです。
私生児ゆえに虐げられてきた良家の令嬢エリーゼは、婚約者の死を悼む猶予も与えられず、政略的な生贄として、残虐で野心的と名高い将軍ヴォルフリートと結婚させられることになります。
憂鬱な想いと募る恐怖を押し殺しながら将軍の家へと迎え入れられた彼女は、そこで彼の意外な一面を目にすることに――。
丁寧に心情を描きだしつつ進む物語は、読者にやるせなさともどかしさを想起させてくれます。
貴き家名を誇る人々のはけ口とされてきたエリーゼには、自分が優しく大切に扱われる価値があるとは考えられません。自分自身の価値を軽く思い、向けられる愛情を受け取ることができない彼女ですが、夫となった将軍の内面に触れることで、少しずつその考えが変化してゆきます。
ヴォルフリート将軍もまた、強すぎる罪の意識に苛まれ、正しく優しさや愛情を受け取ることができない人物です。
互いが、互いの傷に気づいたとき、その関係性は形だけの夫婦ではなくなっていくのですが、同時に二人の周りでは陰謀も蠢いています。差し向けられる悪意を乗り越えて、二人は幸せをつかめるのでしょうか。
本編は完結しており、後日談と番外編もあって、一気読みにもちょうどいいサイズです。ぜひご一読ください。
暗い影を落とす二人に幸あれと願わずにはいられません。
生まれを疎まれ、使用人のように扱われてきた令嬢エリーゼは、自らの婚約者を戦地に送り、殺したと囁かれるヴォルフリート将軍のもとへ嫁ぐことになります。わかりやすい政略結婚であり、エリーゼもそれをわかっていて向かうのですが、将軍と話をすることで今まで聞いてきた「事実」と異なるものが見えてきます。
エリーゼもヴォルフリート将軍も、周囲から疎まれてきた存在です。将軍は血も涙もない残酷な人だと言われてきたけれど、それは必ずしもすべて真実とは言えないし、エリーゼのいた世界がいかに狭く、偏った教育を(むしろ洗脳を)施していたかがわかります。意思を抑圧され、隷属することで生きる術を得ていたエリーゼが、将軍のもとに嫁ぎ、自ら見識を広めていくことで、少しずつ自立し意思を持っていく姿を応援したくなります。まだ弱々しくはありますが、二人並んで支え合い、わかちあう間柄になれますようにと祈りながら、物語の行く先を見届けたいと思います。