第5話 想いは星を紡ぐが如く
姉妹たちとアルドとフィーネは、シーダの位置が最後に確認されたという、エルジオンガンマ区画の西側に着いた。しかし、反応が消えてから少し時間が経っているため、周りにシーダの姿はない。
「……! やはり 姿はないか……。」
カーフは、怒りと焦りが入り混じったような表情だ。他の姉妹たちも焦っているようだった。そんな中アルドは近くを歩く男が、独り言を言っているのを耳にする。
「……しかし 最近の男女ってのは 大胆だなぁ……。うらやましい限りだ。」
男の独り言に無意識に察したアルドは、その男のもとに行き、話を聞いた。
「なあ 今 男女がどうのって言わなかったか?」
「ああ。最近の男女は大胆だって……。」
「くわしく聞かせて おじさん……!」
アルドに気付いたフィーネが言う。
「あ ああ……。さっき そこに若い男女がいてな。男が女に姉妹にプレゼントがどうとかって言ってたな。」
「その時 名前とか言ってなかったか?」
「確か 男はケートスで女はシーダだったような……。」
「……! ありがとう おじさん!!」
「なんかよくわかんねぇけど あの2人は廃道ルート99に向かってたぞ。」
「わかった! ありがとう……!」
重要な手掛かりをつかんだ2人はさっそく、姉妹たちに報告した。
「シーダは廃道ルート99に向かったみたいだ……!」
「何……! それは本当か……!」
「目撃者がいたの……! それから ケートスっていう男の人と一緒にいたみたい……!」
「ケートス……? その名前どこかで聞いた覚えがありますわ。でも何だったかしら……。」
「あと 2人は何だか誘拐されたような雰囲気ではなかったみたいだぞ。むしろデートのようだって言ってた。」
「デートですか……。なら なぜ 反応が消えたのでしょか……?」
「……とにかく 行こう……!」
皆は、謎が残る中、急いで廃道ルート99へと向かった。
>>>
廃道ルート99へと来たアルドたちであったが、あたりを探しても誰もいない。一行が中ほどまで来たところで、突然ツァイが叫び声をあげた。
「……! 思い出しましたわ!!!」
「うわっ……! き 急にどうしたんだ……?」
「ケートスですわ!」
「ケートスって さきほど男性がおっしゃられていた シーダ姉様と一緒にいたとかいう方のことですか……?」
「そうですわ! やっと思い出しましたの……!」
「何を思いだしたの……?」
フィーネはツァイに聞いた。
「以前 母上が最後に所属していた ゼノ・プロジェクトについて調べていた時に プロジェクトメンバーの名簿が 出てきましたの。その中に 確かにケートスという名も記されていましたわ……!」
「……! ……他に情報はないの……?」
「いいえ それ以外には……。」
何かを掴みかけそうで掴めず、一行の間に沈黙が漂う。その沈黙を破ったのは、カーフだった。
「……待て。そういえば私もこの名に聞き覚えがある……!」
「本当か カーフ……!」
ツァイに続いて、カーフも思い出そうとした時、セジェンが声を上げた。
「……前から 敵が来る……!」
セジェンの視線の先を見ると、前方に2体のアガートラムがいた。
アルドは、みんなに武器を構えるよう言おうと周りを見ると、カーフは黙ったまま目を閉じており、ルクバーは何かをしているようだった。
「仕方ない……。フィーネ ツァイ セジェン 行くぞ……!」
4人は2体のアガートラムに攻撃を放った。
>>>
無事に倒し切ったところで、カーフが声をかける。
「戦闘に参加できず すまなかった。だが おかげで思い出せたよ。」
「何を思いだしたんだ……?」
「私がKMS社に潜入した時に たまたま社員の雑談を聞いてな。若輩ながら数々の功績を短期間であげた者がいると言っていた。それがケートスという名だった。だが その後 KMS社の社員名簿を見たが そんな名前はなかったんだ。」
「優秀な人なのに名前がない……?」
新たな情報が共有され、少し困惑してきたところで、今度はルクバーが口を開いた。
「やはり……。」
「どうかしたのか ルクバー?」
「先ほどから何か調べているようでしたけれど……。」
「ケートスという名を検索していたのです。しかし 一般市民でさえ十数件は見つかるのに ケートスに関しては一件しか出てこなかったのです。」
