期末試験とアルバイト ⑤
放課後まで美影から花火大会の事を伝えてくることはなかった。明日から期末試験なので図書室で三人で勉強をするのは最終日になる。美影と志保は図書室に着いて勉強を始める前まで何か話し込んでいたようだった。珍しく志保が美影に対して強気な口調で会話をしていたように見えた。その後はいつもと変わりなく試験勉強をしていて、終わり頃になって美影の様子に落ち着きが無くなってきた。
「ねぇ、宮瀬くん」
「うん、何かな?」
少し恥ずかしそうな表情で美影が話しかけてきたので、俺はやっと花火大会の事を聞いてきたなと予想した。出来るだけ自然な表情で話を聞こうと気を付けて返事をした。
「あのね、今度、花火大会があるよね……」
「うん……」
恥ずかしそうにして美影はなかなか話が進まずに焦らされてしまい、俺は変に内容を知ってるような顔にならないか不安だった。
「それで……」
「うん……」
美影の隣に座っている志保はだんだんとイライラした表情になってきて、遂に美影の間に割って入ってきた。
「もう、見てられないわ‼︎」
「あっ、し、志保……」
美影が慌てて志保を制しよう口を抑えようとしたが、こんな状態になった志保は止める事は出来ずに払い除けらる。
「由規、私達と一緒に花火大会に行くから予定を空けておくように……これぐらい焦らさずに言いなさいよ、まったく美影は……」
「……」
哀しそうな表情で俯いた美影とは対照的に志保は勝ち誇ったような顔をしている。思わず俺は吹き出してしまったが、志保のお陰で変な気苦労をすることなく返事をすることが出来た。
「分かった、予定空けておくよ」
小さく笑いながら頷くと、落ち込んでいた美影の顔から笑みがこぼれていたが、志保は大きくため息を吐いていた。
「今年の夏は忙しいわよ。花火大会に、合宿に、海に……」
何か思い出したように志保が目を輝かせて話し始めたが、その話を聞いて俺も思い出して苦笑いをする。
「あぁ、そうか……去年は怪我でいろいろと迷惑をかけたな」
「そうよ、去年出来なかった事を今年は全部するのよ」
「……お手柔らかにお願いします」
あまりの志保の勢いに圧倒されてしまったが、去年の事を考えたら志保にはたくさん世話になったし迷惑もかけたから言う事を聞いてやらないといけない……
「もちろん美影も一緒に参加するのよ」
美影は取り残されたように少し寂しそうな表情をしていたが、志保の言葉を聞いて微笑み、嬉しそうに頷いていた。
「その前に明日から期末があるから、頑張らないとな」
志保に向かって話すと、途端に暗い表情になるのでやれやれと美影も同じように志保を見て微笑していた。
期末試験は金曜日まであって、週明けから二日間の予定で球技大会が行われる。部活は金曜日から再開されるが、直近で一年大会があるので一年生をしっかりと鍛えてやらないといけない。
花火大会まで日にちはあるけど、思いのほかイベントがあるのでちゃんと覚えておかないと、あっという間に当日になってしまいそうな気がした。
金曜日の放課後、期末試験も無事に終了して久しぶりの部活だと張り切っていたら志保が疲れ切った表情でやって来た。
「どうしたんだ? 何かもうダメですって顔に書いてあるぞ」
「ううぅ……どうしようかなりの確率で赤点が……」
「どの教科がヤバいんだよ」
「数学と英語……あと古典かな……」
「はぁ……何で一緒に勉強したのに」
「ううう……痛いところを」
さすがの志保も元気がないけど、もう終わった事は仕方がない。
「美影には話したのか?」
「……うん」
「テストが戻ってきたら、一緒に教えてやるよ」
「ありがとう……」
そう言って重そうな足取りで志保は教室を出て行ったので、後ろ姿を見送りながらため息を一つ吐いた。
「おっ? どうしたため息なんか吐いて」
「あぁ、志保がな……」
入れ替わるように皓太が声をかけてきたので、微笑して答えると不思議そうな顔をして聞いてきた。
「でも一緒に勉強したんだよな」
「そう、美影と三人でな……」
「……」
皓太は苦笑いをしたまま少し呆れたような表情をしていた。俺はともかく学年の中でも成績上位の美影と一緒に勉強をしているのだから皓太の表情も肯ける。
「皓太は問題なしか?」
部活も赤点を取ると再試験を合格するまで参加が出来ないのだ。
「もちろん、未夢と詩織のおかげだけどな」
「なるほどね、優秀な幼馴染みと彼女がいれば問題ないか」
「な、何だよ、その言い方は……」
少し恥ずかしそうな顔をして皓太が言い返してきたが、俺は素直に羨ましいと思っていた。
「まぁ……俺の幼馴染みに比べてたら全然いいぞ……人のノートを借りまくるし、テスト前には余計な事をするし……」
俺達からは教室の中で離れた場所に友達と居た大仏を見てぼやくように話した。中学時代から知っている皓太は気の毒そうな顔をして俺の肩をポンポンと叩いた。
「今に始まった事じゃないだろ……それにお前には心強い彼女がいるだろう」
教室にまだ残っていた美影を見て皓太が当たり前のように言うと、今度は俺が恥ずかしくなってしまい否定しようとする。
「ち、違うぞ、か、彼女ではな、ない……」
「はい? お前、何言ってるんだ、誰がどう見ても山内と宮瀬は……」
意外と声が大きかったので慌てて皓太の口を手で抑えると、ムッとした顔で睨まれた。
「わ、悪かったな」
「お前も成長してないなぁ、はっきりしないまた二の舞を踏むぞ」
少し冷めたような表情で皓太は俺に諭すような口調で見ていたので、黙って俯くしかなかった。
「……そろそろ部活に行くぞ」
ため息を吐き、気を取り直したような声で皓太が俺の肩をポンと軽く叩いてきた。顔を上げると皓太は教室のドアに向かって歩き始めていた。俺は慌てて鞄を持ち上げて皓太の後ろを追いかけた。
ヘタレ野郎とバスケットボール 高校編 第一部 束子みのり @yoppy0904
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