「この道を通る時は絶対に振り返らないでください。」

ねお

「この道を通る時は絶対に振り返らないでください。」

「ねぇねぇ、知ってる? 3階の女子トイレの話。また出たんだって!」

「知ってる知ってる! 3番目のトイレでしょ? 誰も入ってないのにノックが返ってきたんだよね!?」

「「こわーい!」」



「おい、あの話知ってっか?図書館の近くの道で、また怪人が出たんだってよ!」

「え、マジで?あれデマだと思ってたわ。今日俺らで確かめにいこーぜ!」

「お!お前ら図書館の怪人見に行くの?俺も混ぜて!」



「あの話、聞いた?オオヤママートの近くの細い道の・・・」

「はーい!午後の授業始めるわよー!早く席についてー」







ここはとある小学校の4年生の教室。


昼休みの教室内は、生徒達のおしゃべりで溢れている。


5時間目の授業の開始を教師が告げるまで、彼らが話していたのは・・・怖い話だ。


小学生は好奇心のかたまりだ。


アニメなどのテレビ番組やYeTube、ゲーム、漫画など、楽しいことに熱中する。


そして、幽霊や妖怪、怪物などの怪異が出てくるような怖い話も彼らを夢中にさせるものの一つだろう。



学校生活という日常を過ごす彼らにとって、そういった非日常はとても魅力的に見えるのだ。


「怖いもの見たさ」という言葉が最も当てはまるのが、小学生くらいの年代ではないだろうか。



そして、夏に近づくに連れ、こういった怖い話はどんどん活発になっていく。


ちょっとした物音を幽霊の仕業だと思ったり、時には幽霊を見た、妖怪が出た、といったデマを流して、皆の興味を引こうとする生徒もいる。


そういったものがより一層彼らの好奇心を刺激し、退屈な日常を面白く感じさせているのだろう。




ところで、このクラスには春から一人の転校生の少年が加わっていた。


新学期が始まって2か月が経ったが、活発でサッカーが上手い彼はクラスにすっかり馴染んでいる。


彼は毎日、昼休みや放課後に、新しくできた友人達とサッカーをしていた。


そしてこの日も、彼は夕方まで学校の校庭で遊んでいたのだ。







「うわーすっかり遅くなった!早く帰らねーと”キツメでヤバイ”が始まっちゃう!」



俺はカズト。


春にこの学校に来た転校生だ。


初めての転校だったから最初は不安だったけど、サッカーが好きだって言ったらすぐに友達が何人もできた。


本当、サッカーは最高だな!


だけど、今日は水曜日。


今、全国で人気爆発のアニメ「キツメでヤバイ」の放送日なんだ!


先週もサッカーしてて帰るのがギリギリになっちゃったけど、今日は先週よりももっとやばい!


他のみんなは家が近いからラクショーで間に合うんだろうけど、俺の家は遠いからきついんだよね。


少しでも見逃したら嫌だし、会話についていけなくなっちゃうから必死なんだ。



そういう訳で、今は家まで爆走してる途中。


家までの距離はだいたい半分くらいだ。


視線を上の方に向けると、目印のスーパーの看板が見える。


俺は走りながらスマホを確認した。



「今の時間は・・・4時43分!げっマジかよ、アニメ開始まで後17分!」



正直、今のペースだと間に合わない。



「・・・こうなったら、奥の手だ!」



・・・



俺はスーパーを過ぎてから割とすぐのところにある細道の前にいる。


その細道は、2つの家の塀の間にある道だ。


幅は1メートルちょっとくらい。


ここを通れば3分はショートカットできるはずだ。


でも俺は、今までこの道を通ったことがない。


理由は・・・




【ここは私道です。通り抜けても良いですが・・・この道を通る時は絶対に振り返らないでください。 所有者より】




こんな看板が出入り口の2か所に立っているからだ。


ちょっと不気味だよね・・・。


実際、2か月間ここの前を通ってるけど、この道を歩いてる人って見た事がないんだよなぁ。


でも、この道を通らないと間に合わないから・・・フルパワーマックススピードで駆け抜けよう!


