第2話 祈りは光を捉うが如く

 アルドとフィーネは、五人姉妹の五女セジェンからもらった地図を基に、エルジオンのシータ区画の入り口から近い家にやってきた。しかし、そこは鍵が閉められ、空き家であった。

 

「うん……? 鍵がかかってるな……。人の気配もないし空き家なのか……?」

「でも 地図に書いてあるのは ここで間違いないよね……。」


2人が不思議がっていると、どこからともなく女性の声がした。


「あら……。あなた方は姉様の……。」


2人が振り返ると、そこにいたのは五人姉妹の四女ルクバーだった。


「ルクバー……!」

「わたしたち セジェンに言われて あなたに会いに来たの!」

「それはそれは……。それでは あの子があなた達を 認めたということですね……。」

「……? どういうことだ?」

「それは こちらでお話いたしますね。どうぞ こちらに……。」


そういって、ルクバーは空き家らしきところの鍵を開けて上がっていった。2人はわけがわからないといった感じで、恐る恐る入っていった。

家の中は思ったより明るくきれいだったが、生活感はほとんどなく、椅子とテーブルくらいしかなかった。2人が椅子に座ると、ルクバーは温かいお茶を2人に出した。2人はお礼を言うとルクバーは静かに微笑んで、話し始めた。


「先ほどは シーダ姉様や他の姉妹が 大変ご迷惑をおかけしました……。普段はとても良い方たちばかりなのですけど シーダ姉様が絡むとあの調子で……。」

「わたしたちは大丈夫……!」


フィーネの言葉にアルドもうなずくと、ルクバーは申し訳なさそうにしながら話を続けた。


「あの時は みんな気が立っていて……。なので 改めて 自己紹介をさせてください。私はルクバー。五人姉妹の四女で みての通り 車いすで生活しております。本来は 生家であるラウラ・ドームにいるのですが 今はわけあってこちらに住んでおります。」

「よろしく! ルクバーさん……!」


挨拶が済んだところで、アルドはあたりを見回しながら言った。


「それにしても 外から見た時 鍵も閉まってて人の気配もしなかったから てっきり空き家だと思ってたよ。」

「……あまりここには 帰ってこないから そう感じられたのかも しれないですね。」

「普段は 何をしているの……?」

「普段は…… エルジオンを散歩していることが多いです。まあ 散歩といっても 歩いているわけではないですが……。」


一通り答えた後で、ルクバーは少し黙ってからアルドとフィーネに尋ねた。


「あの…… 失礼ですが シーダ姉様とはどういったご関係で……?」

「ああ シーダはさっきデルタ区画で セジェンと口論しているのを見かけたんだ。」

「それで もし困ってるんだったら 何か手伝えることが無いかなって思って 話を聞いてたんだ……!」

「……。」

「どうしたんだ……?」

「……私たち姉妹のこと 何か言っておりましたか……?」

「うん! 妹さんたちがどんな人かを 教えてもらったんだ! とても 妹さん思いの人だったよ!」

「ああ。でも 皆が何か良くないことをしてるとも言ってたな。」


その話を聞いて、ルクバーは一つため息をついた。表情は穏やかだが少し冷たくなったような気がする。

その様子にアルドは思わず尋ねる。


「どうしたんだ……?」

「……あなた方は シーダ姉様のことを誤解されています。」

「そ そうかな……?」


一度閉じた目を見開くと、ルクバーは冷ややかな顔で淡々とシーダについて話し始めた。


「シーダ姉様は こどもの頃は どんなことをしても 必ず何があったのか話を聞いてくださり 時に私たち妹を導いてくれる存在でした。早くにお母様を亡くした私たちにとっては 母親代わりともいえます。ですが……。」

「……?」

「お父様が亡くなる前ぐらいから 急に怒りっぽくなり 自分が正しいと思い込み 目に見えることでしか 判断ができなくなってしまったのです。」

「そんな……。」

「さすがに そんな言い方は ないだろ……!」

「では 先ほど逢ったばかりのお二人の方が シーダ姉様のことをよくわかっているとでも……?」


ルクバーは、明らかにこちらに敵意を向けている。先ほどまでの穏やかさは消えていた。アルドとフィーネは急な変わりように驚きを隠せなかった。それに追い打ちをかけるように、ルクバーは話す。


