最終話
あれから、2年が過ぎた。
お姉ちゃんはまだ、戻っていない。
微かにお姉ちゃんの気配というか、鼓動というか、確かに私の中にお姉ちゃんがいるという確信はあるけど、今のところ、私が声をかけても、返事はなかった。
たけど、少しずつお姉ちゃんが私の元に戻ってくるために準備をしていることは、なんとなく伝わってきているから、私は素直に待っていた。
その間に、色んなことがあった。
ウィーンテット領国とヤマトミヤコ共和国は、期限つき友好国という関係を築くことになった。
それは、ほとんどエリーさんの提案で、ヒミコさんに協力をしてもらって、互いの政治に不可侵を保ちつつも、文化の交流はしていこうという話になったみたい。
元から、お姉ちゃんのために創られた国ということもあって、あんな大きな事件があった今でも、お姉ちゃんを信仰する人は多い。そんな人たちにとって、ウィーンテット領国は、大切な竜の巫女を奪った国という印象だった。
そして、ウィーンテット領国にしてみれば、勝手な思想の元攻め込んできた身勝手な国という認識。
どちらも、互いの国を快く思っていないみたいで、今後の対立は避けられないように思えた。
だけど、エリーさんとヒミコさんは、お姉ちゃんのことを包み隠さず、みんなに教えた。私たちはみんな、等しく罪を背負っているのだと。
それでも、今まで信じてきたものが、見てきたものが違う2つの国の人たちは、そう簡単に交わることはできないだろう。それでも、エリーさんとヒミコさんは、いつか本当にみんなで手を取り合える世界になるように頑張っていた。
そうそう。実は、エリーさんはウィーンテット領国の大領主に、ヒミコさんはヤマトミヤコ共和国の国王代理という立場にいる。
あの事件をきっかけに、新たな政治体制を構築する必要がある、とエリーさんが進言して、今の体制を作ったらしい。リリルハさんは、ただの口実だって言ってたけど。
リリルハさんは、やっと仕事が落ち着いてきて、自分の町に戻れるようになったみたい。レミィさんやシュルフさんも戻ってきていて、以前のような暮らしが戻ってきたとか。
だけど、少しだけ変わったこともあって、あの事件の後、ヤマトミヤコ共和国から避難してきた人たちを最初に保護したのがリリルハさんということもあって、リリルハさんはヤマトミヤコ共和国でも有名になっている。
そのせいか、ヤマトミヤコ共和国との話し合いをする時は、いつもリリルハさんも呼ばれるようになったらしい。
実は、リリルハさんの存在もあって、ヤマトミヤコ共和国の人たちも、比較的素直にウィーンテット領国と交流ができているのだ、とテンちゃんが教えてくれた。
テンちゃんは、この2年でかなり有名になり、お店もかなり大きくなった。テンちゃんの所にいた子供たちも一緒に働いていて、支店までできたんだって。
店にはいつも行列ができていて忙しそうだけど、私が行くといつもテンちゃんが会いに来てくれる。
そういえば、その時に聞いたんだけど、ウンジンさんもよく店に来るらしい。実は甘いものが好きみたいで、毎週のように来ているんだって。
たまに途中で仕事が入るのか、列から抜けていっちゃうこともあるみたいだけど、その時は決まって、次の時にライコウさんを連れてきて、奢らせているらしい。
ライコウさんたちは世界中を回っていて、エリーさんの手伝いをしている。
それで、よく話を聞かせてもらうんだけど、その中でアジムさんの話を聞いた。
アジムさんは本格的に竜狩りさんに弟子入りできたみたいで、今は魔族から人々を守る魔族キラーを名乗っているらしい。
まだまだ竜狩りさんには及ばないけど、今ではそれなりに様になってきている、と竜狩りさんが評価していたらしい。
みんな、この2年で色んなことがあって、新しいことをするようになった。
