山小屋の朝

 私には週末の楽しみがある。


 それは山小屋で朝、スープを飲むこと。

 まだ朝靄あさもやが山肌を覆っている頃、麓を見下ろしてやや温かいスープを飲むのだ。


「どうして熱々のスープを飲まないんだい?」


「どうしてって、決まってるじゃないか。猫舌だからだよ。君なら分かってくれるだろう?」


 さながら管理職といった出で立ちの猫は、私の顔を不思議そうに覗き込む。


「君は猫ではないじゃないか」


「人間だって、そう変わらないのさ」


 そう答えて私は、再びスープをすする。


 辺りはまだまだ涼しげな空気に包まれている。


 山小屋の朝は、静かに過ぎてゆく。

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ポケット文庫 花沢祐介 @hana_no_youni

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