「その一件って何なの?」
「……エルジオン医科大学の教師一覧です。」
「……!」
検索結果に一行は驚きと共にすべてがつながったような気がした。わかってないのはアルドとフィーネだけのようだ。
「み みんな どうしたんだ……?」
「なるほど……。」
「そういうことだったのですわね……。」
「……これで ケートスの正体 分かった……。」
「えぇ!? わかっちゃったの……? 誰だったの?」
フィーネの問いに姉妹が答えた。
「ケートスという人物は KMS社に務める科学者で ゼノ・プロジェクトにも参加していた。しかし 徐々に危険性がみられ ジオ・プロジェクトへの移行の話まで出た時に KMS社の指示で 母をおそらく……。」
「それによって ケートスはKMS社で大きな功績を残しましたわ。ゼノ・プロジェクトを続行させるという功績を。しかし 今度は私たちの父上が 一連のことについて調査をしていることに気付いたために 危険因子である父上のことを……。」
「……そして 2人を手にかけたけど 今度は 姉妹が捜査をしている。……だから その中心人物だと考えられる シーダお姉ちゃんを手にかけるために エルジオン医科大学の講師となって近づいた……。おそらく KMS社の指示で。」
「だが KMS社は自分の手を汚したくなかった。だから KMS社の名簿に名前がなかったんだろう。仮に ケートスが捕まっても KMS社の名前は出てこず KMS社は人材が一人分失うにすぎんということだ。」
姉妹の説明で、ようやくアルドとフィーネは理解できたようだ。そして、アルドは言った。
「待てよ……。その話なら ケートスはシーダの命を狙っているということだろ? なら 一刻も早く助けないと……!」
「ああ。廃道ルート99にはいないとなると 工業都市廃墟か……! 行くぞ……!」
そういって、一行は工業都市廃墟へと向かった。
>>>
一行は工業都市廃墟に着くと、捜索をしながら先へと進んだ。そしてエリアBに来たところで、3体のレッドサーチビットに道を遮られてしまう。
「このサーチビット ここら辺にいるものとは 個体が違いますわ……!」
「ということは シーダ姉さんはすぐそこだということだ。行くぞ!」
一行は、武器を持ってレッドサーチビットへ勢いよく攻めたてた。
>>>
サーチビットを倒すと、遠くの方で話し声が聞こえるのがわかった。
「この声は……!」
シーダの存在を確認できたところで、一行は声が聞こえる工業都市廃墟の炉内へと向かった。
>>>
一行は炉内に入ると、すぐに2人を見つけることができた。急いで一行は向かう。
「……シーダお姉ちゃん!!!」
「……! セジェン それにあなた達も……! なんでこんなところに……?」
「姉様 今すぐその男から離れてください……!」
「何を言ってるの ルクバー……?」
「早くしないと 姉上のお命が……!」
「何をわけのわからないことを 言ってるの ツァイ。私たちは……。」
「君たちにとびきりのプレゼントをしたいと思ってやってきたんだ。」
シーダに続いて、ようやくケートスも話し出す。
「日ごろ お世話になっているお礼がしたいということで 2人で探しに来たのに その態度はないんじゃないのかい……?」
「そうよ いくら何でもこの人が そんなことをするわけないじゃない……! それより せっかくの彼とのデートだっていうのに 何で邪魔するのよ……! あなたたちはそうやって毎回毎回 迷惑ばかりかけて……。私の身にもなってほしいものだわ……!」
「シーダ 違うんだ……! それは誤解で……!」
「あら アルド。あなたまでこの子たちの肩を持つっていうの!? 信じられない!」
「シーダ……!」
「だめだ 全然話聞いてくれない……。」
妹たちやアルドの説得が、逆により不信感を高めてしまう結果となり、妹たちは悔しさに体を震わせていた。それを気にも留めず、ケートスはシーダに言った。
「シーダ。そんな人たちは放っておいて 先に行こうか。」
「そうしましょ ケートス。」
2人がそういってこの場を離れようとした時、カーフが突然宙を舞い、ケートスめがけて、攻撃を仕掛けた。しかし、ケートスはそれをどこからか出してきたナイフで防いだ。さらに、セジェンがものすごい速さでケートスに向かっていったが、ケートスはそれに銃で応戦した。弾をかすめたセジェンは、その場で動きを止めてしまう。一連のことにシーダは驚きを隠せない。
