第4話 決意は珠を選るが如く

 アルドとフィーネは、ツァイからの情報でカーフに逢うため、軌道リフト・バベルでゼノ・ドメインへと向かっていた。


「とうとう最後だな……。」

「でも この前逢った時 少し怖そうだったよね……。」

「ああ。シーダとも一番仲悪そうだったし……。」

「そうだよね……。」


2人はカーフに逢うことを不安に思っていると、リフトが止まった。どうやらゼノ・ドメインに着いたようだ。

さっそく、ゼノ・ドメインへと入り、工業セクターと研究セクターの分岐点まで来ると、突然2人の背後から女性の声が聞こえた。


「遅かったな お前たち。」

「うわっ……!」

「ひゃ……!」


驚いて振り返るとそこにいたのは、カーフだった。


「カーフ……!」

「行くぞ お前たち。」

「行くって どこに……?」

「決まっているだろう 研究セクターだ。お前たちには私の仕事を見てもらう。」

「どうして カーフの仕事に……?」

「私がやっていることを目の当たりにして それでもなお お前たちの気持ちが変わらないか 確かめるためだ。言っておくが 私はまだお前たちのことを信用していない。場合によっては 切り捨てるつもりだ。」

「ひぃ……!」

「ほら いくぞ。」


そういって、カーフは冷たい眼差しを残して研究セクターへ歩いて行く。2人はおびえながら後をついていった。


>>>


 3人は分岐点の2階上のフロアまで来たところで、左側にある部屋に入ると、カーフは近くにある端末を調べ始めた。


「何を調べているの……?」

「クロノス博士が関わっていた ゼノ・プロジェクトについてだ。」

「それって研究が進んでいたけど 次元に歪みを与えるから 中止になりかけたってやつか。」

「ほう やけに詳しいんだな アルド?」

「ああ クロノス博士のことを追っていたからな。」

「……。」

「それで ゼノ・プロジェクトと調査と何の関係があるんだ……?」

「さあ 何だろうな……?」


(やっぱり まだ信用されてないんだな……。)


アルドはカーフの対応に少し悲しくなりながらも、カーフの調査を眺めていた。

すると、どこからともなく、機械音が急速に近づいてきた。音のなる方を振り返ると、4体のアリアンフロドが入ってきた。


「……! 敵に気付かれたか……!」

「早く やっつけないと……!」


そういって2人が武器を構えたその時、急に背後から何かが飛んだ。そうかと思えば、その影はアリアンフロドへと飛んでいき、一瞬にして4体を破壊した。2人は一連の出来事に驚き、破壊されたアリアンフロドの前に立つカーフをただ見つめることしかできなかった。


「やっと来たか。では 早速あらためさせてもらうぞ。」


そういうと、カーフは破壊されたアリアンフロドを、さらに破壊して部品を見始めた。どうやら何か探しているようだ。


「何しているんだ……?」

「こいつのメモリーチップやメインブレーンなどを探して回収しているんだ。人間でいうところの脳だな。」

「敵だけど なんかかわいそう……。」


カーフの突然の行動にフィーネは若干引いている。そんなフィーネを見て心中を察したアルドは、ふとまた機械音が近づいてくるのに気付いた。ほどなくして、入ってきたのは5体のガードドローンだった。カーフの方を見ると、3体のガードドローンが囲んでいた。


「オレたちも戦うぞ! フィーネ!」

「うん お兄ちゃん……!」


2人は再度武器を構え、攻撃を放った。


>>>


 無事5体のガードドローンを倒した2人。カーフの方を見ると、既に先ほどの回収作業を行っていた。しばらくして回収が終わったところで、今度はアルドとフィーネが倒したガードドローンの回収作業を何も言わず始めた。先ほどよりもずっと間近で見ているため、その残酷さや無慈悲さがひしひしと感じられる。


「……。」

「……フィーネ……。」


思わず顔を背けるフィーネに、アルドは見守ることしかできなかった。そんな2人の姿を気配で察したカーフは、作業を終えた後で2人を見ながら話した。


「私は ハンターとして活動しながら さっきのようにパーツを回収し 解析するということをしている。先ほどの光景を見ても お前たちはまだ 私たちを助けたいと思うか?」

「オレは……。」


アルドは言葉を詰まらせる。フィーネは心配そうに見守っている。カーフはやはりといった顔で、自分の武器に手をかけた時、アルドは続きを話した。


「オレは…… カーフのやっていることには 賛成できない。」

「ほう。ならば……。」

「でも それでも オレはカーフたちを助けたい……! その気持ちは変わらないよ。」

「……お兄ちゃん……。」


アルドの答えを聞いてなお、カーフは顔色一つ変えず言った。


「その意志 いつまでもつだろうな?」


そういってカーフは部屋を出て行ってしまった。2人は真剣な面持ちで後に続いた。


>>>


 次に3人が向かった場所は、ゼノ・ドメインの深層区画にあるクロノス博士の研究室だった。入るなり、カーフは端末やコンピュータを操作している。2人はまたそれを眺めていたが、ふとフィーネがアルドに、小さい声で耳打ちする。


「……お兄ちゃん あれって……!」

「どうしたんだ フィーネ……?」


フィーネの視線の先にあったのは、クロノス博士の家族写真のホログラムだった。


「あそこに写ってるのって……。」

「ああ。クロノス博士だ。隣にいるのは マドカ博士。2人の間にいるのは…… エデンだ。そして マドカ博士が抱えているのが……」

「も もしかして わたし……? あっ 足元にいるのって……。」


そんな話をしているところで、カーフが唐突に口を開く。


「お前たち 話す暇があったら 手を貸せ。」


2人は我に返って、あたりを見回すと、いつのまにか大量のガードマシーンに囲まれていた。2人は慌てて武器を構えると、カーフと共に攻撃を仕掛けた。


>>>


 何とか倒し終わったところで、カーフは先ほどと同じようにパーツの回収作業を始めた。フィーネはまたカーフに背を向け、アルドはそばで見守っていた。すると、作業をしながら、カーフは言う。


「……そういえば お前たちはツァイたちにも 同じように 私たちを助けたいといっていたそうだな。」

「ああ。」

「一体 何が目的だ。」

「それは カーフが言った通り カーフたちを助けることだよ。」

「何のために?」

「人助けに理由なんてないさ。」

「……。理解できんな。」

「なぜだ……?」

「人は 行動するとき 必ず何らかの理由がある。だが お前たちにはそれがない。」

「困ってるから 救ける。ただそれだけのことなんだけどな……。」

「……。」


カーフは黙って考え込むように下を向いた。そして、しばらくしてから顔を上げた。


「そこまでいうのなら この先の ターミナルコアまで来い。」


そういうと、カーフは自身の持つ端末を操作しながら部屋を出た。


「……大丈夫 お兄ちゃん?」

「ああ。問題ないよ。それより カーフを追おう……!」


そういって2人も研究室を出た。


>>>


 クロノス博士の研究室よりもさらに奥に行ったところに、ターミナルコアはある。そこは、プロジェクトが中断されたゼノ・プリズマが、格納された場所だった。2人がそこに入ると、少し行ったところにカーフは立っていた。


「ここでは何をするんだ カーフ……?」


アルドの問いかけに、カーフはこう返した。


「お前たち 困っている人をただ助けたいから 私たちを助けると言ったな。」

「あ ああ……。」

「それがどうかしたの……?」

「つまり 相手がどうであれ 困っていれば助けるということだな?」

「そうだ。」

「……ならば……」


カーフがそういうと、急に強い閃光にあたりが包まれた。2人は思わず顔を覆う。しばらくして、目が開けるようになり、カーフの方を見ると、なんとそこには、ツァイ・ルクバー・セジェンもいた。


「……! ツァイに ルクバー……! それに セジェンも……!」

「なぜ 他の皆がここに……?」

「私が 先ほど招集したんだ。」

「……何をするつもりだ……!」


アルドの質問に答えず、カーフは目を閉じ、開いてから言った。


「私は お前たちを信用には 値しないと判断した。よって お前たちを 我々の情報を聞き出し 最終的にシーダ姉さんを含めた 我々の命を狙う 白フードの仲間だと断定する。そして 我々の邪魔をする者は ここで消えてもらう。」

「そんな……。」

「他の皆さんは 信じてくれたんじゃないの……?」


フィーネの悲痛な質問に合流した3人は答えた。


「ごめんなさいね。たとえ私が認めても 姉上がそう判断なさるのなら それに従うしかありませんわ。」

「私たち姉妹の最終決定権は カーフ姉様にあります。そのカーフ姉様が そうおっしゃる以上 戦うほかありません。」

「……こういう時の カーフお姉ちゃんは 止まらない。」

「そんなことって……。」


悲しそうな顔をしたフィーネをもろともせず、カーフは言った。


「これでも まだ考えが変わらないというのなら 私たち姉妹を その意志でもって 止めて見せろ!」


カーフの言葉を聞いて、アルドは武器を取った。フィーネは驚きを隠せない。


「……! お兄ちゃん……!?」

「……オレだって 戦いたくはないよ。でも 今はこれ以外に方法はない。」

「……。」

「それに オレはまだ諦めていない。戦意をなくしてから もう一度話をするんだ……!」

「……お兄ちゃん……。」

「いくぞ フィーネ……!」


アルドの考えには賛同しながらも、フィーネは戦いたくないという様子だった。しかし覚悟を決め、2人ともゆっくりと武器を構えた。


>>>


 4人で様々な壁を超えてきただけあって、4人ともすさまじい強さだった。だがアルドとフィーネも、時代を超えて様々な困難を経験してきただけあって、4人の攻撃にも何とか対抗できた。そして、かろうじて戦意を削ぐことには成功したアルドとフィーネだったが、互いにかなり体力を消耗していた。この状況下で、真っ先に声を上げたのは、アルドだった。


「はぁ はぁ……。もう 戦うのはやめてくれ!」

「くっ……。なぜそこまで……。」

「確かに 最初は話を聞いただけだったかもしれない。でも 今となっては もう他人事じゃないんだ……! カーフたちの父親のことは まだカーフから聞けてないから わからないけど 母親やシーダのこと みんなのことを聞いてしまった以上 放っておくことはできない……!」

「お兄ちゃんも わたしも 本気で助けたいって思ってるの……!」


2人の言葉を聞いて、カーフはようやく武器を納めた。カーフを見て他の姉妹もそれにならった。そして、カーフは言った。


「それが お前たちの 意志なのだな……。」


そして、深呼吸をしてから、2人に言った。


「疑ってすまなかった アルド フィーネ……。」

「……! それじゃあ……!」

「ああ 私から話をさせてもらおう。」


そういって、カーフは姉妹の父について話し始めた。


「私たちの父―フェウスは KMS社に務める科学者だった。そして 母―ペイアも関わっていたゼノ・プロジェクトのKMS社側の担当の一人でもあった。しかし 中間報告書が提出されたことを機に 責任者だった者が処分され 中間報告書にあったゼノ・プロジェクトの放棄 並びにジオ・プロジェクトへの予算の移行は行われなかった。」

「たしか 研究セクターで そんな資料があったな……。」

「それでも 父はその中間報告書からゼノ・プリズマの危険性を理解したようだ。そこで 母と連携して 秘密裏にジオ・プロジェクトを 進めようとしていた。それが ちょうど セジェンが生まれてすぐのことだ。」

「そんなことが……。」

「しかし そんな折 母は何者かに殺された。そして それをもってジオ・プロジェクトは完全にストップしたのだ。父は これをKMS社の犯行であると 考えたらしい。」

「確かに話の筋は通るな……。」

「そこで 独自に調査を進めた。独自だったのはKMS社の圧力で 警察部隊がそろいもそろって動かなかったからだ。それに調査をするにあたって KMS社員であることと ゼノ・プリズマについての知見があることは 非常に好都合だったからでもある。」

「それで カーフたちのお父さんは 一人で調査を……。」

「ああ。だが 無理をしすぎたようだ。日夜休まず調査を行っていたことで とうとう心身に限界が来た。そして数年前から寝たきりになり 先日とうとう亡くなった。」

「……。」

「そこで 私たちは協力しながら 父の調査を引き継いだのだ。そして 私は 父が調査していた時の資料が 周りに気付かれないように 関係のある所のデータベースにあるのではないかと思い それを探しているというわけだ。」

「でも シーダさんは このこと知らないんでしょ……? 何でシーダさんだけ……?」

「それは……」


 カーフが理由を言おうとしたところで、ルクバーがそれを遮った。


「カーフ姉様……! 大変です!」

「どうした。」

「先ほどまであった シーダ姉様の反応が消えました……!」

「……!!!」


突然訪れた展開にカーフですらも驚いている。


「ルクバー……! シーダ姉さんの反応が最後にあった場所はどこだ?」

「最後は…… エルジオンガンマ区画の西側です……!」

「わかった。お前たちだ直ちに向かうぞ!」


カーフの声に、姉妹たちはすぐに向かっていった。姉妹たちが行ったところで、カーフはアルドとフィーネに言った。


「悪いが 話の続きはあとだ。それと あそこまでの仕打ちをしておいて こんなことを言うのはおこがましいが……。」


カーフは少し言葉を詰まらせたが、すぐに言葉を続けた。


「私たち姉妹を…… 助けてはくれないだろうか……?」


カーフの願いに、2人は笑顔で答えた。


「もちろんだ! すべてが解決するまで オレたちも協力するよ!」

「絶対に 助けようね カーフさん……!」

「お前たち……。」


2人の言葉に、初めてカーフは表情を緩めた。それを見ながら、アルドは言った。


「そのためにも 今は一刻も早く シーダを追わないと……!」

「そうだね……! 早くエルジオンに行こう!」

「……ああ!」


こうして、3人も姉妹たちの後に続いて、エルジオンへと向かった。

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