第15話 仮面

 鮮明に映し出された映像は泡のように消えた。


「今のは……」


 暗がりの洞窟。確かで不確かな記憶から現実に戻される。


 ぽたぽたと垂れる物が自身の涙だった。


 ふと横を見るとシロがいつものようにこちらをじっと見ている。


 そっとふわふわの頭を撫でてからふらつく体を起こした。


「今日は帰るか」


「わふ」


 消えた人狼はどこへ行ったのか。


 あの仮面は何なのか。


 あの光景は一体なんだったのか。


 不思議なものを残して探索を強い疲労と供に終えることにした。


「そうだ。仮面!」


 気が付いたら仮面がみつからない。身に着けたような気もするし外してしまったような気がする。


 リュックの中もあらかた探してみたが見つからない。


「まあ……いいか」


 とりあえず疲労が強い。人狼と対峙して体を強く打ち付けたり奴の攻撃を受けたりと今回ばかりは休んだ方がいい。


 仮面については次来たときにでも探せばいいだろう。


 それからボロボロの体で何とか地上へと目指して溶ける様に自室で眠った記憶だけが残して朝を迎える。


 そして場所は洗面所。


 小鳥のさえずりの目覚ましが気持ちよく体を起こしてくれるのと同時に、とてつもない空腹感で目が覚め顔を洗うべく洗面所へと向かい鏡と対面した時だった。


「うわぁぉい!!」


 多分、あの人狼と対峙した時もこんなリアクションをしただろう。


 鏡には自分の顔でなく不自然になんの感触もなく身についている狐面が一緒に映っていたのだ。


「あれ? これ? え?……ええ?!」


 もともと生まれた時から身についているかのような。そんな不自然さだ。


 これで気になるニキビも、気になる小じわもこれ一枚で隠せる。


 息苦しさもなくまるで顔と一体になるかのようなお面!


 今ならお買い得。


 税込みいくらかは鑑定してもらわないとわからないけどね。


 なお副作用としてこれを身に着けて町へ出ようものなら周囲から変な目で見られるかもしれないので注意。


 くだらない宣伝文句を脳内で再生しつつ、そっと仮面に手を触れた。


 おかしなことに自身の顔を触っているかのような一体感。


 気が付かないうちに仮面の技術もここまで進歩したのだろうか。いや異界での拾いものだから異界の遺物になるのか……


「ちょっとまて……感心してる場合じゃない。これ外れるのか?!」


 鏡を見て仮面のある所に手をやり引きはがすような動作をすると手の内に感触が戻どるような得体のしれない感覚と同時に仮面が現れ顔から剥がれた。


「あっさりと剥がれるんだ……」


 ほっとしながら再度仮面をはめる。


 それから、はめた途端仮面の感触が消えて何もつけてないような一体感が生まれる。そんな不思議な感触をしばらく外しては、はめてを繰り返して遊んだ。


 家の洗面台にてお面を外しては、はめてを繰り返す変人が鏡の前にいる構図が自然と出来上がる瞬間がここにあった。


 とりあえずお腹の虫も鳴り響いたので狐面をテーブルに置き。朝食を摂ることする。


 とりあえず食べられるレオボアのお肉を豪快に焼いて塩コショウで味を調える簡単な調理を済ませる簡素で豪快な朝食。


 久しぶりにTVのリモコンをとり電源を入れる。


「えー。昨今、異界探索員の事件が頻発しているようですが今日は異界探索員犯罪専門家。アキタ先生に起こし頂きました。アキタ先生は昨今のこの状況をどう捉考えますか?」

 

「んー。こういうのはね。国がしっかりと取り締まらないといかんのですよ。各役所で対魔物対策班が設立されてるけど魔物は対処できるのになぜ人を対処しないのかってね」


「はぁ。対魔物対策班の方々にも動いてもらうのが手っ取り早いってことですか?」


「異界に入れる人材は限られてますからね。ましてや魔物と戦える人間を遊ばせておく理由もないでしょう。それと異界探索員になる人材の質の低下が問題なんだからより難しい試験や適性試験を設けるべき────」