「えっ……。」
驚くシーダに、カーフは今までで一番の怒りをこめて言った。
「いい加減 目を覚ませ シーダ!!! いつから そんな うわべだけで何もかも判断するようになった……!!! いつから そんな 薄っぺらい世界に生きるようになった!!!」
その怒りのまま、視線をケートスに向けてさらに言った。
「私のとっさの攻撃にここまで的確に対応し セジェンのスピードにも的確に攻撃した。それに なにより ナイフと銃を隠し持ってたんだ……! この状態を見ても まだこの男を 信じるか……!!!」
「で でも……。」
曖昧な答えを返すシーダを、凝視してカーフは言った。
「眼に映るものが全てじゃないって 教えてくれたのは姉さんだろ……!」
「……!」
カーフの言葉に、シーダはようやくこちら側へと逃げた。その様子をみて、ケートスはとうとう本性を現した。
「……まったく あなたたちが出てこなかったら 今頃 シーダを炉へ突き落せたというのに……。」
「……! ケートス あなた……。」
「それに リーダーであるシーダを 葬り去れば お前たちの犯罪まがいの調査も収まるかと思っていたのだがね……。」
シーダはケートスの言葉に聞き返す。
「ちょっと待って……。リーダーって何のこと? それに犯罪まがいの調査って何?」
「何をとぼけたことを言っている。お前がこの犯罪集団のリーダー……。……待てよ……?」
何かに気付いたケートスは、不気味な笑いを浮かべるとさらに続けた。
「シーダ。もしかして 何も知らないんじゃないのかな……?」
「だから 何のことよ……?」
「クククッ……。なら この私が教えて差し上げましょう。あなたの妹たちが犯罪行為をしてまで 求めていたのは 両親を殺した犯人を警察に突き出すことです。」
「……!」
「クロノス博士の跡を継いで プロジェクトを進めようとしたが 自分がリーダーでないことが気に食わず KMS社と内通して母を殺し さらに 妻の死の真相を見つけるために日夜走り続けて 死にかけだった男にトドメを指した犯人―すなわち 私を。」
シーダは驚きを隠せないでいる。そんなことはお構いなしにケートスは話し続ける。
「そしてこの情報を得るために カーフはここやゼノ・ドメインで機械のパーツをむしり取り ツァイはCOAを隠れ蓑に捜査をし ルクバーはエルジオン中のデータベースをハッキングして情報を盗み出し セジェンはルクバーの指示で資料を盗み出していたということです。」
「……。」
「全く 妹たちに見放されているとは驚きましたね。」
ケートスの指摘に、カーフは異を唱える。
「それは 違う……! 私たちは 見放したわけではない……!」
「じゃあ なんだというのです? まあ どうでもよいですね。とにかく 正体がバレた以上 あなた方の命 もらい受けますよ……。」
そういうと、ケートスから強大な魔力があふれ出る。
「お前の好きにはさせない……! 行くぞみんな!」
アルドの声に、みんなも武器を構えた。そうして一気に攻撃を仕掛けた。
>>>
ケートスは先ほどまでのロボットとは、比べ物にならないほど強かった。アルドが、一人だったら負けていたかもと思うほどだ。しかし、ケートス以上に姉妹たちが、前にターミナルコアで戦った時以上の力を発揮していた。激戦の末、先に動けなくなったのはケートスだった。
「グハッ……。」
「姉妹の力をなめるからそうなるのだ。」
カーフにそういわれた直後、誰かが入ってきた。ツァイの部下だ。
「あなたたち この人を連行しなさい。あとで たっぷりと話を聞いて差し上げますわ……!」
ケートスは何も言わずに、ツァイの部下に連れていかれた。落ち着いたところで、先に口を開いたのはシーダだった。
「……ごめんなさい。」
「……!」
突然の謝罪に妹たちは驚く。
「私ね 父にいつしか言われたことがあったの。『これからは お前が 妹たちを引っ張っていかなければならない。後のこと頼んだよ。』って。」
はじめて聞く話に妹たちは真剣な顔で聞いている。
「だから 私 今まで以上に頑張らなきゃって そのためには今までみたいに優しいだけじゃだめだなって そう思ったの。」