私は、というと、変わらず世界を旅していた。
ドラゴンさんに乗って、色んな所に行って。
ドラゴンさんに乗っているから、移動はすごく速いし、何処にでも行けるから、すぐに世界中を回れちゃうかも、と思っていたけど、全然そんなことはなかった。
まだまだ行ったことのない場所は多いし、知らない場所も多い。
私は今、世界のどれくらいを知ってるのかと考えたけど、多分、半分も知らないんだと思う。ううん。そんなことを考えられる程も、世界を知らないのかも。
だからこそ、私は旅を続ける。
いつかお姉ちゃんが戻ってきても大丈夫なように。
◇◇◇◇◇◇
「今日は、ここでやすもうか、ドラゴンさん」
「クウウン」
私たちは、とある森の中に野宿することにした。もう少し行けば町に着けるんだけど、なんとなく今日は森の中でゆっくりしたいと思ってたから。
「星、きれいだね」
すっかりと暗くなった空には星が輝いている。
いつも色んな人に囲まれている賑やかな雰囲気も好きだけど、こういった静かな時間も好き。
私は軽くご飯を食べて、今日あった出来事を日記に残すことにした。
これは、私が旅に出た時から続けていること。
私が経験したことを漏らすことなく、お姉ちゃんに伝えたいから。
お姉ちゃんは、私の日記を見て、どんな顔をするかな?
楽しそうに読んでくれるかな。それとも、多すぎて呆れちゃうかな。どっちにしても、お姉ちゃんの顔が楽しみだった。
「お姉ちゃん、まだかな」
いつまでも待つ気はある。
囚われすぎず、私は私のまま、だけど、お姉ちゃんを待ち続けたいと思っている。
だけど、会いたいものは会いたい。
そういう日もある。
特に最近は、なんとなくお姉ちゃんが近くに来ているような気配を感じていて、余計にそう思ってしまう。
「ドラゴンさんも、会いたいよね?」
「クウウン」
それは当たり前だ。そう言っているような気がする。
ドラゴンさんも待ってる。
私も待ってる。
みんなも待ってる。
「会いたいよ、お姉ちゃん」
ついに声に出してしまった。
言わないようにしてたのに。
ドラゴンさんは私を、尻尾で優しく包んでくれる。その温もりに少しだけ涙が出てきた。
考えないようにしていたけど、世界を見て、みんながいて、寂しくなんてない。それは絶対に嘘じゃない。
だけど、やっぱりお姉ちゃんに会いたいという気持ちは、本物だった。
たまに寂しくなることはある。
だけど、一度崩壊してしまうと、我慢できなかった。
「お姉ちゃん。うぅ、あいたいよぉ」
素直な気持ちを口にする。
言っても、お姉ちゃんを困らせるだけだってわかってるのに。
だけど。
その時。
(ふふ、仕方のない子ね)
「え?」
その時、ふと声が聞こえてきた。
(私を待つだけの時は過ごさないでって言ったのに)
その声は、私の待っていた声だった。
幻聴じゃない。本物の声。
私は嬉しくなって言い訳をする。
「私、お姉ちゃんの言うとおり、ちゃんと自分のために生きてたんだよ? でも、やっぱりさみしくて」
(ふふ、わかってるわ。ちゃんと見てたから)
暖かい声。落ち着く声だった。
(ありがとう、アリス)
声だけだけど、でも、どんな表情をしているのかも、なんとなく伝わってくるよ。
優しく笑ってくれている。そんな顔。
ああ、よかった。本当に帰ってきてくれたんだ。これからも一緒にいられる。
これからも、大変なことはたくさんあるけど、お姉ちゃんやリリルハさん、それにみんながいれば乗り越えられる。
そう確信していた。
だから私は、涙を拭って、ずっと言いたかった言葉を口にする。
「おかえり、お姉ちゃん」
ドラゴンと旅をする少女のおはなし 奈那七菜菜菜 @mosty
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