47話 最終話
それからの日々は慌ただしく過ぎていった。
父様と叔父様の残した膨大な資料に目を通し、改めて領内の状況を理解するのは大変だった。
「ただいま!」
「おかえりカラ」
「りんごを貰ったよ!」
「わぁ、立派なりんごだね」
その間、カラは城の周りを見て歩いているらしい。
気が付けば農家からなにか貰ったりする仲になっている。
「セロン領は田舎だから退屈じゃない?」
「ううん? 王都のごみごみした街なみよりもあたしは好きだよ。それにアレンの故郷じゃない」
「……そうだね」
いまやカラはルベルニア風のドレスを堂々と着こなすようになっていた。
城の人達はセントベル島からの客人として彼女に接している。
「もう少ししたらセントベル島に帰れるからね」
「うん。お土産をたっくさん持っていこうね」
「ああ」
それから数日後にはセントベル島に一旦帰るにあたっての家令への引き継ぎ事項もまとめることが出来た。
「じゃあ、帰ろうかセントベル島へ」
「うん!」
こうして僕とカラはセロン領を後にしてセントベル島へと帰るため、港街に向かった。
「アレン殿……いやアレン様、当ミラージュ号は安全に航海してセントベル島に向かいます」
「うん、よろしく頼むね」
久々にグェンとも顔を合わせたな。彼は今は石鹸を本土に運ぶ為に忙しくしているのだが僕の為にわざわざ船を寄せてくれた。
「家族はどう?」
「あー、忙しくてめったに会えなくて」
「会える時は会った方がいいよ」
「……はい」
僕の家族は領地に振り回されてバラバラになってしまった。
ついないがしろにしてしまうかもしれないけど、大事にしなきゃだめだと思う。
そんなこんなで数週間。ミラージュ号はセントベル島へとたどり着いた。
「ただいまみんな!!」
船を降りた途端、わっとみんなが駆け寄ってくる。
「アレン様」
「セドリック、叔父様は監獄島送りになった。セロン領は戻ってきたよ」
「……そうですか」
セドリックはほんの少し複雑そうな表情を浮かべて頷いた。
「お館様、おめでとうございます!」
「うん、ありがとうラリサ」
本当になにも持ってない僕に、この二人は最初から付いてきてくれた。これには感謝しかない。
「カラ!」
「兄さん」
カラの元へも兄のヴィオと父親のルアオが駆け寄る。
「ルベルニアはどうだった?」
「うん、寒かった!! あとね、あとね……」
カラのお土産話は長くなるぞ。
「それじゃあ宴会だ! マリー! エリーとケリーも呼んでご馳走をたっくさん作って!」
「かしこまりました、マスター」
「俺はちょっと鹿を取ってくる!!」
ヴィオが弓を手にして森の中に入っていった。
「ふう……少し休もうかな」
「なにかお飲み物を用意しましょうか」
「そうだね、ありがとうセドリック」
船の上はいまいち気がやすまらないものね。僕はもうおなじみの灯台の中のベッドに行って少し仮眠をとることにした。
「ごろーん! ああ落ち着く」
以前は木々の音や波の音に怯えながら眠っていたのに慣れって怖いなぁ……なんてことを考えていた時だった。
「失礼します」
「ああ、セドリック。飲み物はそこに置いておいて」
「あの……少し話をいいですか?」
「へ?」
いつになく神妙な声色に、僕は不思議に思って体を起こした。
するとそこにはセドリックだけじゃなく、ラリサもいる。
「どうしたんだ、二人とも」
「それが……その……」
セドリックは何度も切りだそうとして口を濁らせる。珍しいな。
「しっかりしなさい!」
「い、痛!」
ついにラリサがセドリックの背をはたいた。
「あのですね、アレン様! 私とラリサの結婚を認めて戴きたいのです!」
「……へ? 結婚?」
「はい」
冗談だろ、だってセドリックとラリサはいつも喧嘩ばかりして……とラリサを見ると、彼女は顔を真っ赤にしている。
「お館様……どうかお願いいたします」
だけどラリサは頬を赤らめながらも真剣な表情で僕に頭を下げた。
どうやら二人は冗談を言っているわけでもなく本当に僕に結婚を認めて貰いたがっているらしい。
「そうか……二人が真剣ならもちろん祝福するよ」
「……! ありがとうございます」
セドリックが僕の手をぎゅうと握った。
「ラリサと夫婦となってこのセントベル島を治めるお手伝いをしていきたいと思います」
「うん……二人とも幸せになってね」
これから僕はセロン領とセントベル領の二つの領地を治めなくてはならない。
留守にすることも増えるだろう。
セドリックとラリサの二人にならここを任せるのに不安はない。
「ありがとうございました」
そうして二人は深々と頭を下げて、部屋を出ていった。
そっか……あの二人、いつの間にそんなことになっていたんだなぁ。
と、そこまで考えてハッとする。
これはヴィオが泣くだろうなぁ。
それから、マリーたちが用意したご馳走を囲んで宴会がはじまった。
「そこであたしがアレンを見つけ出して……」
「ほおほお」
カラが裁判の様子を面白おかしくみんなに伝える。
「えー……みんなの頑張りでこのセントベル島が認められたのが大きなきっかけだったと思います。皆に感謝を」
宴もたけなわになったところで僕がそう挨拶する。
「何もない流民同然の僕を支えてくれたセドリックとラリサ。それからこんな僕らに様々なことを教えてくれた島民のみんなに。乾杯」
「カンパァイ!!」
皆は楽しそうに酒を酌み交わしている。よし、今だ。僕はセドリックをちらりと見た。
セドリックは無言で頷くと立ち上がった。
「あーあー、ここで皆様に報告があります……」
***
「やっぱヴィオは泣いたな」
宴会ももう終盤だ。大人達はへべれけに酔ってその辺に倒れたりしている。
僕はその輪から少し離れて、砂浜で海風を浴びていた。
「アレン」
「カラ。ヴィオは?」
「父さんが村に連れて帰った」
「あちゃあ……」
まあ懸命な判断だろう。僕は苦笑しながら満天の星空を仰いだ。
「ああ、ようやくここまでこれた……」
「あのさ、アレン」
「ん、なに?」
「またセロン領に行く時はあたしを連れていってよ」
「へ?」
カラの意外な申し出に、僕は間抜けな声を出してしまった。
「だ、駄目かな?」
「いや、駄目じゃないけど……どうして?」
「あたし……アレンを支える人になりたい。セドリックやラリサみたいに。あとこの島とセロン領を繋げる人になりたい」
見ると、カラは真剣な顔をしている。
「そっか……カラ、真面目に考えてくれたんだね」
僕はその手を握った。
「是非、僕を助けて欲しい。その代わり、ここでは見られない様々な風景を君に見せてあげる」
「うん!」
カラが僕の手をぎゅっと握り返す。
「あ、流れ星」
「本当だ」
僕達は手を繋ぎながら、星降る空をじっと見つめていた。
――二つの領地のこれからの繁栄を願いながら。
~完~
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完結いたしました。
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絶海孤島の領地を与えられた僕は、この未開の地を世界一の楽園【リゾート】にすると決めました!~追放されたけれど、修復スキルを得た僕はここを最高に幸福な場所にします~ 高井うしお@新刊復讐の狼姫、後宮を駆ける @usiotakai
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