第126話



 村人たちは妙に協力的で、すぐに手紙を書いて王都に送ってくれた。

 ツケばっかりでろくに金も落とさないエセ勇者を追い出してくれたお礼、とかなんとかふしぎな感謝のされかたもしたが、まあいい。

 それから2度3度、別の村でも同じような方法を試して……


 次の村へと赴く途上。

 だいぶ王都にも近くなった街道で。


「ついに現れたな! 村荒らしの魔王め!!」


「……え……」


 いや……

 え~っと……

 ぞろぞろと、俺を討伐しに来たんだろう人間たちが、50人近くも現れてくれたのはいい。

 それはいいんだが……

 このキンキンとよく響く甲高い声……


「なんで……お前が? ポドンゴ隊長……?」


「なんでとはなんだッ!?」


「え、なに、口上までお前が言うとか、ひょっとしてまた隊長なの? お前が……?」


「お前って言うな!」


「いや、だって……え、手紙見た? 見たから来たんだよな? 恐ろしい容赦ないマジヤベエ魔王が現れた、王国最強の勇者でないと倒せない、とか書いてあったはずだが……」


「だから私が来たんだろうが!」


 なんてこった。

 この国の人材不足なめてた。


「それに、魔王とかどうとかは書かれていなかったぞ!」


「え? じゃ、なんて?」


「勇者志望者では歯が立たないくらいの変態が村を襲ってきた、と」


「うそだろ」


 そんなふうに思われてたの!?

 なんだ変態って!

 感謝はどこへやった村人ども!


「変態の正体が、まさか貴様だったとはな! アードランツの魔力に取り込まれ、正気を失ったかゼルスン!」


「違うやいっ! 俺は魔王なの! ほんとは! 正体を隠してお前らの討伐隊にもぐりこんでたの!」


「なにいっ!? なぜそんなことを!?」


「話すと長いから言わない!」


「いいだろう聞かない! 者どもこの変態をとっ捕まえろおーッ!」


 うおおおおお、とまた冒険者を寄せ集めたんだろう部隊が突撃してくる。

 テンポの良さは評価するけどなあ……


「これじゃ確かめらんねーじゃねーかよー……」


「つ……っ強い……!?」


「そんなおののかれても、うれしかねーやい」


 ものの20秒もかからず、部隊は全滅していた。

 と言っても、広域のスタンスキルを2度ほど使っただけだ。


 って、スタン対策とか、魔王と戦うときには必須級だろうよ……

 ほんとに変態退治のつもりで来てやがったのか、そもそもがそういうレベルなのか。

 いずれにしろ、これじゃあなあ。


「俺に殺す覚悟がないのか、お前らに殺される価値がないのか、わかんねーだろが!」


「ひい!? な、なにで怒られてるんだ私は!?」


「弱いんだったら出てくんなっつってんだ! おうちでガタガタ震えてろ! あるいは兵士になれ、ふつーに! 人間の強みだろが、集団の力を活かすコマのひとつを名乗れ!」


「だ、黙れ! ほかの有象無象どもはともかく、私はシストルマ王国の認可を受けた勇者だぞっ!」


「じゃあ死ぬか?」


「死にたくなどない生きて帰りたい趣味の盆栽続けたい!」


 意外といい趣味してるな。


「正直に言おう……ポドンゴこいつを殺したとて、俺が魔王っぽくなれるとは到底思えない。そのへんどうなんだ、ユイルー?」


「そうはっきり言われちゃうとぉ……」


 う~ん、とユイルーが細い腕を組む。

 いまだもって水着の出で立ちのままだ。よほど気に入ってるのかな。


 アリーシャはすでにいつものライトメイル姿に戻ってるが、今ここにはいない。

 ひとつ前の村から別行動中だ。


「アタシ的には、残虐かつぐろげちょな殺しかたをしちゃえば、恐れられるぶんにはじゅ~ぶんだと思うんですけどお……」


「お……おいっ、そこの女!? 物騒なことを言うな!」


「でも、豚の解体作業を見せつけるのと何が違う、とか言われたら、まあ、答えようがない感じですう」


「無礼なことも言うな! ん、んんっ? 貴様死人かっ、アンデッドだな!? おのれ! 貴様らなにが目的なんだー!?」


 目的っていうか……

 俺にとって理想の展開ってのがあるとすりゃ、こうだな。


「気炎万丈意気軒昂、一騎当千にして万夫不当の最強勇者が俺を倒しに来るだろ?」


「お……おお?」


「で、俺がその勇者を慈悲もなく殺してしまうだろ?」


「お、おお、いや知らんが……?」


「そんな俺はスゲー怖いし、めっちゃ魔王っぽいってなるじゃんか」


「仮にそうなったとして、それがどうした……!?」


 うるさいなっ。

 人間にはわかんねんだよ、この繊細な魔王ゴコロがっ。


「ともかくポドンゴよ、お前じゃ役者が不足すぎる。国王だのギルドだのに泣きついて、虎の子でも秘蔵っ子でもなんでも出してもらえ」


「くっ……お、おのれ。アードランツの手先め……!」


「アードランツは関係ないぞ。俺は俺なりに魔王っぽくなるのだ」


「黙れ! やつのせいで勇者がっ……この国から戦士が失われてることを知ってるんだろうが!」


 ん?

 それは~……アレか?

 アードランツの支配地に、王国から移住者が続出してるって話か?


「確かに聞いた話だが、それもお前らが悪いだろ? 魔王を名乗る存在に領民を奪われて、むしろ恥じ入るべきなんじゃないのか」


「くっ……!」


「そっちのほうが幸せだって、移住した人間たちが判断したわけだからな。どんだけひどい暮らしさせてたんだよ? 反省しなさい反省。めっ」


「だ、黙れ……! 怪しげな術で人々を奪っておいて! もとの暮らしなど関係あるか!」


 おん……?

 怪しげな術?


「アードランツが、王国の民に術をかけたっていうのか?」


「私はそうにらんでいる!」


「そんな術あるのか? 聞いたこともないぞ。どんな術だ?」


「わ……私が知るか! だがあれは作為だ、陰謀だ!」


「話にならん――……」


 いや。

 そのわりには、妙にかたくな……というか。

 王国の住人が、なぜアードランツ領に移ったのか。

 この点についてかたくなになる理由が、ポドンゴたちにあるか?


 もとの暮らしがひどいもので、税金のないアードランツの土地に住んだ。

 これが不愉快なのは王族や政治家のはずだ。

 勇者を自称するポドンゴがこだわるメリットなどない。


 ……なにかあるのか?

 俺の知らないなにかが……?



**********



お読みくださり、ありがとうございます。


次は3/15、19時ごろの更新です。

更新が遅くなり、まことに申し訳ありませんが、

また少々お時間をいただいてしまいます。

よろしくお願いいたします。


※3/15 6:00追記

申し訳ありません、しばらくのあいだ書きため期間として、

更新を止めさせていただきます。

続きを書いておりましたところ、

ちょっとした違和感が幾度か書き直してみても拭えず、

もう少しでうまくまとまりそうなのに、

という状態にはまりこんでしまいました。

経験上、ある程度先まで書かないと判断できないことな気がして、

この際ですから腰を据えて最後まで書いてしまおうと思います。

また再開いたしましたら、よろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王だが、弟子の勇者たちが追放されまくってるそうだな? 俺の監督不行き届きならすまない ~という純真な理由で勇者パーティに潜りこんだら、なんか勇者が詰んだんだが。弟子を返せ? もう遅いんじゃないか?~ ねぎさんしょ @negi_sansyo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