少しだけ細道の入り口の前で立ち止まってから、俺は足を踏み入れた。







この世には、目には見えない闇の住人達・・・怪異と呼ばれる存在がいる。


普段、彼らを目にすることはない・・・霊感の強い人など、例外はいるが。


我々が住む世界を光とするならば、彼らが住む世界は影だからだ。


光と影は交わることはない。



だが、その境界は存在する。



彼らの住む世界と我々が住む世界を隔てている境界は、意外と脆弱だ。


海の上に氷が張っているとイメージしてほしい・・・我々が住む世界は、その氷の上だ。


そして、世界自体は交わることがなくても、それぞれの世界に住む者がその境界を越えてしまうことは起こり得る。


薄氷を踏み抜いてしまうようなものだ。



では、「氷が薄くなる」原因はなんだろうか。



これは大きくわけて2つある。


場所と時間である。



場所は、具体的にいうと、過去に人間や動物などの多くの生命が亡くなった場所である。


生前に強大な力を持っていた命が亡くなった場所もそうだ。


そういった場所の多くは心霊スポットと呼ばれるようになったりする。


そこには多くの霊や妖怪などの怪異などが存在し、境界が脆くなっているのだ。


例えるなら、氷の下の海にいる魚が氷をつついているような、そんなイメージだ。



時間帯は、具体的には午後5時~午後7時頃、深夜2時~2時半頃だ。


これらの時間帯はそれぞれ、黄昏時たそがれどき逢魔が時おうまがどき)、丑三つ時うしみつどきと呼ばれている。


上記の2つの時間帯に比べると弱いが、明け方の時間帯(彼は誰時かわたれどき)もそうである。


これらの時間帯は境界全体が脆くなりやすい。


例えるなら、太陽が照っていて気温が高くなり、海の上の氷が溶けやすくなっている時間帯である。



時間についてはもう一つある、それは4や9などの不吉とされる数字の時間である。


ただし、これは日本のみである・・・そういう意味では場所も関係していると言える。


これは日本語で4は死、9は苦を連想させるからである。


言葉には霊的な力が宿るとされている、これを言霊ことだまという。


このため、これらの数字が関係する時間は境界が脆くなりやすい。


最も強力なのは「4時44分44秒」だ。


特に午後のこの時間は、黄昏時たそがれどきとも近い時間のため、瞬間的には1日のうちで最も境界全体が脆くなりやすくなる。


海の上の氷の例に例えるなら、瞬間最高気温に達する時間だ。



以上が、薄氷を踏みやすくなる・・・つまり”怪異”と出会いやすくなる条件である。



なぜ長々とこんなことを説明したのかと言うと、不運にもこの条件にぴったりと当てはまる状況に遭遇したからだ。



転校生の少年が。







俺は細道を全力で走っていた。


アニメの時間に間に合わせるためと・・・この道を早く抜けるためだ。


細道に入った途端、急に気温が下がったように感じた。


ここだけ薄暗いからかもしれない。


でも、俺にはそれだけが理由ではないように思えた。


嫌な感じなんだ、大勢の誰かに見られているような、そんな感じ。


そんな状態だったから”あと少しで道を抜ける”ってなった時に、ほっと気をゆるめてしまったんだ。



その時だった。



『危ない!避けろ!』



急にそんな声が聞こえて、反射的に俺は後ろを振り返ってしまったんだ。







・・・・・・







・・・俺は今、死ぬほど後悔してる。


・・・いや、もう死んでいるのかもしれないし、死ぬことができないのかもしれない。


・・・「ここ」には俺と同じような「モノ」がたくさんいて苦しんでいる。


・・・もう友達とサッカーもできないし、父さん、母さんにも会えない・・・。


・・・ああア、「外」が見エていルのに、ミえテいるノニ、「こコ」カらデらレナイ・・・。


・・・ダれカ「ココ」かラダして!タすケて・・・タス・ケ・・・・・







「なぁ、隣のクラスの転校生・・・カズトの話、聞いた?」


「え、また転校したって話?」


「バッカ、違うよ。・・・あれ、本当は行方不明になったって話だぜ・・・ホラ、例のオオヤママートの近くの細い道、あそこに入っていったのを見た人がいるらしい。それが最後の目撃情報だってさ」


「それマジかよ!?てかお前、なんでそんなこと知ってんの?」


「ユージに聞いた」


「本当か怪しーなー、・・・だってユージの話、嘘ばっかりじゃん」


「いやー、でもソータやアンディーもこの話してたぜ。そんなに疑うんだったらよー・・・」




「今日確かめにいこーぜ!」

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「この道を通る時は絶対に振り返らないでください。」 ねお @neo1108

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