「……単刀直入に申し上げます。あなた方は 私たちの両親を殺め 姉妹の命までをも狙っている 白フードの仲間ですね?」

「違うよ……! わたしたちはそんな人たちじゃない……!」

「そうだ! いったい何の話だ……!」

「出逢ってすぐの人を ここまで助けようなんて 普通思いません。ならば 何か別の理由があって その目的のために接触しているということ……! つまりあなた方は シーダ姉様の懐に入って 私たちを全員始末する気でいるのです……! ならば 私はあなた方をここで食い止めます……!」

「落ち着いて ルクバーさん!」

「そうだ! それに 白フードなら さっき……」

「何と言おうと あなた方には ここで消えてもらいます……!!」


2人の話も耳に届かず、そう言い放ったルクバーのまわりには、急激に魔力が高まっている。


「わたしたちは そんな人じゃないわ ルクバーさん!」

「だめだ フィーネ。今は話が通じる相手じゃない……!」

「そんな……。」

「とりあえず まずは落ち着かせるんだ!」


そういって、2人は不本意ながら、自分の武器を手に取った。


>>>


 アルドとフィーネは、ルクバーの攻撃をよけつつ、動きを止めることができる程度の攻撃を続けた。それにより、何とかルクバーの動きを止めることに成功した。しかし、ルクバーの敵意はまだこちらに向けられている。


「はぁ はぁ……。もうよすんだ ルクバー……!」

「わたしたちは戦いたいわけじゃないの……!」

「……私が…… 止めないと……!」


ルクバーがさらに攻撃を行おうとした時、どこからともなくそれを制止する叫びが聞こえた。


「やめて ルクバーお姉ちゃん……!」


ルクバーの前に立ちはだかったのは、五女セジェンだった。


「……セジェン……!」

「お姉ちゃん この人たちは白フードじゃない……!」

「なぜそんなことがいえるのです……!」

「さっき 私のところに 白フードが来た……。でも その時 2人は助けてくれた……!」

「それが なんだというのです……! あなたをそこで足止めしておいて 仲間を呼んだにちがいありません……! セジェンも騙されているのです! やはり 私がここで仕留めなければ……!!!」


そういって、ルクバーはセジェンが前に立っているにもかかわらず、アルドとフィーネに魔法を放った。セジェンは思わず、身構えした。しかし、いつまでたっても攻撃は来ない。恐る恐る目を開けると、そこにいたのは、なんとアルドだった。


「うっ……!」

「……! お兄ちゃん!!!」

「アルド……!」


フィーネがすぐに駆け寄り、アルドに回復術を使う。今まで感情を顔に出さなかったセジェンは、とても心配そうな顔をしていた。そして、目の前で起こったことに一番驚いているのは、他でもないルクバーだった。


「……! セジェンを…… かばった……?」


驚いているルクバーに、アルドは言った。


「……オレは シーダたちに何が起こっているのかは わからない……。でも オレたちはシーダやみんなを助けたい…… そう思っている。それに 白フードなら セジェンを助けたりは しないだろ…… うっ……!」