「だから ある時から態度が 変わったんだ……。」
フィーネの言葉に、シーダはうなずく。そしてさらに続けた。
「そして 皆を導くためには賢くなければならないと思って 無理を言って 大学にも行かせてもらった。」
「シーダ……。」
「その結果 逆に信用を無くしていたとはね……。」
そこまで話してから、妹たちの方を向いていった。
「今まで ちゃんと話を聞いてあげれなくて ごめんなさい……。」
シーダの謝罪に答えるかのように、カーフも言った。
「いや 私たちの方こそ悪かった。人にうわべだけを見るななどと偉そうなことを言っておいて 実際は実の姉の真意にすら気づけてなかったのだから。それどころか 心配事を増やして 迷惑をかけてきたのは 私たちの方だ。本当にすまなかった……。」
カーフがそういって頭を下げると、他の妹たちも頭を下げた。
「あなたたち……。」
しばらくして、カーフは顔を上げ、話を続ける。
「あと訂正しておくが 私たちは 姉さんを見放していたわけではないんだ。」
「……じゃあ 何で……?」
「……姉さんには こんなことに関わってほしくはなかったんだ。」
「……。」
「姉さんが大学に行ってから数日後 父さんは亡くなった。だがその直前に 私たちにこう言ったんだ。『私は 母さんの無念を晴らすことができなかった。だから父さんの分まで 仇を取ってくれ』と。そこで 私たちは決心したんだ。父の捜査を引き継ぎ 両親を殺し私たち家族を狂わせた犯人を 必ず捕まえると。」
「カーフ……。」
「だが この捜査を引き継ぐということは 普通の生活には戻れないということでもあった。何せ警察が取り入ってくれないからな。そう思ったときに 姉さんは母の死の事実も父の死のことも知らず 大学へと向かっていった。だから せめて 姉さんだけでも普通の生活を送ってほしかった。だからあえて これらのことは話さずに距離を取っていたんだ。」
「そういうことだったのね……。」
一呼吸おいてから、シーダは言った。
「あなたたちの気持ち よくわかったわ。でも 次からは私にも話して。私だって姉妹なんだから……。」
「姉さん……。」
「それから 事件が解決した今 次にすべきことは何かわかってるわよね……?」
「ああ。皆で自首してくる。」
「それがいいわ。私 あなたたちの帰りを待ってるから。」
そして、4人は静かにエルジオンへと戻っていった。4人の姿が見えなくなってから、シーダはアルドとフィーネに向き直っていった。
「アルドにフィーネ。この度は本当にお世話になったわね。感謝してもしきれないわ。」
「オレはいいんだ。それより丸く収まったみたいでよかったな。」
「シーダさんも妹さんたちも なんかすっきりした顔になってるよ……!」
「あなたたちがいなかったら こうなることもなかったと思うわ。本当にありがとう……!」
そういって、シーダは頭を下げてから言った。
「それじゃあ エルジオンに戻りましょうか。」
2人はうなずき、シーダと共に歩いていった。
>>>
エルジオンに着いた一行は、改めてお礼の言葉を交わした。
「本当にありがとう。あなたたちのおかげよ。」
「いや たぶん 皆がちゃんと想いを持っていたからだとおもうよ。オレたちは何もしてないさ。」
「そうだよ……!」
「相変わらずのようね……。そしたら 私たちは そろそろ行くわ。またどこかで逢えるといいわね……!」
「ああ……!」
そういって姉妹は歩いて行ってしまった。
「なんか 終わったら どっと疲れたよ……。一旦 バルオキ―に帰る……」
「何言ってるの お兄ちゃん……! まだまだ行ってないところ たくさんあるんだよ……?」
「ま まさか 今から観光を続けるつもりじゃ……。」
「当たり前でしょ……! さあ 行こ! 今日は全部終わるまで帰らないんだから……!」
「そ そんな……。」
こうして、未来での初めての人助けを終えたフィーネは、アルドとこころゆくまで、未来の世界を満喫した。疲れているはずだったが、不思議と2人の笑顔は、来た時よりも輝いていた。
想い抱きし姉妹と時空超えし兄妹 さだyeah @SADAyeah
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます