第3話 正義は片を求むが如く
アルドとフィーネはルクバーの家を出た後、ツァイに逢うため司政官室へと向かっていた。
「お兄ちゃん。 しせいかんって 有名な人なの……?」
「ああ。このエルジオンを治めている人なんだ。爺ちゃんみたいなものかな。」
「そうなんだ……! それじゃあ 一番偉い人なんだね……。」
そんなことを話しながら、2人は司政官室フロアに着いた。すると、司政官室からドローンを連れた一人の女性が出てきた。
「あら あなたたちは 姉上の……。」
その女性は ツァイであった。
「先日は 申し訳ございませんでしたわ……。姉上のことになると ついあのようなことを……。」
「オレたちは気にしてないよ。」
「そうなのですか……? でも 一応 もう一度自己紹介をいたしますわ。私はツァイ。姉妹の三女でCOAのエージェントですわ。こっちのドローンはセウスですわ。」
「しーおーえー?」
「あら COAをご存じないのね……? COAとは 司政官直属の警備組織のことですわ。」
「へぇー! じゃあ ツァイさんはすごい人なんだ!」
「私のすばらしさに気付くとは あなた なかなか見込みがありますわね!」
フィーネにそう返すと、ツァイは少し真面目な顔になって言った。
「先ほど 司政官に会う前に ルクバーから連絡がありましたわ。用向きは承知しています。でも ここでは 何かと具合が悪いですから 一度バーに行きますわよ!」
そういって、ツァイは颯爽と歩いて行くと、2人も続いて緊張した面持ちでバーへと向かった。
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バーに着いた2人はツァイに促されて、バーの一番端へと座った。バーには誰もおらず、内密なことを話すにはちょうど良かった。
「では お話いたしますわ。私の追っている事件について……。ですが……」
ツァイは不敵な笑みを浮かべた。しかし、2人を見る眼差しは表情とは対照的に鋭かった。
「この話は 私たちの本質に関わることですわ。たとえ ルクバーとセジェンが認めたとしても 私自身の目で見定めないと こんな大切な情報 お話できませんわねぇ……。」
「そんな……。」
フィーネは、ツァイの突然の回答に落ち込んでいる。しかし、アルドはいつものことだといわんばかりの調子で言った。
「なら 何をすれば 話してくれるんだ……?」
「そうですわねぇ……。……あら。」
ツァイはおもむろに腕につけた端末に目を向けた。そしてまた先ほどの怪しい笑みを浮かべた。
「でしたら 私 ちょうど用事ができましたので 私が司政官の命で今から行おうとしていた調査を やってもらうというのはいかがかしら……?」
「そんなことでいいのなら 喜んで協力するよ。何をすればいいんだ……?」
「あら いい返事は嫌いじゃなくってよ。それで 任務の内容ですけど 密輸を行っている集団を捕まえていただきますわ。場所はエルジオン・エアポート 対象の集団は12名 3か所で行われるものとみられますわ。」
「その人たちを 捕まえて 連れてきたらいいの……?」
「あら なかなか察しがいいですわね。COAに欲しいくらいですわ……!」
ツァイの評価にフィーネは嬉しそうだ。それを確認した後でツァイは言った。
「捜査の間 セウスをお貸ししますわ。密輸集団が見つかりましたら セウスに指示していただければ 私の部下が連行いたしますわ。頼みましたよ セウス?」
「オ任セクダサイ……!」
「それでは 捜査の方 お願いしますわね……?」
「ああ 行ってくる。」
2人を見送ったツァイは、依然として怪しい笑みを浮かべている。
「お二方が どのような選択をするのか……。2人の持つ正義はどのようなものか……。楽しみですわねぇ……。」
そういうと、急に真面目な顔に戻ったツァイは、もう一度端末に目をやった。
「それにしても 今度は 私の求めるものであればよいのですけど……。」
そういって、ツァイは一人ゼノ・ドメインへと向かっていった。
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エルジオンを通って、エアポートへと着いたアルドとフィーネは、さっそく捜索にかかった。
「それにしても どこにいるんだ……?」
「……。悪いことをするんだったら 誰もいないところで やるんじゃないかな……?」
「確かに それなら 誰にも見られずにできるもんな。よし それっぽいところを探してみるか!」
「うん……!」
そうして、人気のなさそうなところを、捜査した2人は早くもエアポートの東側にある小さな場所で、一つ目の集団を見つけた。2人は早速密輸を止めに入る。
「おい! そこで何してるんだ!」
「悪いことは やっちゃダメだよ……!」
2人の登場に連中は、驚きと焦りに満ちたようだった。
「……! 何でここが……!」
「……。バレてしまっては仕方がない……。やはり 無茶な計画だったんだ……。」
意外とあっさりと白状した連中を不思議に思いながら、セウスに言って連行してもらった。
「じゃあ 他の人たちも探しに行こう お兄ちゃん……!」
「あ ああ……。」
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2人は、一つ目の集団を連行後、次の集団を見つけるため、さらに奥へと来ていた。すると、中腹で2つ目の集団を発見する。
「そこまでだ!」
「そんなことしちゃダメ!」
「……! ここ来たということは第1地点はやられたか……! もう少しだったというのに……!」
「……。せめて 最終地点だけでも……。」
アルドはセウスで部下を呼び出し連行してもらったが、すっきりしない表情だった。
「あと一つだね お兄ちゃん……!」
「……。」
「どうしたの お兄ちゃん……?」
「ああ 何か妙に素直だなと思って……。」
「確かに 悪いことをしてた割には あっさりあきらめてたかも……。」
「……何か裏があるのかもしれないな。とりあえず最後の集団を探しに行こう。」
そういって、2人はさらに奥へと進んだ。
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2人はエアポートの最奥部に来た。そこに最後の集団もいた。
「まて!」
「そこまでだよ……!」
「……! なぜここが……!」
「……これは もはや諦めるほか……。」
「いや まだ諦めるわけにはいかん……!」
おそらくこの集団の首謀者と思われる男はそういって、3体のガードマシンを繰り出した。
2人は武器を構え、敵へと向かっていった。
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3体のガードマシンが倒されると、ようやく首謀者の男も諦めたようだった。
「……もはや ここまでか……。」
落ち込む男に対し、アルドは今まで抱いてきた違和感を尋ねた。
「なあ。あんたらはいったい 何をしようとしてたんだ?」
「……私たちは 合成人間を運ぼうとしていたんだ……。」
「何だって……!」
「でも 運ぶのは悪さをしている奴じゃない。合成人間の中にも 戦いたくないやつはいるんだ。私は そんな合成人間たちを助けたいと思い エルジオンの外へと運ぼうとしたんだ……。」
「……。」
真相を知ったところで、その場に現れたのはツァイだった。
「話は聞かせてもらましたわ。どうやら あなたが首謀者のようですわね……?」
「ああ その通りだ……。」
「では 行きますわよ。話はあとでたっぷりと……」
「待ってくれ……!」
連れて行こうとするツァイを呼び止めたのはアルドだった。
「あら どうしたのですか……?」
「オレは この人たちは悪い人じゃないと思うんだ。全ては合成人間を助けようとしているだと思う。だから この人たちを捕まえないでくれないか……?」
「あらあら 何を言い出すかと思えば……。そんなことがまかり通るとでも お思いですこと……?」
「やっていることは もしかしたらよくないことかもしれない。でも オレは正しいことをしていると思うんだ……! だから……」
「……。」
アルドの言葉を聞き、少し考えてからツァイは顔を上げた。そこには、今までの怪しい笑みはなかった。そして、首謀者の男に言った。
「……あなた。」
「な なんだ……?」
「すぐに先ほど連行したお仲間も呼び戻しますわ。今日中にことを済ませなさい。」
「……! 見逃してくれるのか……?」
「あくまで 私の正義のもと 判断したまでですわ。」
そういって、ツァイは連絡をした後、来た道を戻りながらアルドとフィーネに言った。
「話がありますわ。バーに来てくださるかしら……?」
「……! すぐ行く!」
2人はようやくすっきりした顔で、バーへと向かった。
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バーへと着くと、先ほどの席にツァイは座っていた。先ほどと同様、他に客はいない。
「先ほどは 良い選択をしていただいて 感謝申し上げますわ。」
「……オレは 思ったことを言っただけだよ。」
「おかげで あなた方が 信用に値するということを 確認できましたわ。」
「もしかして それを確認するために お兄ちゃんとわたしに任務をお願いしたの……?」
「さあ どうでしょうね……?」
ツァイはいたずらっ子のような笑顔をフィーネに見せた後、2人に向き合って言った。
「さて それじゃあ お話をいたしましょうか。私が捜査していること―私たちの母について……。」
2人を交互に見た後で、ツァイは話し始めた。
「私たちの母上 ペイアは プリズマの研究者として名高い人で かの有名なクロノス博士とも 共に様々な研究をされていましたわ。クロノス博士が失踪してからも そのプロジェクトを引き継いで研究を進めていらっしゃったようですの。ですが……。」
「……?」
「ようやくプロジェクト再開の目処が立ったところで 母上は突如亡くなられましたの。母上の死を不審に思った父上は 独自に調査を始めましたわ。しかし そんな父上も先日亡くなられた……。」
「ツァイたちのお母さんにそんなことが……。」
「父上は 生前ずっと 母上は何者かによって殺められたと そういっておられましたわ。」
「それが誰なのかはわからないの……?」
「ええ。ですので 私たちはそれぞれの形で 両親のことについて 調査を行っているのですわ。そして 私は COAとなって 仕事をこなしながら 独自に捜査を行っているのです。」
「それじゃ 調査をしていることが バレるんじゃ……?」
「それを 書きかえるのが ルクバーの役割ですわ。」
「そういうことだったんだ……。」
「私は COAとして 誤ったことをしていると思いますわ。仕事に逆らうことだって多々あります。でも 私には 私の正義がある。真相にいち早くたどり着かなければならないと思っている。だから 私は 私の選択に後悔はしていませんわ。」
「ツァイ……。」
話を聞いて、アルドとフィーネは黙り込んでしまった。それをみて、ツァイは笑いながら続ける。
「それにしても 他人の内輪のことに よくそこまで 真剣になれますわね……?」
「……一度関わったら なんか放っておけなくて……。」
「お兄ちゃんってこういう人なの……!」
「そうですのね……。あなた方がいれば もしかしたら この件も……。」
「……? なんか言ったか?」
「……。……いいえ 何も。それより 私たちに話を聞いて回っているということは まだ姉上のところには いってらっしゃらないようですわね。」
「カーフのことか……。カーフはいったいどこにいるんだ?」
「姉上は私以上に あちこちに飛び回っていますから 落ち着いて話を聞くことも難しいかもしれませんわね……。」
「よく行くところとかないのかな……?」
「いつもなら 工業都市廃墟に…… あら?」
先ほどの時と同じように、ツァイは端末に目をやった。気になったフィーネはアルドよりも先に聞いた。
「どうかしたの……?」
「……姉上から あなた方に伝言ですわ。ゼノ・ドメインへ行きなさい。」
「ゼノ・ドメインか……。さっそく 行ってみるよ。」
「ありがとう ツァイさん……!」
そういって、ツァイに見送られながら、2人は急いでカーフの待つゼノ・ドメインへと向かっていった。
「あの方々なら 私達の長い戦いと歪みを終わらせてくれるかもしれないですわね……。あの日を境に変わってしまった姉上たちも……。」
一人残されたツァイは、兄妹の背を見ながら、そんな本音をもらしていたのだった。
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