「お兄ちゃん……! それ以上 しゃべっちゃダメ……!」


今にも泣きそうな顔でアルドの回復をするフィーネをみて、セジェンは言った。


「お姉ちゃんのやっていることは 白フードと同じ……!」

「……!」

「……この状態を見ても まだ アルドとフィーネを疑う……?」

「……。」

「私は こんなことをしてもらうために 2人をここに連れてきたわけじゃない……。それは お姉ちゃんも分かってるはず……。」


セジェンの言葉を聞いて、ようやくルクバーは落ち着きを取り戻し、黙ってアルドに回復術を施した。


 しばらくして、元に戻ったアルドに、ルクバーは頭を下げた。


「申し訳ございません アルド……。私の判断が間違っていたようです……。」

「わかってくれたら いいんだ。」

「本当に 何とお詫びを申し上げたらいいか……。」


アルドの様子にフィーネは心底安心したようだった。一連の様子を見たセジェンは、もとの調子に戻ったルクバーに言った。


「お姉ちゃん……。そろそろ お話した方がいいと思う……。」

「……そうですね……。アルドさんにフィーネさん。今からお見せしお話することは 決して口外しないと約束してください。」

「あ ああ……。わかった。」

「うん 約束する……!」

「その言葉 信じますね……。では……」


そういうと、ルクバーは壁の一画に手をかざした。すると、壁が光りだし、一瞬にして、扉があらわれた。2人はルクバーとセジェンに続いて入ると、そこには無数のスクリーンが真っ暗な部屋一面に広がっていた。それはさながら秘密基地と呼ぶにふさわしい、異様な空間だった。


「これは……!」

「こんなところに こんなにたくさんの光る板が……。」


驚いている2人に向き直ったルクバーは、話し始めた。


「ここは エルジオンのありとあらゆる情報を集積するモニタールームです。」

「ここで エルジオンのことで 見れないものはない……。」


部屋の説明を簡単にしたところで、ルクバーとセジェンはさらに話し続ける。


「……シーダ姉様を除く私たち姉妹は とある事件を追っているのです。一つはお母様の死 もう一つはお父様の死です。」

「……!」

「セジェンが生まれてからすぐ お母様は亡くなり 先日お父様も亡くなりました。お父様のことについては シーダ姉様はまだ知りません。」

「……でも 実際は お母さんもお父さんも 誰かに 亡き者にされた……。」

「私たちは それが真相であり 犯人は白フードで間違いないと考えています。実際 お父様も お母様は何者かの手にかけられたと おっしゃっていましたし 私たちを狙ってくる白フードは私たち家族のことをよく知っていたので。しかし 大人は誰も取り合ってくれず……。そこで 私たちは 自分たちで真相を明らかにし 証明することを誓ったのです。」


呆気にとられる2人を見ながら、ルクバーはさらに続けた。


「そこで お父様の件の捜査をカーフ姉様が お母様の件の捜査をツァイ姉様が担当し 私とセジェンは姉様たちをサポートすることになったのです。」


アルドは不穏な空気を感じながらも、ルクバーに聞いた。


「サポートっていったい何をしてるんだ……?」

「私は エルジオンのありとあらゆるデータベースに侵入し 手がかりがないかを探すと同時に 姉様やセジェンに指示を出したり 犯行が露呈しないように情報を操作しているのです。この家もデータベースに侵入することによって 誰にも知られないようにしながら 住んでいるのです……。セジェンは 侵入できないところや その他私が得ることができない情報を その俊敏さを活かして 盗み取っているのです。だから スクールにも遅れてしまうのですよ……。」


話を聞き、アルドとフィーネはやっと事の重大さに気付いた。


「そんなことしたら 捕まるんじゃ……。」

「ええ。気づかれれば すぐに裁かれるでしょう。」

「そんなこと やっちゃだめだよ……!」

「私たちも これが犯罪行為であることは 重々承知です。それでも 私たちが動かねば 両親の死は闇に葬られてしまう。そのためには 手段を選ぶ暇はないのです……。」

「だからって……! そうだ……! 他の仲間にも聞いてみよう。」

「……アルドさん。この部屋に入る前 誰にも言わないと誓ったのをお忘れですか……?」

「あっ……! そんな……。」


アルドとフィーネに再度くぎを刺してから、ルクバーは言った。


「私からお話しできるのは これくらいです。それでもなお 私たちを助けたいと思うのであれば まずツァイ姉様に逢って 話を聞くといいと思います。ツァイ姉様は 今の時間であれば司政官室にいると思いますので。」


アルドとフィーネは、複雑な心境になりながら、ツァイに逢うため家を出た。


「どうしたらいいんだろう お兄ちゃん……?」

「もちろん こんなことは早く止めさせないと……! でも 人には助けを求められない。なら ルクバーたちの両親の事件を解決すれば やめてくれるはずだ。」

「……やっぱ 悪いことはしちゃだめだもんね……! そしたら ツァイさんに 話を聞きに行こう お兄ちゃん……!」


こうして2人は、複雑な気持ちのまま、ツァイに逢うため司政官室へと向かった。

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