 ピッとチャンネルを切り替え肉汁溢れるレオボア焼肉を頬張る。


 とことこと床に爪を当てながら登場するシロが涎を垂らしながらこちら見るので切れ端をちまちまと与える。


 そして必死に肉に食らいついた。


「さて! 今週は気になるあの人に突撃取材! 突如銀座に現れた巨獣を倒し東京都王子にある異界で日々最前線で成果を挙げる剣士、トウノ カイチさんにインタビューをすることができました────」


 ピッピとチャンネルを変えていく。


「銀座に巨獣なんてあらわれてたんだなぁ」


 何気ない日常。


 その日常を壊す魔物。


 そして異界探索員。


「明日の天気も穏やかな晴れでしょう」


「明日は晴れか────」


 テレビをつければ探索員の話が盛り上がりを見せている。


 それにたきつけられた若者も多く将来の夢は異界探索員なんてことを言う子供も多いみたいだ。


 考え事は多くなるし今まで世間の情報をとるのが億劫でテレビもしばらくつけてなかったけれど、さすがに探索員として活動している以上積極的に情報収集は行うべきだろう。


 それから朝食を終えて刀を持った。


 そして庭へ出て素振りをしてから仮面を手にじっと見る。


 初めて異界で拾った装備。異界では稀にこういった物が手に入ることがあるようで、そのどれもがとてつもない希少価値がついたりする一品になる。


 つまり、今手にしている仮面ももしかしたら────


 すっと仮面が顔に張り付くように消える感覚を感じながら刀を握る。


 だが、特に何か変わったような感じはしない。


 強いて言うなら、不自然なまでに心が穏やかだ。


 心を落ち着かせる力があるのか?


 でもそんな気がするだけで確証はまったくない。


 刀を2~3回振ってみても何もわからない。


「気持ち……鋭くなった?」


 本当に気持ち程度だ。


 もしかしたらあの抜刀ができるかもしれない。


 そう感じてすぐさま納刀する。


 何度やってもあの『天雷一閃(てんらいいっせん)』なんてほろりと口にした技は、自発的に出すことができない。


 それが魔法の類なのか、異界で培った力によるものなのかはわからない。


 ただ、一つ分かることは一度放てば右腕がもげるほど痛くなる。


 でも、どんな強靭な物も一刀両断できるだけの破壊力があった。


「あの力を思うように出せたら……」


 きっと、もっと強くなれると思う。


「集中しろ……」


 風が巻き上がる。


 一閃。────


 雷のような轟音はならず。ただ響く空気を斬る音。


「だめか……」


 刀とにらみあいっこをするも刀は何も話してはくれない。


 そして集中しているそばからシロの騒いでる鳴き声が聞こえてきた。


「わんわん!」


「シロちゃん久しぶりだねぇ! よしよしよしよし」


「うぉん。わふwわhんわふ」


 シロのバグったような鳴き声が静かな空間を賑やかにする。


 そこにはサユキがいた。


「ハルさん。おはようございま……?! そのお面どうしました?」


 放心状態にバグったシロを抱きかかえてこちらを見るサユキも同様にバグったような表情を浮かべる。


「お面……あ! ああ! あは、あはは! いやこれはいろいろあって。おはよう!」


 咄嗟の来訪に加えてお面をつけている感触がないからなおさら外すタイミングを逃してしまった。


 慌ててお面を取り外して取り繕う。


「いろいろってなにか面白いことでもあったのですか?」


「ま、まあ……そんなところですかねぇ」


「ところで今日はチームでの探索はお休みな日なんですか?」


「お休み……ああ、うん。お、お休みなんです。なんでユキさんがここに?」


「なんでと言われても探索しに来ただけですよ。この異界結構気になりますからね。それに……ハルさん最近チーム活動に忙しいみたいですからね!」


「え、あ。はい。そう。そうなんですよぉ。いやぁ。昨日もちょっと大変だった……なぁ。みたいな────感じです」


「チーム……には慣れましたか?」


「いや、まあ……」


「そうですか」


 耐えられないような沈黙続く。そして、その沈黙を破るようにサユキが話を切り出した。

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異界「ダンジョン」攻略物語 ポメラニアン @shibainu04

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