想い抱きし姉妹と時空超えし兄妹

さだyeah

第1話 情愛は闇に惑うが如く

 クロノス・メナスとの戦いが終わってから数日、アルドは曙光都市エルジオンにいた。しかし、今回アルドとこの場を訪れたのは、いつもの仲間ではないようだ。


「すご~~い!!! これが未来の街……! 見たことない建物ばかりだよ~! こんなところに 普通に来てたなんて うらやましいなぁ お兄ちゃん……!」


そういってアルドの傍を行くのは、無事に助けることができた妹のフィーネだった。

こうしてエルジオンに来たのも、フィーネが未来の世界に行ってみたいと言ったからであった。


「オレも 最初に来た時は 見たことないものばかりで 驚きっぱなしだったよ。」


(けど オレは 観光するために ここに来ていたわけじゃないんだけど……。)


アルドは、本音を胸にしまいつつ、元気なフィーネの姿を見て、嬉しさと安堵で思わず笑顔になる。そんなフィーネに様々な店を見せるため、アルドはエアポートから住宅が多く集まるシータ区画を通って、数々のお店が立ち並ぶデルタ区画へと連れてきた。案の定、フィーネは大喜びだ。


「あっ あそこに お店がある……! 行ってみよう お兄ちゃん……!」

「お おい……。先に行かないでくれ……。」


初めて未来に来てはしゃぐフィーネに振り回さて、アルドは目が回るようだった。

未来での初めての食事を取った後、2人は次に行くところを決めていた。


「次はどこに行こうかな お兄ちゃん!」

「そんなに急がなくたって 全部見て回るだけの時間は…… ん?」


アルドは足を止めた。フィーネが兄の視線を追うと、そこには2人の女性が口論していた。かなりの勢いらしく、少し離れている2人にも会話の内容が聞こえてきた。


「ちょっと……! スクールにあまり行ってないって どういうことなの……?」

「……お姉ちゃんには 関係ない。」

「関係ないわけないでしょ……! 父さんのおかげで行けてるっていうのに わかってるの……?」

「……私のこと もう構わないで……!」

「何ですって!」


お姉ちゃんと呼ばれていた女性が手を取ろうとすると、もう一人の女性はものすごい速さでその場を去っていった。


「お姉ちゃんって 呼ばれてたから 兄弟げんかかな……?」

「たぶんな。でも あまり穏やかじゃなさそうだな……。」


今起きた出来事を2人で分析していると、こちらに気付いたらしく、お姉ちゃんと呼ばれていた女性が近づいてきた。


「……あなたたち。」

「は はい……。」

「ごめんなさいね……。見苦しいところをお見せしてしまって……。」

「いや いいんだ。それより 何かあったのか……?」

「え ええ。妹が最近スクールに行ってないらしくて……。」

「何か嫌なことでもあったのかな……?」

「わからないわ……。理由を聞こうとすると あんな調子で……。」


話を続けようとした女性は、気付いたように言った。


「ごめんなさい……。こんな話 人様にするようなことじゃないわよね……。」

「別に俺は構わないよ。それより 困ってるんだったら 何か手伝うよ。」

「……! そんな 家族の問題に人様を巻き込むなんて そんなことできないわ……!」

「わたしたちのことなら 気にしないで! それに 妹さんも気になるし……。」

「……ありがとう……。なら 立ち話も何だし 私の家に来ない? シータ区画にあるの。そこで話をするわ。」

「いいのか……?」

「もちろん! 構わないわ。」


そういって、女性は歩いて行った。それについていこうとするフィーネを、アルドが呼び止めた。


「なあ フィーネ。」

「……? なあに お兄ちゃん?」

「今回のことは オレが行くから フィーネはもう少し 観光してたらどうだ? せっかく 来たんだし……。」


アルドの提案に、フィーネは首を横に振る。


「ううん。わたしも行くよ。あの人たちのことも気になるし……。それに 一人でまわるなんて面白くないよ……!」

「まあ フィーネがいいんだったらいいけど……。」

「そうと決まれば 未来での初めての人助けに行こう!」


こうして、2人は女性に続いて、駆けて行った。


 2人は女性についていき、シータ区画の右端まで来た。そのまま女性に促されるままに家に入り座ると、女性は先ほどの口論の時からは想像できないような落ち着いた口調で話し始めた。


「そういえば 自己紹介がまだだったわね。私はシーダ。ラウラ・ドーム出身よ。今はここに住んでいるわ。」

「オレは アルド。こっちは妹のフィーネだ。」

「わたしたちは 観光でここに来たの!」

「ご兄妹だったのね! それにしても 観光できた割にはコスプレしてるのね……?」

「こすぷれ……?」

「あ ああ! そうなんだよ……! あははは……。」


アルドはそう答えたところで、フィーネが耳打ちする。


(お兄ちゃん こすぷれ って何?)

(こっちの人からしたら オレらの服装は こっちで流行っている 遊びに出てくる登場人物のまねをしているように見えるんだ。だから コスプレかどうかを聞かれたら そうだって言っといてくれ。)

(わかった……!)


居直った2人を不思議そうに見てから、シーダは話を続けた。


「私は 妹たちと父親と共に ラウラ・ドームで生活していたの。そして エルジオン医科大学に進んで 数年前に卒業して 今はKMS社に勤務しているわ。」

「なるほどな。でも ラウラ・ドームなら 今は……。」

「ええ。先日の時震で エアポートが封鎖されているから 帰れないのよ……。」


アルドは複雑な心境でいるとも知らず、シーダは妹たちのことについて話しだした。


「それで さっき私と揉めていたのは 五女のセジェンよ。うちの姉妹の中で唯一学生なの。とても暗くて 顔色も悪いし 口数も少ないけど 逃げ足だけはとても速いのよ。」

「確かに さっきは目で追えなかったな。だけど……」

「五女ってことは シーダ以外に もう3人いるってこと……?」


アルドが疑問に思ったことと同じことを、フィーネが聞いてくれた。


「そうだけど どうかした?」

「いや なんでも……。」

「そう。ちなみに 私は長女よ。」


2人は、嫌な予感を気取られないよう、押し殺して続きを聞いた。


「四女は ルクバー。彼女は生まれつき 足が悪くて 車いすで生活しているの。妹たちの中でも 一番おとなしいけど 一番しっかり者でもあるわね。」


「三女はツァイ。あの子は いつも 父さんに買ってもらった ドローンを連れているの。 感情の起伏が激しいところが 玉にキズだけど 誰よりも正義感にあふれた子だったわ。」


「次女はカーフ。この子は 昔から急に無茶なことをしたりして 見ていて危なっかしいこと この上なかったわ。でも いざという時にとても頼りになる子よ。おまけに とても 優しい子なの。」


一通り話を聞いて、アルドはシーダに思ったことを話す。


「説明してくれて ありがとう。でも 今の話を聞く限りでは 特に問題を抱えている感じでは なさそうだけど……。」

「だからこそ 困っているの……! 噂によると カーフは危険だといわれている箇所によく出入りしていて ツァイは 自分の仕事を盾に 何かを調べていて セジェンは スクールに行ってないということらしいわ。何もないのは ルクバーだけよ。」

「なるほど……。でも これについては 実際に話を聞かないと わからないな……。」


アルドのつぶやきに、何かひらめいた様子のシーダは、2人にある提案をした。


「なら バーに行きましょ! ちょうど今日この後 バーで久しぶりに集まることになっているの!」

「いいのか……? そんなところに オレたちがいて。」

「大丈夫 問題ないわ。それに 妹達に紹介したいのもあるし……。」

「わかった。じゃあ そうさせてもらうよ。」

「そろそろ集まる頃ね……。じゃあ 私たちも行きましょうか。」


そういって、みんなは、再びデルタ区画へと向かった。


>>>


 3人がバーに入ると、4人の女性がすでに集まっていた。そこには、先ほど口論していた女の子もいる。しかし4人の空気は重く、久しぶりに会う雰囲気ではない。アルドとフィーネは、非常に気まずいながら席に着くと、


「久しぶりね みんな。」

「そうですわね 姉様。」


女性の問いかけに答えたのは、車いすの女性だけだった。


「あっ そうそう 紹介するわね。この人がアルドで こっちが妹さんのフィーネよ。先ほどから仲良くさせてもらってるわ。」


シーダの言葉を受け、2人は恐る恐る自己紹介をすると、4人の女性たちも、簡単に挨拶をしてくれた。


「……次女のカーフだ。」

「三女のツァイですわ。」

「四女のルクバーと申します……。」

「……五女のセジェン……。」


アルドとフィーネはシーダの話と実際の人物がやっと一致したようだった。しかし、急にシーダが怒り口調で話し出す。


「ちょっと……! お客人に対して 何なの その態度は……!」


怒るシーダとは対照的に、他の4人は黙ったままだった。その沈黙は、シーダをさらに怒らせた。


「それから 久しぶりに会うってのに 何でずっと 皆黙ったままなのよ……!?」


相変わらず4人は黙ったままだ。この状況に、シーダはついに怒りを爆発させた。


「あんたたち ふざけるのも いい加減にしなさいよ!! それに 私知ってるんだからね! あなたたちが何か良くないことをしてること……! 全く 父さんが聞いたら どれだけ悲しむか……。」


最後のシーダの言葉に4人は明らかに不快感をあらわにした。そしてその不快感を出しながら口々に話した。


「やはり あんたとは相容れんな 姉さん。」

「こんなことなら 始めから 姉上の誘いを断わっておくべきでしたわ。」

「……。姉様……。」

「……やっぱ お姉ちゃん 嫌い……!」


そういうやいなや、妹たちは店から出ていった。みんな、付き合ってられないという感じであったが、最後に出たルクバーだけは、悲しそうであった。


「何なのよ いったい……。どうしてこんなに変わってしまったの……。」


シーダは今にも泣き出しそうな勢いだ。

複雑な気持ちになったフィーネに、アルドは言った。


「シーダは 少し一人にしておいた方がいいだろう。いったんここを出よう。」

「うん……。」


こうして、バーから出た2人は深呼吸をしてから、話し始めた。


「妹たちは シーダに何か思うところがあるようだな……。」

「でも ルクバーさんと他の人は違う気がする……。」

「それに シーダは4人の変わりようを知らなかったみたいだから たぶん シーダが大学に行ってから 今日までの間に 何かあったみたいだな。」

「とりあえず 話が聞きたいけど みんなどこ行っちゃったんだろ……。」


アルドとフィーネは、先ほどの4人を探していると、遠くの方にセジェンの姿が見えた。


「あれは セジェンだな……。何もしてなさそうだし、今なら話が聞けるんじゃないか……?」

「そうだね! 早速話に行ってみよう お兄ちゃん!」


そうして2人は、セジェンの方へと駆けて行った。


>>>


 「おーい セジェン……!」


アルドが声をかけると、セジェンは振り返って言った。


「あっ……。アルドとフィーネ…… だっけ。」

「そうだよ! 覚えてくれてたんだね! ありがとう……!」


フィーネが感謝を述べると、セジェンは思わぬ言葉を口にした。


「……さっきは ごめんなさい。」


唐突の謝罪に驚く2人だったが、セジェンは気にすることなく続ける。


「……私 シーダお姉ちゃん 嫌い……。だから シーダお姉ちゃんがいると こうなる……。でも 普段は あんな感じじゃない……。他の お姉ちゃんたちも 同じ……。」


それを聞いてアルドとフィーネは少し安心した。それを察してか、セジェンはさらに話す。


「……改めて 自己紹介 させて。私は セジェン。……姉妹の 五女で IDAスクールに 通ってる……。」

「自己紹介ありがとう セジェン。あらためて よろしくな……!」

「よろしく……! セジェンさん……!」

「……よろしく……!」


口調やテンションは相変わらずだが、先ほどまでとはうってかわって、セジェンはとても友好的だった。

今だったら聞けるのではないか、そう思ったアルドとフィーネは思い切って、本題を尋ねた。


「そういえば さっきシーダと喧嘩したのを見かけたんだ。なんか IDAスクールに あまり行ってないって ことだったけど……。」


ここまで言ったところで、アルドはセジェンの表情が少し曇ったのに気付いた。やはりまだ聞くには早かったか、そう思いながらも思い切って聞いてみた。


「その……。IDAスクールで何か嫌なことがあったのか……?」

「もしよかったら 話を聞かせてほしいな……。」


アルドとフィーネの問いかけに、セジェンはなぜか非常に驚いた様子だった。


「どうかしたか……?」

「……。うれしい……。」

「えっ……?」

「……私自身の ことを 聞いてくれたの…… 久しぶり だったから……。」

「前は 誰かこんな風に聞いてくれてたの……?」

「……前は シーダお姉ちゃんが 聞いてくれた。でも それは シーダお姉ちゃんが 大学に行く前の話……。……シーダお姉ちゃん 変わっちゃった……。」


最初は嬉しそうだったセジェンだが、シーダの話をしていた時は、とても悲しそうな顔だった。


「……ごめん。話がそれた……。」

「いいんだ。セジェンが話しやすい時に 話してくれたらいいよ。」

「……ありがとう。」


また、嬉しそうな顔に戻ったセジェンは、IDAスクールの件について話し始めた。


「……シーダお姉ちゃんが 言ってたように お父さんに 学校に行かせてもらってるのは 事実。でも 学校に行ってないのは サボってるからじゃない。」

「じゃあ どうして……。」

「それは……。……お母さんのため。」


全く持って予想外の答えが返ってきて、2人は驚く。


「……お母さんのことを 見つけるために IDAシティ中を 探し回ってる。」

「でも さっきのシーダの話じゃ お母さんは もう……。」

「うん……。だからこそ 探してる。」

「一体何を探してるの……? それに これだけ広いのをどうやって……。」


フィーネが聞いてすぐ、突然どこからか男の声が聞こえた。


「おや これはこれは……。」

「……だれ。」


声のする方を見ると、そこには白フードを被った男性がいた。


「下手に嗅ぎまわってもらっては 困りますねぇ……。フェウスの五番目の息女 セジェンさん……?」

「……! どうして お父さんの名前を……!」

「もはや あなたに答える意義など ありません。あなたには ここで消えてもらうのですから。」

「……!」


白フードの男はそういうと、3体のサーチビットを繰り出した。


「何の武器も持たない人を襲うなんて どういうことだ!」


アルドが怒りをぶつけても、白フードは何も気にしていない様子だった。


「おや そちらの方は どなたか知りませんが 彼女に味方するなら あなた方も消えてもらいますよ。」

「そうはさせない……! いけるか フィーネ?」

「うん 大丈夫だよ お兄ちゃん!」


アルドとフィーネはセジェンの前に立つと、戦闘態勢に入った。


>>>


 少し時間はかかったものの、サーチビットはアルドの剣とフィーネの術の前に倒れた。


「これは厄介なことになりましたねぇ……。少し考え直さなくては……。」


そういうと、白フードの男は3人に見向きもせずに消え去った。


「セジェン ……大丈夫か?」

「怪我とかしてない……?」

「……うん。何ともない……。……ありがとう。」


お礼を言った後、セジェンは少し黙ってからフィーネに言った。


「……フィーネ。わるいけど さっきの質問には 答えられない。」

「何か言えない理由があるの……?」

「……。」


黙ってしまったセジェンを見て、アルドはフィーネに言った。


「フィーネ。セジェンが話してくれるようになるのを待とう。」


アルドの提案にフィーネもうなずく。それを見て、セジェンは再び口を開いた。


「ありがとう……。あと これ。」

「何だ? 行き先が書かれた地図みたいだけど……。」

「……ここに行けば ルクバーお姉ちゃんに会える。きっと 色々と 教えてくれるはず。」

「ありがとう セジェン……!」


フィーネがそうお礼を言ったときには、セジェンはどこにもいなかった。どうやらシーダとの口論の時のように、とてつもない速さでどこかへと行ってしまったらしい。


 セジェンや白フードのことで、不穏な空気を感じたアルドとフィーネは、四女ルクバーを訪ねるため、地図に書かれたところへと向かったのだった。

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